「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】コツコツと積み上げてより太くなったチームの幹。フェーズを上げた2つのターニングポイント

とにかく見ていて楽しい。ワクワクする。
勝った試合も、引き分けた試合も、あるいは負けた試合も、アビスパの戦いぶりを見ながらその感情が消えることはなかった。そんなチームができたのもこの1年間、いや長谷部監督が就任して2年、みんなが一体となって毎日コツコツと力を蓄え、それをピッチで余すことなく選手たちが“成長”を実感させるプレーを毎試合見せ続けてくれたからであろう。

今シーズン、J1で順位は8位。積み上げた勝点は54。クラブ史上最高の順位であり、最高の勝点。終わってみれば素晴らしいシーズンとなったが、ここに至る過程は、まさに山あり、谷ありだった。2021年シーズン、アビスパにとってターニングポイントは多くあったと思うが、筆者は2つ挙げたい。

まずは4月14日のアウェイ川崎戦。この時点での成績は2勝4分3敗。上位候補と目されるチームとの対戦が続き、今ひとつ波に乗れない状況で立ち向かった相手は絶対王者。プレー強度、切り替えの早さ、そしてプレー一つひとつに対するこだわり。王者の力を見せつけられ、結果は3-1の敗戦。だが、試合が終わった瞬間、すぐにこんな感情が湧いた。「悔しい」。それは選手も同じだった。試合後、石津大介は「正直、これまでで一番悔しいと言ってもおかしくないぐらい、今、悔しさがあります」と語っている。

なぜそんな感情が湧いたのか。それはディフェンディングチャンピオンに対し、何もできなかったのではなく、通用した部分と差を感じた部分がはっきりと分かったからであろう。ここはいける。ここはもっとやらなければ、川崎に限らずJ1のチームには勝ち続けられない。この試合で明確になった“基準”はアビスパにとって自信となり、糧にもなった。

そこから中2日で迎えたホームFC東京戦でそれはよく表れていた。より強く感じる闘争心。球際で負けずに粘り強く最後まで戦うタフさ。村上昌謙が見せたビックセーブや後半アディショナルタイムに志知孝明が見せたドリブルで前進する姿は今でも鮮明に記憶されている。ブルーノ メンデスの決勝ゴールでこの試合を制すと、その勢いはクラブ新記録となるJ1での6連勝へとつながっていく。

ただ、長いシーズンを勝ち続けることは難しい。アウェイ大分戦から今シーズン最長となる5連敗を喫し、東京オリンピックによる約3週間の中断期間に入った。今シーズンで一番苦しい、まさに正念場が訪れる。だが、ここでブレることはなかった。何かを劇的に変えるのではなく、チームの変わらない信念の基にもう1度自分たちのやるべきことを見つめ直した。自分たちは何が良くて、何が足りないのか。基盤を固め直した。より大きく、揺るがないものとした。

そして、2つ目のターニングポイントである8月9日のホーム広島戦を迎える。中断期間を経て、より高くなったプレー強度とチーム全員の献身性が生むハードワーク。前半からアビスパらしく戦い、主導権を握る。しかし、67分に先制点を許し、さらには退場者を出す苦しい展開に。良い試合をしてもまた勝点を取れないのか。そんな考えを吹き飛ばしたのはベスト電器スタジアムに集うサポーターの大きな手拍子だった。

このままホームで負けてたまるか。サポーターのそんな想いがこの試合でより強くなったように感じた。スタジアムにこだまする手拍子は時間を追うたびに大きくなり、最後まで諦めずゴールに矢印を向ける選手たちの背中を押し続けた。そして、後半アディショナルタイムに生まれたキャプテン前寛之の劇的な同点ゴール。勝点を取り切るしぶとさ、劣勢を跳ね返す勢いではない本当の地力、そしてチームとサポーターが一体になったホームの力で暗いトンネルを抜け出した。

フェーズを上げたアビスパがあったからこそ、その後の川崎戦や鳥栖戦の歴史的な勝利につながり、最後まで勝点を積み上げ続ける要因になったことは確かだろう。そして、ホームゲームではこんな数字も残っている。今シーズン通算14勝のうち、10勝はホーム。さらに広島戦やシーズン終盤の横浜FC戦、仙台戦の劇的なドローも加えるとホームで「33/54」の勝点を手にしている。これもホームの力の大きさを表した数字だ。

「J1で10位以内、勝点50以上」の目標を掲げ、それを見事にクリアしたアビスパ。選手や監督、コーチ、クラブ、スポンサー、そしてファン、サポーター。アビスパに関わるすべての人が一心同体となって“成長”し続けた2021年シーズン。みんなの心に強く刻まれる最高のシーズンとなった。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

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