川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】交代させるべきだった #トニ・クロース … #ジネディーヌ・ジダン の逡巡【無料記事】 #レアル・マドリー 0-3 #FCバルセロナ

【インタビュー】交代させるべきだった #トニ・クロース … #ジネディーヌ・ジダン の逡巡

分析対象試合

2017年12月23日リーガ・エスパニョーラ第17節
レアル・マドリー 0-3 FCバルセロナ

54分 ルイス スアレス(FCバルセロナ)
64分 リオネル メッシ(FCバルセロナ)
90+3分 アレイクス ビダル(FCバルセロナ)

分析理由

今季のレアル・マドリー(以下R・マドリー)は、もはやリーグ優勝から遠ざかってしまった。そうした中で、勝てない責任をジネディーヌ ジダン監督の采配ミスに集約する論調がある。その1つに、2017年12月23日のFCバルセロナ戦(以下バルサ)での敗北につながった、コバチッチ選手の起用とメッシ選手へのマンマーク指示が挙げられる。

本サイトでは、対バルサ戦の敗北の原因を探ることで、今季のR・マドリーが勝てない一因を考えてみたい。また、この分析のキッカケになったのは、月刊誌『フットボリスタ』での「クラシコでジダンが犯した、取り返しのつかない采配ミスとは?」というコラムにある。初代編集長の木村浩嗣さんは、以下のように記述した。

「ジダンのミスとはコバチッチに集約されている。(中略)ジダンの決定的なミスは後半に起きた。そのコバチッチのポジションをカセミロの位置まで下げ、メッシをマークさせたのだ。これが試合を劇的に変えることになる。コバチッチを下げたことでR.マドリーのプレスと守備ブロックの位置も下がった。が、それだけではなく気持ちの面でもアグレッシブさが失われ、フィジカルの面でもまるで急に疲労したかのように動きが緩慢になった。」(p.9)

詳しいことは、本サイトの以下のコラムを読んでいただきたい。

クラシコでジダンが犯した采配ミスは、本当にそこですか?【おいしい雑誌】月刊『フットボリスタ』2月号 Issue053

【無料記事】クラシコでジダンが犯した采配ミスは、本当にそこですか?【コラム】月刊『フットボリスタ』2月号 Issue053

この分析談話を読まれる前に、問題となる54分の失点場面を記そう。次のような展開があった。

トニ クロース選手が味方にパスしようとしたボールが、バルサの選手に渡る。そのボールを受けたセルヒオ ブスケツ選手がプレスに来たクロース選手をかわして、フリーのイヴァン ラキチッチ選手にパス。一方で、戦犯とされるコバチッチ選手は、ボールを持っているラキチッチ選手を追わずに、フリーランニングするメッシ選手に付いていこうとする。そして、ラキチッチ選手からセルジ ロベルト選手へ行ったボールは、走り込んで来たルイス スアレス選手に渡って、彼は簡単にゴールを決める。

読者には、この場面を頭に入れてもらって、分析を始めることにしよう。まずは、問題の場面から検証する。

バルセロナ在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)が分析を担当した。

ジネディーヌ ジダン、10分間の逡巡

――バルサの1点目。後半9分にスアレス選手が得点しますが、カウンターの教科書のような展開です。話題になるのは、コバチッチ選手のプレーです。

堀江 得点のシーンですが、コバチッチ選手がメッシ選手に付いていくか、ボールに行くか迷っているうちに、想定外のドリブルを仕掛けられます。ここでメッシ・ラキチッチ対コバチッチの2対1になっています。数的不利ですね。ここで考えなければならないのは、なぜ、2対1になってしまったのかです。そうなる前の段階を見ないといけない。果たして、メッシ選手とラキチッチ選手がフリーでいて、1人で守れるか? 僕は、この場面でコバチッチ選手を責めるのは酷だと思います。2対1になる前に、どういうボールの失い方をしていたのかが問題だからです。

――2対1になる前、どんなことが起こったのでしょうか?

堀江 トニ クロース選手が簡単な縦パスを凡ミスしました。そこからバルサのカウンターが始まっています。後半8分8秒の出来事です。クロースが左サイドでドリブルしていく。カリム ベンゼマ選手にパスを出そうとします。そのボールをセルジ ロベルト選手にインターセプトされます。

見ている方向にパスを出してはいけない。パスを出す時の原則ですよね。見ている方向にパスを出したら、相手に読まれるからです。プロフェッショナルなクロース選手がこうした凡ミスをやってしまう。それには、ある理由があるんですが、それは後ほど触れることにして、ともかく、あのクロース選手がミスをしてしまった。これが引き金になっています。

――ベンゼマ選手が裏に抜けようとしたので、その動きに合わせてパスを出したんですね。でも、ベンゼマ選手のポジションだとオフサイドになる確率が高い。ベンゼマ選手以外の選択肢として、左サイドにマルセロ選手がフリーでいました。クロース選手には見えていたはず。

堀江 もし、ベンゼマ選手にパスを出すのであれば、マルセロ選手に出すと見せ掛ける必要があります。身体をマルセロ選手の方を向け、ベンゼマ選手へパスを出したならば、成功する可能性があります。しかしクロース選手は、向いてる身体の方向も、見ている方向も、「縦パスを出します」という向きでした。しかも右足でパスを出しているので、余計に分かりやすい。クロース選手がボールを止める位置も問題です。初めからベンゼマ選手にパスを出そうとしてのトラップだと分かります。おそらくトラップした場所を見て、ロベルト選手はインターセプトの狙いを付けたのでしょう。それに、ボールを奪われてからのプレーを見てください。

――諦めて歩いていますね。

堀江 ブスケツ選手になんとかプレスに行くのですが、全く動けていない。ボールを奪うタイミングとして、相手がターンしたタイミングがボールを奪うチャンスなのですが、クロース選手は行けていない。ただし、ここではクロース選手だけが問題ではありません。ルカ モドリッチ選手は、自分がマークしないとならないラキチッチ選手を見ていないのです。ラキチッチ選手には自分の背後を取られています。これは一瞬の隙なのですが……。

そして、問題の場面がやってきます。コバチッチ選手は自分から見て、メッシ選手がいる左方向を抑えるか、それともラキチッチ選手がいる右方向を抑えるのか。迷っているうちに、ラキチッチ選手がドリブル突破を試みる。本来ならば、ボールを持っているラキチッチ選手に付いていく必要がある。潰(つぶ)すならラキチッチ選手です。メッシ選手は利き足が左利きなので、ボールをもらったとしても、あの位置から縦への突破は難しい。さすがのメッシ選手であっても、です。

バイタルエリアの中では、5対4になってしまっています。ボールを失ってからのダニエル カルバハル選手の戻りも遅れています。

――自陣でボールを奪った後に、バイタルエリアに入ってからダイレクトパスの交換によって得点を決める。カウンターの見本です。

堀江 そう、カウンターの教科書のような展開です。この失点で、R・マドリーの選手たちの動きがおかしいと、ジダン監督も分かった。そのことは、55分にベンチで第2監督と話し合っていることから分かります。そしてジダン監督は迷います。どのような交代をするべきかと。

そうこうしているうちに、R・マドリーが2失点目を喫してしまう。やっと腰を上げて交代に踏み切るのですが、間に合わなかった。これは「勝負のアヤ」です。1失点目でクロース選手を交代させるべきでした。カルバハル選手がレッドカードで63分に退場してしまう。1失点目が54分でしたから、9~10分の間に、選手交代をしてチームを立て直すチャンスがあったのですが、決断できなかった。

――ジダン監督が第2監督と相談して迷った約10分間が、試合を左右したことになりますね。

早々に交代させるべきだったトニ クロース

――ところで、なぜクロース選手を早々に交代すべきだったのですか?

堀江 前半の17分31秒を見てもらうと分かります。R・マドリーがボールを失う場面、クロース選手は全然戻れていない。17分47秒になって、やっと自分のポジションに着くありさまです。それを見た時点で、クロース選手のコンディションが悪いことを理解しました。歩いて戻ってきてますからね。

僕は試合分析をするために、2回試合を見直したのですが、実は2回目で分かったことです。最初に見た時には気付かなかった。「あれ、クロース選手はどこにいるの?」と思って、クロース選手の動きを注意しながら見直したら、自分のポジションに戻れなくて、歩いていたのです。R・マドリーがボールを奪い返す時でさえ、攻撃にスイッチを切った時点でも、動けていない。ただ、グラウンドをウロウロしている。

同じような場面が20分30秒にもあります。ボールを失いましたが、ここも遅い。カゼミーロ選手の守備力が高いため、クロース選手の体調不良が目立ってないだけ。それがずっと続く。

――カゼミーロ選手がボールを奪う能力が高いので、クロース選手の不調が目立たなかった。

堀江 30分21秒にも見られます。クロース選手が左サイドでパスを出します。この後、もう一度中に入る必要があるのですが、またも歩いている。何の役にも立っていない。例えば、イニエスタ選手とパウリーニョ選手の間に入るとか、そうした選択肢もあるのですが、そういう動きもできていない。普段なら考えなくても自然にできるプレーさえできない。クロース選手は、相手を崩すパス交換をするのですが、この日は、ただパスを受けて出すだけ。何の効果ももたらさなかった。

――本当に、よく見てみると、別人のように動けていませんね。

堀江 59分に、セルヒオ ラモス選手がファウルをして警告を受けた場面があります。あれもクロース選手が戻れていないから、ラモス選手が対処するしかなかったことが原因です。後半になり、アクションがさらに遅くなった。クロース選手は、もともとサイドの選手ではないのですが、システムとしてサイドに置かれました。不慣れという条件もあったのでしょうが、それ以上に、コンディションがあまりにも悪かったのでしょう。攻守の切り替えで、ものすごく遅れています。ボールが取られた瞬間、全員がポジションに戻ろうとしているのに、クロース選手だけ遅れる場面が散見されました。

前半は、R・マドリーもバルサも、両者の強度が高い状態で、点数が動かない。もしかすると、前半、R・マドリーにチャンスがあり、そこで得点が入っていれば……と思ったのですが、試合をよく見てみると、R・マドリーには動けていない選手が何人かいた。モドリッチ選手やロナウド選手はキレキレで、彼らのプレスは速いから、すぐには気付かなかった。

R・マドリーが敗北した理由は、コンディションが悪い選手が何人かいたのに、交代が後手に回ったことです。もっと早く決断していれば、結果は違ったかもしれない。

――水曜日に中東でクラブW杯がり、バルサ戦はその週末でしたからね。

日程的にも苦しい。バルサの選手とは、コンディションの差があった。ということは、例えばイスコ選手やガレス ベイル選手を頭から使っていれば、もっと違った結果だったのかもという仮説は成り立たない。スタッフからすれば、クロースの方が彼らよりも動けていた。だから、クロース選手を使った。つまり、クロース選手を使わざるを得なかった。

堀江 加えてメンタルの問題も大きいと思います。ボールを奪われて、すぐに戻らないといけない時に、「わっ」と一瞬、間が空いてから動いていますからね。

どのようにゲームにアプローチするのか

――試合分析のやり方について質問があります。堀江さんは、どのように試合を見ていくのでしょうか?

堀江 まずは、攻守のかみ合わせを確認します。お互いが攻撃して、お互いが守る。そこで、どっちの攻撃強度が高いかを見ていきます。守備に関しては、R・マドリー対バルサでは、FWが、どこまでプレスを掛けるのかを見ていました。

――システムを見れば、R・マドリーは、「4-4-2」のダイヤモンド型ですね。

堀江 流動的に選手は動いているので、コバチッチ選手がアンカーのポジションに入ったり、クロース選手がアンカーのポジションに入ったりします。

――一方のバルサも、「4-4-2」ですが、こちらは中盤がボックス型です。

堀江 バルサは、パウリーニョ選手がすごくいいですね。まさに獅子奮迅。中盤で受ける動きが改善されました。それに、ピケ選手の動きが良かった。相手の攻撃に対し、体を張って止めていた。この試合に向けてコンディションを上げてきた印象があります。

バルサも流動的です。パウリーニョ選手が右サイドをカバーしている。ただし、ボールに近い選手がプレスに行くのが基本で、ラキチッチ選手とブスケツ選手が中盤に入り、パウリーニョが右サイドに入る。イニエスタ選手は左サイドですね。

バルサの一番の武器であり、アキレスけんでもあるメッシ選手。彼が右サイドの守備でプレスに行かなかった場合、全力でカバーすることがパウリーニョ選手とラキチッチ選手の役割です。この日は、イニエスタ選手のコンディションも良かった。

――「4-4-2」のボックス、「4-4-2」のダイヤモンドの組み合わせでは、ポジションのズレが出てきますよね。

堀江 お互いに流動的なので、マンマークで付いていればズレは出てこないですが、ボールを奪ったタイミングでズレが生じます。バルサの2点目もカウンターから始まっています。「4-4-2」の守備の整ったところからスタートすればズレは生じないですが、インターセプトされた瞬間から差が出てしまう。GKからボールをつないでいく時は、スタートポジションから始まるので、互角なのですが。

――FWがどこまでプレスに行くのかを見るとのことですが?

堀江 R・マドリーの方が気になりました。バルサのGKテア シュテーゲン選手にボールを戻してもプレスに行かない。R・マドリーは、バルサの左右SBのどちらかにボールが渡った時は、プレスに行くのですが、GKにボールが戻されたら行かなかった。プレッシャーに行かない選択をしたR・マドリーと、GKまでプレスに行く選択をしたバルサ。そこは両者の大きな違いですね。

――GKのフィードの差が出た試合でもあります。

堀江 そうですね。GKの差が大きい。テア シュテーゲン選手のフィードは正確で、スペインのメディアでも評価が高い。GKがフリーでボールをもらった時に、スアレス選手の足下にボールをスパッと入れる。32分の場面では、ボールがGKに戻ってもR・マドリーがプレスに行かないため、テア シュテーゲン選手は「あっ、来ないのか」と思い、ドリブルで前進する。

――この試合では、コバチッチ選手の判断ミスについて最初に言及して、実は、彼の判断ミス以前に問題があったことを探りました。見る視点を少し変えるだけで、いろいろなことが分かってきますね。

堀江 パッと見て、チャンスがあって互角に見えても、よく見ると、負けるには負けるだけの理由があるということです。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ