「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】システムが変わろうとも不変のチームとしての姿勢。3バックで積み上げた必然の「勝点5」

サッカーにおいてシステムは重要な役割を果たす。いわゆるスタートポジションとしてそのポジションからボール保持時にはどう動き、非保持の時にはどう動くか二次的配置の“指標”となるものだからだ。ただ、それがすべてではないとアビスパは3バックを採用したこの3連戦で教えてくれた。

33節の札幌戦でこれまでの4-4-2から3-4-2-1へと変更。その日のメンバー表を見た瞬間、驚きと納得感があった。驚きは長谷部監督が就任してから一貫して採用し続けていたシステムを初めてスタートから変えたこと。納得感は札幌のミシャ式と言われる独特な戦術の特長を消すことに重きを置いたと解釈をしたからだ。ただ、蓋を開けてみると違った。もちろん強固な5-4-1の守備ブロックを敷いてスペースを埋め、相手の特長を消していた。ただ、引きっぱなしではない。ここぞという時には、チームとして前線から連動してボールを奪いに行き、チームとして連動してゴールに向かい続けてのスコアレスドローだった。次の大分戦、立ち上がりは相手の工夫によって、プレスがハマらなかった。ただ、慌てることなく試合中にチームとして修正を施し、最後はきちんと主導権を持ちながら勝ち切った。横浜FC戦は先制点を奪われても焦れなかった。途中出場の選手がチームを活性化。最後はシステムを変えて同点ゴールを奪い、土壇場でドローに持ち込んだ。

片や筆者がイングランド・プレミアリーグを好きになるきっかけを与えてくれたクラブ、マンチェスター・ユナイテッドの現状はどうだろう。9節、ナショナルダービーと言われるリヴァプールとの伝統の一戦で0-5の大敗。ホームで屈辱を味わい、システムをこれまでの4-2-3-1から10節アウェイのトットナム戦では3-5-2に変更。その試合こそ勝利をしたものの、11節マンチェスター・シティとのマンチェスターダービーではまたしてもホームで0-2の敗戦。スコア以上に内容には大きな差があった。クリスティアーノ・ロナウドやブルーノ・フェルナンデスを筆頭に個の力はリヴァプールやマンチェスター・シティと互角と言ってもいいほど世界最高峰の選手が揃っているのだが、システムに関係なく、明らかにチームとして機能していない。映像を見ながらただただ、悲しみにくれた。

もちろん、リーグのレベルや各々のクラブが抱える背景なども違うため、単純な比較はできない。ただ、この2チームを見ていて、どちらが連動性を持って組織的に同じ絵を描けているのかを考えると間違いなく前者にしか思えない。戦術がどうとか、システムがどうとかは二の次。それ以前にチームとしてピッチに立つ11人はもちろん、所属する選手全てが同じ方向に向かってプレーできる指針をきちんと示せているか、それを全員が腑に落ちるような伝え方、環境作りができているか。それを司るのは監督であり、その視点で見てみると長谷部監督の凄みも分かるし、現代サッカーにおいてその役割がどれほど重要かも理解できる。これまでコツコツと積み上げてきたチームとしての共通理解、ベースがしっかりあるからこそアビスパは誰が出ようとも、システムがどうであろうと大きな遜色なく、変わらぬ姿勢を示し続け、課題はありつつも着実に勝点を積み上げている。残り3試合もシステムに関係なく、チームとして根底にある変わらぬ姿勢で目標の10位以内に向かって突き進んでいくアビスパが楽しみだ。

【武丸善章=文/中倉一志=写真】

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