川本梅花 フットボールタクティクス

霜田 正浩監督が言う大宮が目指すべきサッカーは本当にやるべきサッカーなのか。【試合分析】明治安田生命J2リーグ 第9節 2022年4月9日 大宮アルディージャ 1-3 ヴァンフォーレ甲府【無料記事】

目次
J2第9節のフォーメーションとスタメン
両チームのフォーメーションを組み合わせた図
目指すべきサッカーが本当にやるべきサッカーなのか。
明治安田生命J2リーグ第9節 大宮アルディージャ 1-3 ヴァンフォーレ甲府

省略記号一覧

第9節の大宮のフォーメーションとスタメン

大宮は、前節のレノファ山口FC戦(0●1)からCHを小島 幹敏から矢島 慎也、WGを奥抜 侃志から髙田 颯也に変更してきた。フォーメーションは「4-3-3」の中盤を逆三角形にする。山口戦同様に、アンカー役は大山 啓輔を置いた。両WGに若いドリブラーの柴山 昌也と髙田を起用した。

J2第9節の甲府のフォーメーションとスタメン

甲府は、SPをレナト ヴィスキから野澤 陸に、CHを松本 凪生から林田 滉也にチェンジしてきた。フォーメーションは「3-4-2-1」である。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

両チームのフォーメーションを組み合わせると、注目すべき場所が何個か出てくる。その中でシステム上マッチアップするのは4つになる。丸で囲んである大宮のWGと甲府WB、大宮のIHと甲府のCHである。マッチアップする4つの場所は、ゲームの流れを左右するポジションである。

目指すべきサッカーが本当にやるべきサッカーなのか。

大宮対甲府の試合は、周知の通り、後半から出場したFWブルーノ パライバの活躍によって、甲府が3-1で勝利した。敗れた大宮の次節は、4月16日のジェフユナイテッド千葉戦になる。甲府の次節は、同日にツエーゲン金沢との一戦になる。大宮は、チームのテコ入れとして、原 博美がフットボール本部長に就任した。15日の練習前に原本部長が選手に向かって強いメッセージを投げかける。以下の映像がその場面だ。

原本部長が述べた言動はもっともな内容である。確かに、ピッチで自分の存在を証明しようと表現するのは選手自身である。ボールが自分にこなければ「よこせ!」と強くアピールするべきだし、対人に関しても、もっと激しくプレッシャーをかけるべきだ。それは、おそらく選手も分かっているだろう。しかし、問題は別なところにあると筆者は考えている。霜田 正浩監督が理想として推し進めるサッカーが、いま在籍する選手の質に合っていないのではないのか、という疑問である。千葉戦を前にした囲み取材でのコメントを見てみよう。

失点を減らすための方策として守備の整備をちょっとずつ積み上げていきたい。それよりも点を取りたいので僕らは攻撃と守備を切り離さないというところから考えている。守備の準備をしていたところと関係のないところで失点をしてしまうと点を取らないと勝てない。想定外のアクシデントやミス、アンラッキーなどいろんなことで点を取られたとしたら、それをとり返す、ひっくり返す攻撃力は出さないといけない。

「失点を減らすための方策として守備の整備をちょっとずつ積み上げていきたい」と語る霜田監督であるが、最初にやるべきは守備の整備であるはずだ。例えば、両SBが同時に高い位置を取って攻め上がったあとのリスクマネジメントはどうなっているのか。DFがボールウオッチャーになっているのはなぜなのか。CHが相手を潰しに行かないのはどうしてか。バイタルエリアに簡単に相手に侵入されるのはなぜなのか。前線の選手が激しくプレスに行かないのはなぜか。最終ラインが下がったままなのはどうしてか。こうした事柄をおろそかにしていては、いつまで経っても失点はなくならない。

「ひっくり返す攻撃力は出さないといけない」と監督は語る。しかし、現状の大宮は、勝ち越したり逆転したりするだけの攻撃力を持っていない。霜田監督のこれまでの発言に「相手陣内でボールを持つ時間を増やしたい」との内容がある。相手陣内でボールを持って攻撃に重きを置くサッカーは、現状を見れば難しいやり方だろう。周りから「つまらないサッカーだ」と言われても、先制して1-0で逃げ切る守備力をつけた方が、いまの混沌とした状況から抜け出せる可能性がある。なぜならば、守備を強化することは、本来的に選手の好不調に左右されないからである。

大宮の失点の場面を見れば、守備の強化が責務だと分かるはずである。最初の失点は、36分の長谷川 元希のヘディングである。大宮の左サイドでボールが展開する。大宮は守備の際に、「4-4-2」の3ラインを作って守る。前線の2人が甲府DFにプレスに行かないので、最終ラインが下がったままになっている。DFとMFの間の「ギャップ」に甲府の選手が4人も入り込んでいる。ボールがCH林田 滉也に渡ったとき、近くにいたアンカーの大山 啓輔はもっと激しくアタックしに行かないとならない。林田は余裕を持ってワンタッチで「ポケット」にパスを出す。CB西村 慧祐がボールウオッチャーになってしまって背後にいる鳥海 芳樹に裏へ抜けられる。「ポケット」でボールを受けた鳥海は、ゴールライン深くからペナルティエリア中央へマイナスのパスを送る。中間ポジションを取ってフリーになっていた長谷川が走り込んで頭でゴールネットを揺らした。大宮の48分の2失点目は、新里 亮個人のミスだったが、1失点目もボールに関わった選手たちのちょっとしたミスの連続からである。

監督が掲げる目指すべきサッカーが、大宮のやれるサッカーなのか。選手の質に合わないサッカーを、やり続けている結果がいまの成績になって反映されているのではないのか。いずれにせよ、監督の存在意義が千葉戦で問われているのは間違いない。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ