「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【フットボールな日々】小春日和に誘われて高校サッカー選手権福岡大会。東福岡が2年連続22回目の出場を果たす

小春日和に誘われて、久しぶりに博多の森陸上競技場へと足を運んだ。スタンドに続くスロープを登っていくと目の前に青々とした芝生が広がり、暖かな空気がスタンド全体を包み込む。この日は第100回全国高校サッカー選手権大会福岡大会決勝戦が行われる日。開場間もなく、両校の選手たちの父兄の方々やOB、そして高校サッカーファンでメインスタンドの中央部分の大半が埋められていく。

その中から空いているスペースを見つけて腰を下ろす。一般観客としてサッカーを観るのは1997年以来のこと。取材者として入場しなかったのは、決勝戦だけを「したり顔」で取材をすることがはばかられたことと、スタンドの雰囲気を直接味わいたいと思ったから。記者席とはまったく違う空気に包まれるのが心地よい。ストップウォッチとノート、双眼鏡の三種の神器を持って、スタンドから試合を観ていた頃のことを思い出す。「初心忘るべからず」。そんな当たり前の言葉が頭に浮かぶ。

決勝戦に駒を進めてきたのは今年のインターハイ福岡県代表で、初の全国高校サッカー選手権大会出場を目指す飯塚高校(以下、飯塚)と、2年連続22回目の出場を目指す東福岡高校(以下、東福岡)。両校は今シーズンのスタートとなる福岡県新人大会、ならびにインターハイ福岡県大会の準決勝で対戦し、新人大会では東福岡高校が、インターハイでは飯塚が勝利して対戦成績は1勝1敗の五分で決勝戦を迎えた。

さて、久しぶりに見る高校サッカーは少しばかり驚きを伴ったものになった。東福岡の戦い方が私の中に刷り込まれていたものと違っていたからだった。東福岡と言えば華麗なパスワークと、大きなサイドチェンジからのサイドアタックが武器の攻撃的なチームという印象だったが、この日の東福岡は最終ラインを5枚にして自陣に守備ブロックを敷いて守りを固める戦い方を徹底していたからだ。華麗でお洒落というよりも、目の前の勝利に特化した泥臭いチームのように見えた。

対する飯塚は、大会プログラムによれば、「堅守智攻」をスローガンに、賢く守り賢く攻めるをモットーにするチーム。ボールを保持し、スペクタルなサッカーで観衆を魅了することを目指しているそうだ。なるほど、4-4-2のフォーメーションからボールと人を動かしながら相手ゴールを目指すプレーは、インターハイで全国ベスト16までコマを進めたのもうなずける。

試合は東福岡のペースで進む。8分、飯塚陣内深い位置での辻耕大選手のロングスローからゴール前の混戦を作り出し、最後は篠田純之助選手がオーバーヘッドでゴールネットを揺らす。そして、自陣に5-4-1の守備ブロックを敷いて守りを固める。その戦い方は、このまま1-0でOKとでも言っているかのように見える。そんな東福岡の前に、飯塚はボールを保持率で圧倒的に上回るものの、東福岡陣内に入れさせてもらえない時間が続く。

飯塚の同点ゴールは69分(40分ハーフ)。高い位置でのパスワークから右サイドを突破した池田光希のラストパスを村井天がゴールネットに突き刺す。東福岡の先制点が“らしい得点”なら、飯塚のゴールも自分たちのスタイルから奪ったゴールだった。そして10分ハーフの延長戦を制したのは東福岡。1点目同様にロングスローから相手をゴール前に押し込むと、再びパワープレー気味の展開から最後は大渕来珠選手の左足が決勝ゴールを生んだ。

お互いの力は五分と五分。得点シーン以外では両チームともにチャンスは多く作れなかった。だが、それも東福岡の狙い通りだったのではないか。相手の良さを消して膠着状態に持ち込み、少ないチャンスを相手にまさるパワープレー気味の攻撃でゴールをこじ開ける。そんなゲームプラン通りの勝利だったように思う。インターハイ県予選準決勝で敗れた相手に二度負けるわけにはいかない。東福岡のそんな気持ちがわずかに飯塚を上回った試合だった。

試合後、大勢の観客に囲まれて駅への道を歩く。あちこちから聞こえてくるサッカー談議。そんな空気感も心地良い。観客としてサッカーを観る楽しさを思い出した。

[中倉一志=文・写真]

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