「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】J1残留をJ1定着のスタートにするために、より求められるしたたかに戦うための「強度」と「質」

2021明治安田生命J1リーグ 第32節
2021年10月16日(土)16:03キックオフ
会場:ノエビアスタジアム神戸/11,301人
結果:ヴィッセル神戸 1-0 アビスパ福岡
得点:[神戸]ドウグラス(86分)

サッカーにはいろいろな見方がある。特にゴールシーンはどのカテゴリーでも、どんな試合でも話題になり、様々な意見が飛び交う。どうしてゴールを奪えたのか、どうしてゴールを失ったのか。一つとは限らない“正解”を語り合うのがサッカーの醍醐味である。

粘り強く戦う中で86分に失った決勝点。この場面はどうだろうか。
左サイドから上げられた初瀬亮(神戸)のクロスの質の高さや、身体能力も高くJ1での実績も十分のドウグラス(神戸)の高い打点でのヘディングの強さが示すように、個の能力が高かったという見方も一つとしてあるが、それ以上に持ち前のフィジカルで1対1の強さを誇る湯澤聖人が競り合いで負け、あのような形でシュートを許してしまったことに驚きを感じた。もちろん、湯澤を責めているのではない。途中出場でフレッシュな状態だったドウグラスに対し、90分近くフルパワーで戦い続けた湯澤のマッチアップで疲労という“ギャップ”が生まれていたことは確か。だから、長谷部監督は次のプレーで輪湖直樹を投入する準備をして対策を図ろうとしていた。もう少し交代が早ければ防げたという見方もできるが、それは正直誰にも分からない。

ただ、このシーンで現実に起きた2人のマッチアップでの疲労という“ギャップ”にはアビスパがJ1でより高みを目指す上で鍵となる、チームとして試合全体の戦い方の「質」を上げることの必要性が詰まっているように感じる。

湯澤は失点直前のプレーが切れた際、両膝に手をついていた。アビスパで一二を争うスタミナを持つと思われる湯澤が疲弊していたということは、先発でプレーした選手全員がその状態に陥っていたことを意味するように思う。前半から神戸のアンドレス・イニエスタやセルジ・サンペールが舵を取るビルドアップを持ち前の連動性で制限し、狙いとする守備ができていた場面もあったが、それを良い攻撃につなげるシーンは少なかった。その最大の原因はボールを奪ってからの1本目のパスミスの多さだ。技術的な問題や神戸のプレッシャーの早さなど、局面によって発生原因は異なると思うが、そこでミスが発生することによって再び攻撃を受けてしまい、体力的にも精神的にも大きなダメージを受ける。それがボディブローのように蓄積される疲労につながり時間を追うたびにプレー強度が低下。終盤の失点シーンのようなことが起きるのは、ある意味で必然だった。

だからこそ、90分間高い強度で戦い続けるためにはもっと良い形でボールを保持する時間を増やすことが必要だと考える。もちろん、長谷部監督はボール保持だけにこだわっているのではないが、以前「(マイ)ボールを大事にしてゴールに向かっていく、図っていく」と話していたようにボール保持の大事さも考えにある。その質が高まったとき、神戸のような強豪チーム相手にも最後まで高い強度で戦い続けることができるし、勝つ可能性も高まる。その先にアビスパの次の目標である「J1定着」が見えてくるはずだ。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

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