「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】長谷部アビスパの神髄を表現した必然の2ゴール。「博多の森劇場」で掴んだ8試合ぶりの勝利

2021明治安田生命J1リーグ 第24節
2021年8月15日(日)19:03キックオフ
会場:ベスト電器スタジアム/4,063人
結果:アビスパ福岡 2-1 セレッソ大阪
得点:[福岡]山岸祐也(39分)、[C大阪]アダム タガート(45+1分)、[福岡]ジョルディ クルークス(90+6分)

前半終了間際に1-1の同点に追いつかれた。「もったいない」。9試合ぶりに先に1歩出たからこそ、前半も残りわずかだったからこそ、その瞬間は、そう思った。でもそんな感情はすぐに打ち溶かされた。失点しても変わらない選手のアグレッシブな姿勢とそれを支えるホームの力があったからだ。

後半はより勝利への貪欲さが増していく。「勝点1じゃ満足できない」。そんな空気がどことなくスタジアム全体に漂う。長谷部監督も手を打つ。杉本太郎、ジョルディ クルークス、ジョン マリ、輪湖直樹を次々と投入して勝負をかける。選手の気持ちは熱いプレーに、サポーターの気持ちは大きな手拍子に表れる。瞬く間にベスト電器スタジアム、いや、あえてこう書かせていただきたい。「博多の森」は劇場になった。

そして、思わず手元のノートにこう記した。「このままでは終わらない。何かが起こる」。

広島戦に続きドラマはまたしても起こった。時間は90+6分。輪湖直樹が右サイドへと展開。パスを受けたのはジョルディ クルークス。中央へ切り込む。左足を振り抜く。ボールはきれいな弧を描く。ジョン マリが懸命に足を伸ばす。そのままゴールに吸い込まれる。うわっ。おっ。よしっ。総立ちとなって歓喜に沸く「博多の森」。アビスパを8試合ぶりの勝利に導く“サヨナラ”ゴールとなった。

後半アディショナルタイムで追いついた広島戦、勝ち越したC大阪戦と劇的な試合が続いている。勢いだけではこんなことは起こらない。全ては用意周到だと自分は考える。
まず、C大阪戦の1点目、FKのクイックリスタートで相手への揺さぶりが始まる。C大阪の守備ブロックはゴールを守ることを第一に完全にバランスが整えられないままに下がる。ボールは右サイドへ。フリーで受けたエミル サロモンソンは中央を見た。山岸祐也がフリーだ。その瞬間、高精度のクロスが入る。山岸祐也は右足を振る。見事なハーフボレーをゴールに突き刺した。山岸曰く、クロスに対して、あのスペースが空くのはスカウティング通り。クイックリスタートといい、シュートに入るポジショニングといい、きちんと相手の隙を突いた。弱点を突いたのだ。

そして、2点目はジョルディ クルークスの得意の位置、角度だ。振り返ると同じような場面を何度も見ている。ルヴァンカップのアウェイ鳥栖戦ではゴールを挙げ、ホームの天皇杯の鹿児島戦やリーグの神戸戦ではアシストをしている。もっと言えば、試合前のウォーミングアップではものすごいスピードと高い精度でシュートを決め、クロスを味方に合わせている。まさに彼の実力、そのものだ。

チームとして同じ絵を描き、コレクティブなサッカーを展開しながらも個人の能力も色あせない。きちんと色が濃いまま、置かれた立場や状況で最大限の力を発揮させる。選手はもちろん、スカウティングに象徴されるように、コーチやスタッフもだ。それこそが長谷部アビスパの神髄のように感じる。だからこそ、この試合の2ゴールの必然性も疑わないし、劇的な試合が増えるのも当たり前のようにさえ感じてしまう。

土壇場で広島戦は勝点「0」を「1」にし、C大阪戦では「1」を「3」にした。勝点も、自分たちらしさも、確実に積み上がっている。今シーズンの目標に掲げるリーグ戦10位以上、勝点50に向かって、ここからさらにアビスパはどのような成長を遂げるのか。残りの後半戦が楽しみで仕方ない。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

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