「football fukuoka」中倉一志

福岡を支える「強い思い」

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レベスタが熱く燃えた日
11月14日、スタジアムに集まった観客の数は15,750人。その想いがバックスタンドに描き出される。たなびくビッグフラッグの後ろから現れたのは「J1」の文字。その文字に向かって、選手たちが真っ直ぐにピッチの中を進んで行く。それは追い求め続けて来た舞台。何があっても、この手で掴む。そんな意思がスタジアム全体に広がっていく。対戦相手は関係ない。自分たちの力を発揮すれば必ず勝てる。選手の背中に自信がみなぎる。

10分、スタジアムの歓声が一段と大きくなる。その視線に先にいたのは中村北斗。対峙する相手を瞬間のスピードで振り切って前へ出る。「俺が北斗だ」。その姿は、そう主張しているかのようにも見えた。そして35分。その北斗が、スタジアムに集う全員の想いを形にする。中原秀人のクロスをファーサイドで受けて右足を一閃。ゴールネットを大きく揺らす。そして、このゴールが決勝ゴールとなって、福岡はJ1自動昇格の可能性を残したまま、リーグ最終戦を迎えることになった。

「ちょっと、うるっときた」。ミックスゾーンで北斗はそう答えた。シーズン序盤は、自身の7年ぶりの復帰に期待を寄せるファン、サポーターの想いに反して、コンディションが上がらない日々が続いた。そのギャップをどうやって埋めるのか。北斗にとっての2015シーズンは、そんな葛藤との戦いだったのかもしれない。しかし、ここへ来て4試合で3得点。感情が高ぶったのは、今シーズンにかける自身の想いと、それを形に表す喜び、そしてファン、サポーターの熱い声援がシンクロしたからに違いない。

感じられる1人、1人の想いの強さ
北斗に代表されるように、今シーズンのアビスパは、1人、1人の想いがひしひしと伝わってくる試合が多い。序盤戦にチームをけん引したのは中原貴之。膝の古傷の状態は深刻で、長い時間のプレーは難しいと思われていた。ところが、福岡に加入すると同時に、膝の痛みが嘘のように消えた。そして、第3節札幌戦で「自分でも覚えていない」という久しぶりの先発でスタートすると、86分間に渡ってプレー。以降、先発の座を掴み、自らのゴールでチームを11戦無敗に導いた。「いつ壊れるかは分からない。それでも、膝が壊れてサッカーが出来なくなるまでやる」。そう公言する彼のプレーは、多くのファン、サポーターの心を捉えた。

中盤を支えるのは末吉隼也と鈴木惇の2人。ともに3年振りに福岡へ帰って来た。
「自分がひと回りも、ふた回りも大きくなって、アビスパに貢献したいという想いがあった。帰ってこれて感謝している」(鈴木惇)
「自分から出て行ったので、オファーが来るとは思っていなかった。オファーをもらった時は驚いたし、嬉しくもあった。この2年間で経験したことを還元して、チームに貢献したい」(末吉隼也)
そして、2人は、そんな想いを結果で表現してきた。

鈴木はチーム最多の9得点(第41節終了時)を挙げたばかりか、セットプレーをはじめ数多くのゴールに絡み、ペナルティエリアへ飛び込んでくるプレーは、以前とは違う鈴木になったことを示す。そして、末吉は得意のミドルレンジからのシュートで貴重なゴールを挙げただけではなく、時に攻撃に、時に守備にと、チームのバランスを取る重要な役割を果たす。「チームが勝ってこその自分の評価。チームが勝たなければ意味はない」と話すが、それは過去2年間で学んだこと。その経験をチームの勝利につないでいる。

今年も新しい自分を見つけようとプレーしているのは坂田大輔。過去3年間、ある時はFWとして点を取ることだけを求められ、ある時は前線からの守備を求められ、そして、現在のポジションは途中出場。試合の流れを変え、あるいは試合を終わらせる役割を担う。「まずは監督に求められることを表現するのが大前提」と話し、15年目を迎えてもなお、常に新しいスタイルに挑戦し続けている。

想いがひとつになった強さ
レギュラーに代わって登場した選手が結果を出しているのも、今シーズンの福岡の特長のひとつだ。その代表例が田村友であることは言うまでもないだろう。出場機会に恵まれない前半を過ごした田村にチャンスが回ってきたのは第25節京都戦。正直に言えば、ディフェンスラインに怪我人が続出したために回ってきたポジション。田村には失礼だが「苦肉の策」といった感は否めなかった。しかし、高さと対人プレーの強さを存分に発揮した田村は、2-1の勝利に大きく貢献。これがレギュラー定着へとつながった。

「試合に出られない悔しさはあったが、出ればやれる自信はあった」(田村)
その言葉通り、35節以降、17試合すべてに先発出場し、この間の失点は僅かに6。チームは13勝3分1敗と圧倒的な強さを示している。もちろん、守備はディフェンスラインだけでやるものではないが、彼の存在が守備の安定に大きく貢献していることは間違いない。

そして平井将生。まずは守備から入る今年のチームスタイルの中で、一時はベンチ入りさえ出来ない日々が続いた。それでも心は折れていなかった。「やり続けることが大事だということは分かっていた」。そして迎えた第39節横浜FC戦。城後寿に代わってピッチに立つと、その想いを形にした。68分、ウェリントンが落としたボールを拾って一直線にゴールへ。最初のシュートはGKに阻まれたが、そのこぼれ球を落ち着いて流し込んだ。「自分のプレースタイルからすれば、あそこは狙っていなければいけないところ」。ミックスゾーンでは淡々とゴールを振り返ったが、だからこそ、彼の胸の内が強く伝わってきた。

中原秀人も、ここへ来て存在感を示している。今シーズンの役割は、あくまでも末吉と鈴木のバックアッパー。昨シーズンまでは攻守の要としてチームを支えていたが、「去年までが、いかに自分が恵まれていたのかが分かった」という言葉は、レギュラー争いへの敗北宣言のようにも聞こえた。しかし、自分の実力を客観的に理解し、整理することはあっても、常に強い気持ちでプロ生活を送ってきた中原が、ポジション争いを諦めているはずはなかった。

チャンスが回ってきたのは、第38節徳島戦。試合中に怪我を負った鈴木惇に代わってピッチに立った。さすがに、この試合ではチームに馴染むのに時間がかかったが、翌横浜FC戦からは、ここまでベンチに甘んじていたとは思えないプレーを披露。鈴木欠場の穴を全く感じさせないばかりか、チームの攻守の要として堂々と中盤で存在感を示している。「自然に体が動いた」とたびたび口にするが、それは日頃のトレーニングで小さなことを積み重ねて来たからこその成果だ。

気持ちを感じさせるのは彼らだけではない。キャプテンとしてチームを牽引し、チームのために献身的にピッチを走り回る城後寿。「チームをサポートするためにここへ来た」と公言し、攻守に渡って起点を作るウェリントン。フィジカルの強さと前への推進力に加え、安定感が増してきた酒井宣福。リオ五輪を目指す金森健志、亀川諒史、中村航輔の若手トリオ。怪我人が続出する中、最終ラインをまとめて来た堤俊輔。そして、ベンチに控える選手も、ベンチに入れない選手も、サッカーにかける想いを表現し続けている。そうした1人、1人の強い想いがひとつになった強さが、いまの福岡にはある。

最後まで福岡らしく
そして福岡は11月23日、自動昇格の可能性をかけて岐阜へ乗り込み、今シーズン最大の山場と言ってもいい試合を迎える。しかし、誰1人気負った姿は見せない。欲がないわけではない。誰もが自動昇格を果たすことを強く願っている。けれど、最終的な結果に心を奪われることなく、いつものように、ただ目の前の試合に勝つことだけに集中する姿がある。自分たちがやるべきことだけに集中している姿がある。「人事を尽くして天命を待つ」。そんな言葉が、今の福岡には似合う。

それぞれの想いの強さが今シーズンの福岡の強さの要因なら、自分たちのやるべきことに集中する姿も今シーズンの福岡の象徴。それを貫いてきたからこそ、現在の位置にいる。そんなチームとともに、福岡に関わる多くの人たちが、長良川競技場で、パブリックビューイングの会場で、そして、それぞれの場所で、心をひとつにしてリーグ最終戦を戦う。選手たちと同じように、結果に心を奪われることなく、目の前の試合に勝つことだけを考えて戦いたい。最後まで福岡らしくありたい。それを貫いた時、サッカーの神様は、きっと福岡に微笑んでくれるはずだ。

【中倉一志=取材・文・写真】
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