「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】パワー不足を感じた攻守におけるハードワーク。さらに強くなるために乗り越えなければいけない壁

2021明治安田生命J1リーグ 第31節
2021年10月2日(土)13:34キックオフ
会場:ベスト電器スタジアム/6,216人
結果:アビスパ福岡 1-2 清水エスパルス
得点:[清水]チアゴ サンタナ(27分)、カルリーニョス ジュニオ(48分)、[福岡]ジョン マリ(81分)

「いつものアビスパはどこに行ったのだろうか」。試合開始直後から抱き続けたその感情は試合終盤まで拭えなかった。自分のため、チームのために走り続け、アグレッシブに戦い続ける。そんなアビスパらしさを象徴する「ハードワーク」の力強さでこの試合では長い時間相手を上回ることができなかった。

戦略や戦術以前にサッカーの根底にあるもの。ハードワークが生む球際の激しさ、切り替えの早さが生むセカンドボールへの反応、そして、戦う姿勢がフィフティ・フィフティのボールをものにし、試合の主導権を握るのがサッカーであり、その「良い守備」から「良い攻撃」につなげるのがいつものアビスパ。ただ、「良い守備」の前提としてある球際の争い、戦う部分の姿勢で相手の清水にこの試合では劣っていたように感じる。

それは「良い攻撃」につながらないことも意味していた。ボールを奪っても相手の切り替えのほうが早く、アビスパの持ち味の1つである素早い攻撃に移行する前にしっかりと守備ブロックを構えられ、遅攻からビルドアップしようとしても前線の動き出しが少なく、パスコースが制限されてしまう。その瞬間、清水はコンパクトな守備ブロックを連動させ、前線から積極的にプレス。果敢にボールを奪いに来る。アビスパはボール保持率こそ高いものの、狙いとする攻撃ができず。言わばボールを「持たされる」状態が長く続いた。

強く印象に残ったのは、縦横無尽にピッチを駆け回る清水の藤本憲明のプレーぶり。守備では絶え間なく上下動を繰り返し、CBへ、時にはGKへのプレッシャーとプレスバックでのボランチのケアを怠らず、チャンスと見るやボール奪取。そこからカウンターの起点となり、FWとして攻撃にも強く関与。絶妙なポジショニングでビルドアップの「出口」にもなり、ゴール前の脅威になり続けた。だからこそ、先制点の場面に絡んだのも必然のことにさえ感じる。攻守に強くハードワークし続ける藤本のようなプレイヤーがアビスパ側にこの試合では何人いただろうか。

試合後、清水の日本代表GK権田修一がこんな話をしてくれた。
「まず好調ということもあって、シンプルにアビスパさんは本当にいいチームだなと感じました。一人ひとりが戦っていますし、全員が自分の仕事をやるというところで、サッカーはまずそういうところがベースになっているというのを本当に見せられましたし、僕たちもそういう相手に負けないために、そこの部分はこだわろうということで、いい意味で、きっかけをもらえるような、そんな試合だったと思います。セカンドボールの反応の早さやボールホルダーへの寄せの強さの部分は、アビスパさんと試合させてもらって、僕らがスカウティングをしていてもそうですし、実際に試合をしてみてもそうでしたけれど、彼らのプレッシャーに来る迫力というところは、前節の神戸戦もそうでしたけれども、僕たちの一番足りないところを本当に高いレベルで(アビスパは)やっていました。僕たちはそこで勝たなければいけないというところを、このタイミングでアビスパさんと試合ができて幸せだなと思うくらい僕たちに思い出させてくれました」。

サッカーは相手のあるスポーツ、ましてや1年間の長いリーグ戦でどのチームも清水のように研究も重ねてくるし、意識も高めてくる。さらに清水にはJ1残留を掛ける強い気持ちもあった。この試合は久しぶりのデーゲームとあって暑さの影響も多少なりともあったはずだ。

当然、どの試合も100%全てが上手くいくことはないのだが、強いハードワーク、そしてアグレッシブに戦う姿勢で相手を上回らなければ簡単に勝利は掴めないことを痛感させられた一戦であると同時に、それを凌駕する力を今のアビスパは持っているからこそ、終盤に起こした反撃も、ここまで積み上げた「46」という勝点もあると感じる一戦でもあった。

残りはあと7試合。ここからもJ1残留を争うチームとの対戦も多く残っている。清水と同様にどのチームも勝利への執着心をより強く持ってハードワークしてくる。そんなチームに打ち勝つ「攻守においてのハードワークの強さ」を長い時間安定して見せたとき、また一つ階段を登ったアビスパになる。筆者はそう確信している。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ