ヴァンフォーレ甲府の吉田達磨監督がまだ着手していないもの【試合分析】明治安田生命J2リーグ 第7節 2022年3月30日 ブラウブリッツ秋田 0-0 ヴァンフォーレ甲府 【無料記事】
目次
■J2第7節のフォーメーションとスタメンから見る、まだ変化させていない項目
■両チームのフォーメーションを組み合わせた図から見る攻防
明治安田生命J2リーグ 第7節 ブラウブリッツ秋田 0-0 ヴァンフォーレ甲府
省略記号一覧
■J2第7節のフォーメーションとスタメンから見る、まだ変化させていない項目
甲府は前節・横浜FC戦[1●2]からメンバーを5人替えてきた。CFウィリアン リラから三平 和司、ST宮崎 純真を鳥海 芳樹、WB荒木 翔に関口 正大、CH野澤 英之から松本 凪生、SP野澤 陸をレナト ヴィスキにチェンジする。チームに変化を加えるためには、主に3つのやり方が考えられる。
- 立ち位置を変える。
- フォーメーション、システムを変える
- 選手を変える
1.の「立ち位置を変える」は、例えば相手が2トップの場合、こちらが4バックで2人のCBだった時に、ビルドアップの際に両SBが高い位置を取っていたならFW2人対CB2人の数的同数になる。そこを2対3の数的優位にしたいので、両CBが両サイドに開いたところの真ん中にCHが降りて3人でディフェンスする。したがって、CBとCHの立ち位置に変化を持たせたことになる。
甲府がやっている「立ち位置を変える」は、2人の両SPを残して2CBにし、真ん中のCBをCHの位置に一列上げて攻撃の起点にすることである。3.の「選手を変える」は、毎試合試みている変化である。具体的に、まだ着手していないのが2.の「フォーメーション、システムを変える」である。191cmのブラジル人FWブルーノ パライバの加入で「フォーメーション、システム」 に変化があるかもしれない。
2017年に甲府がJ1リーグで戦っていた時、監督は吉田 達磨だった。当時の甲府のシステムは「5-3-2」である。その時に、ブラジル国籍のFWウイルソン ロドリゲス フォンセカが在籍していたので、彼を中心にチームを作っていった。内部事情として、ウイルソンをメインにシステムを作っていかなければならない状況だったのかもしれない。吉田監督の本意はどこにあったのか分からないが、リーグ戦21試合に出場して2得点の結果しか残せなかった。ベガルタ仙台から移籍してきた時に、契約条件に出場の項目がどうなっていたのかは公表されていない。ともかく吉田監督は、ウイルソンを活かすシステムとして、2トップを選択した。
シンガポール代表監督時代は、「4-3-3」や「3-4-3」のシステムを採用していた。その際は、中盤にタレントが何人かいたために、彼らを活かすようなシステムが用いた。いまの甲府のシステムを3ラインで示せば「5-4-1」、あるいは「3-4-2-1」と表記できる。このシステムも所属する選手の特性を見極めての選択と過去の継承からの採用であろう。選手の特性を活かすやり方として、ブラジル人FWブルーノ パライバをピッチに立たせるのに、ウィリアン リラと2トップを組ませるかもしれない。長身のブルーノ パライバをポストプレーヤーとして起用する可能性もある。
いずれにせよ、吉田監督がまだ手をつけていないのが、2.の「フォーメーション、システムを変える」であるので、そこは注目される箇所である。
■両チームのフォーメーションを組み合わせた図から見る攻防
甲府は「3-4-2-1」のフォーメーションで、守備時には「5-4-1」になる。秋田は「4-4-2」の3ラインを作って陣形を守っている。前節のコラムでも記したが、秋田戦の甲府のテーマは、前半に失点しないことであった。実際に、試合後の監督インタビューを読んでも、失点しなかったことを評価している。チームは少しずつしか進化をしないと考えれば、この試合での無失点は大きな進歩と言える。
試合自体を見れば、秋田の戦略にハマったゲームだった。秋田とすれば、前線から激しいプレスを仕掛けてくるだろう甲府の圧力を利用したい。そのために、ボールを中盤まで進めたら、あえてボールを後ろに下げる。そうすると、甲府のDFはラインを上げる。その瞬間に、甲府DFの背後にロングボールを入れる。秋田のFWと甲府のDFが走り合って競争する。秋田からすればFW吉田 伊吹がオフサイドになるのは了解済み。もしも、競り合って抜けられたならフリーになれるチャンスがあるので、「ここ」という機会を見て何度もチャレンジする。
甲府は、両WBがピッチの幅を取ってワイドに構える。秋田は「4-4-2」のゾーンで守っているので、ボールサイドに選手が寄っていく。逆サイドは人数が手薄になる。したがって、WBがタッチライン沿いにポジショニングすることが重要になってくる。
吉田監督の攻撃面に関しては、すごく「シンプル」にやっているように見える。秋田の3ラインのライン間に起点を増やしたいと考えている。秋田は「4-4-2」の3ラインを組んでいるので、相手のラインをどうやって越えていくのかや、幅や深さを誰がどうやって作っていくのかをテーマにしている。つまり、秋田の中盤のラインはCHとひとつ上がってきた山本 英臣、最終ラインをSTの長谷川 元希や鳥海 芳樹がどうやって越えていくのかを任せている。おそらく、トレーニングで十分にそのやり方は落とし込まれているはずだ。また、幅や深さは、WBの関口と須貝 英大に担わせる。CFのウィリアン リラは、攻撃面では動きに自由を与えているように見える。
守備面では、3バックのSTの両脇が空くので、そのスペースを埋めるためにWBを最終ラインに合流させて5バックにする。吉田監督の考え方として、相手CBにボールを持たれてもいいと考えている。逆に、自陣で相手にスペースを利用されたくないので、1トップの「5-4-1」を採用している。こうした考え方を変えて、CBにもボールを持たせたくないとなったら、2トップの「5-3-2」にしてくるかもしれない。その場合、ブルーノ パライバとウィリアン リラの2トップか、三平を絡めた選択になる。
甲府のボール保持率が高かったのは、甲府がボールを持っていたのではなく、秋田にボールを持たされたのだ。この試合の真相は、そこにある。しかし、前半を失点なしで切り抜けたのは大きな進歩である。チームは、一歩一歩しか前進していかない。吉田監督が就任したからと言って、突如強いチームが現れるわけではない。また、31試合で9得点だったウィリアン リラが、2倍の18点を取れる保証などどこにもない。試合を見ていて、一段ずつ階段を上がっていっているのは十分に分かる。その積み重ねだけが、明日への希望であり、未来を作っていくのである。
川本梅花