川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】ホセ ペケルマン監督の「賭け」【無料記事】日本代表に「戦術」はあるのか?#WorldCup #JPN #COL

ホセ ペケルマン監督の「賭け」

日本代表に「戦術」はあるのか?

2018FIFAワールドカップ ロシアが開幕。グループHの日本代表は6月19日、コロンビア代表とのグループリーグ初戦を迎えた。

日本は開始早々にカルロス サンチェスのハンドからPKを得ると、香川真司のゴールで先制点を挙げる。カルロス サンチェスは一発退場になり、ここから11対10の戦いになる。39分、長谷部誠のファウルからコロンビアに直接FKを与える。キッカーのフアン キンテロがシュートを沈め、同点で試合を折り返す。日本は73分、本田圭佑のCKを大迫勇也がヘディングで決め、勝ち越し点を挙げた。

http://www.jfa.jp/samuraiblue/worldcup_2018/groupH/match_page/m16.html

試合分析について、バルセロナ在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)との対話を掲載する。

日本代表に「戦術」はあるのか?

――大前提として、日本代表に「戦術」はあったのでしょうか?

堀江「戦術」の定義は人それぞれです。「戦術」の定義を「こうした戦い方で臨む」とするならば、「なかった」と答えるしかないです。そう見える理由は「選手に依存しているサッカー」だからです。

――堀江さんは、原口元気選手の守備に関して、以前から苦言を呈しています。

堀江 右サイドハーフ(SH)の原口選手のプレーには不満があります。原口選手はコロンビア戦の前半におけるチーム内の走行距離で、トップというデータがあります。この見方が重要になります。相手に抜かれても必死に追いかけた結果なのか、頑張って上下に走って守備に貢献した結果なのか。

僕は、パスコースを切れず、相手に縦パスを許したことで、相手を追いかけて自陣に戻る機会が多かった結果だと見ています。もし、パスコースを切って縦パスを出させないでいたら、つまりコロンビア代表左SHへのパスコースを切り、左サイドバック(SB)の縦パスを防いでいたら、全力で自陣に戻る必要はなく、走行距離はより短くなったはずです。あるいはファウルで相手を止めていても、走行距離は短くなったと思います。

数字は質も見ないと、間違った解釈を導くことになります。

――原口選手と同じポジションには武藤嘉紀選手が控えています。

堀江 武藤選手は国際親善試合のパラグアイ代表戦に出場しましたが、相手SBに抜けられそうになり、ファウルで止める場面が見られました。パラグアイとコロンビアでは選手の質が異なるため、単純な比較はできないのですが、僕はそういう部分に原口選手の物足りなさを感じました。ただし、原口選手がチームに貢献しなかったという意味ではありません。

――それは個の戦術眼であり、個の問題ではないでしょうか?

堀江 チーム戦術は、個の戦術の集積だと考えます。パスコースを切れるポジショニングをしない選手が使われ続けている。つまり、チームが「それでよし」としている。それはチームとして「戦術」がないに等しい。

――誰が試合に出たとしても、同じ戦い方ができる。それをチームの「戦術」とするならば、出場した選手によってサッカーのスタイルが変わる現在の日本代表は「戦術がない」という評価になる。

堀江 その点で言えば、柴崎岳選手がピッチを去った80分以降の混乱は、目に余ります。香川真司選手(70分に本田圭佑選手と交代)、柴崎選手(山口蛍選手と交代)がピッチを去った後は、全く違うサッカーになってしまった。柴崎選手ならば、逆サイドに大きくボールを振るという場面でも、同じサイドで攻めようとする選手が、何人もいました。

――日本代表は73分に大迫勇也選手の得点で勝ち越しますが、それでも香川選手と柴崎選手が抜けたことで、日本は劣勢に回る時間帯が増えたように思います。

堀江 途中出場が難しいことは理解していますが、本田選手は中盤で単純なパスミスをしたり、ボールを奪われてカウンター攻撃を受けたりする場面が目立った。日本の右サイドでボールを受けて中に切り込むという手段も最初こそシュートで終われましたが、マンマークで対応されると、なす術なく、バックパスでボールを戻すだけでした。また担当ゾーンを無視したプレスをすることで相手に突破され、チームにも迷惑を掛けていました。とはいえ、そうしたプレースタイルでも、CK1本で結果を出してしまう。

あれは、本田選手をあそこで起用した西野朗監督の勝ちですね。

――山口選手は、大きな展開ができない。逆サイドにボールを送るようなプレーを見せてほしい。

堀江 山口選手だと逆サイドのスペースを意識してプレーできないため、見ていても、カウンターを食らうだろうと思ってしまいます。確かに、山口選手も本田選手も試合途中から入ったため、メンタル的には難しかったと想像できます。特に、守備に関しては難しかった。

彼ら2人が交代で入ってきた後、ワンサイドでごちゃごちゃボールを回し、相手にボールを奪われてカウンターを受けた場面がありました。誰が日本代表で重要な選手なのか、それで分かってしまった場面でもあります。

――柴崎選手は、吉田麻也選手と酒井宏選手の間の少し前にポジショニングして落ちてボールを受けていました。

堀江 10対11の数的優位になった時に、柴崎選手が誰よりも先に、ディフェンスラインに入り、あの場所でボールを回しながら相手が食いつくのを待っていました。黙っていても、相手の方がボールに寄ってくる。相手が食いついてきたら、スペースが空く。そうしたビジョンが、柴崎選手には見えていたと思います。この試合において、柴崎選手のボールの受け方はパーフェクトでした。

――西野監督は、柴崎選手がボールを持っていた時、逆サイドにボールを送るように手ぶりで指示していました。そして実際に右サイドから左サイドへの大きなパスがあった。ボールは選手の頭上に行ってアウトボールとなりましたが、ボールを逆サイドに大きく蹴られる視野と技術を持っていることは大きい。

堀江 ボールを回せて、空いているスペースにきちんと入れる。それができる柴崎選手は貴重です。ブラジル代表のパウリーニョ選手とか、スペインのブスケツ選手のような役割を担うプレーヤーになれるポテンシャルがあります。

ホセ ペケルマン監督の「賭け」

――日本代表は試合開始から程なく、11対10の数的優位を得ました。システムは「4-2-3-1」とされていますが、相手がボールを持っている時は「4-4-2」で、大迫選手と香川選手が相手CBにプレスに行きました。

香川選手がはっきりと相手のCBにプレスに行くようになったことは、修正点です。以前は、大迫選手が1トップで左右に走り回っていました。香川選手が2トップの1人として大迫選手と連動して動いたため、大迫選手の守備軽減につながり、良かったと思います。

また、ボールが相手のSBが渡ると、左サイドだと乾貴士選手が、右サイドだと原口選手がプレスに行く。プレスをはがされると、大迫選手をトップに残し、香川選手を始めとするほかの選手は、帰陣して守備に当たる。とてもオーソドックスな戦い方でした。短い時間でチームを形にするため、西野監督もこうしたやり方がベストだと決断したと思われます。

一方、コロンビア代表の戦い方は、どのように見ましたか?

堀江 1人退場になってから「4-4-1」でブロックを敷きます。攻撃の時はSBがどんどん上がる。ピボーテ(≒センターハーフ≒ボランチ)が最終ラインに降りて、3バックになってSBを攻撃参加させるやり方です。1トップのラダメル ファルカオ選手をCBの吉田選手と昌子源選手の間に立たせてカウンターを狙いました。

ファルカオ選手を狙ってミドルパスやロングパスを上げる。コロンビアは1人少ないため、数的優位を作って攻めることが難しい状況になった。そこで、ファルカオ選手を狙ったロングボールを多用します。日本代表のディフェンスラインの裏を狙い、ファルカオが入っていく。実は、数的優位を作って攻められるよりも、こちらの方が、日本にとって脅威でした。

――31分、フアン クアドラド選手と交代でウィルマル バリオス選手がピッチに入ります。この後、バリオス選手がCBの間に入り、最終ラインを3バックにしてSBを上がらせるやり方が顕著になりました。コロンビア代表のSBは、まるでウイングバック(WB)のようにワイドに広がり、高い位置を取るようになる。その結果、日本代表はサイドをケアするため、人が集められる形になった。数的優位の日本代表が、ホセ ペケルマン監督の采配により、停滞させられました。

堀江 加えて、日本代表は自ら苦しい戦い方を選択したように思います。日本代表の好きな横パスでボールを回していく選択よりも、縦パスを蹴ってボールを奪われカウンターを食らう場面を自分たちで作ってしまった。

――縦パスは、11対11における攻撃のやり方として、西野監督から指示されていたと思うのですが、11対10になった時点で、ベンチからの指示がなくても、やり方を修正してほしかった。また、これはJリーグにも当てはまることですが、セットプレー時に、DFがボールウオッチャーになる傾向が強い。どうしてなのでしょうか。

堀江 コロンビアのFKでファルカオ選手は、吉田選手の背後を取って視界から外れる動きをしていました。DFがボールを見ている瞬間に、相手がいなくなってしまう。「いないな」と気が付いたらもう遅い。ユニフォームを引っ張ったら反則を取られるため、マンマークの場合、相手の体に触れられるポジションにいて、接触している感覚を残し、相手が手から離れた瞬間、その感覚を利用して相手から離れないようにする。目だけで追っていると逃げられてしまいます。

――前半の日本代表は数的優位を生かせず、攻めあぐねる。さらにコロンビア代表が前線からの守備を捨てたため、ボールポゼッションは60対40となった。日本代表は後半、ゲームをコントロールし始めると、コロンビア代表のペケルマン監督は、前線の選手をピッチに送り出します。

59分、フアン キンテロ選手と交代でハメス ロドリゲス選手を投入。さらに70分、ホセ イスキエルド選手を下げてカルロス バッカ選手を送り出し、3トップにしました。

堀江 ペケルマン監督は、ハメス選手がケガをしてコンディションが悪いことを承知でも、最後のシュート一発に賭けた。「賭け」の采配と言ってよいと思います。実際、ハメス選手の蹴ったボールに、大迫選手が足先で触れ、ゴールを防いだ場面がありました。大迫選手が間に合っていなければ同点でした。

――サイドからの攻撃が低下しても、ハメス選手の一発に賭けた采配だと、僕も思います。大迫選手に防がれなければ、同点だった。結果論ですが、それだけ10対11から同点にするのは難しいと考えたのでしょう。

堀江 日本代表からすると、ハメス選手が入ったことで、ボール回しが楽になりました。ペケルマン監督は当然、そのことも織り込み済みだったはずです。それでも短期決戦の場合、特に黒星スタートは次の戦いを難しくするため、最低でも同点にしたいという賭けだったのでしょう。

日本代表を過小評価する必要はない。しかし…

――日本代表は、無理な攻めが目立ったという印象です。

堀江 点数の内容にふさわしくないプレーがありました。前半、長友佑都選手が狭い裏のスペースに走ってボールを奪われ、カウンター攻撃を受けていました。黙っていても時間が来れば、コロンビアがボールに食いついてくるのだから、日本代表はボールを回してさえいればいいのに、無理に仕掛けようとしたシーンがありました。

――コロンビア戦に関しては、縦パスは余計でした。

堀江 こういう状況こそ、横パスでいいのに。

――しかし、日本代表の進歩が見られた試合でもありました。前回のブラジルW杯からすれば、小さいようで大きな変化です。それは、相手にプレッシャーを掛けられてもバタバタしない。プレッシャーを掛けられると、すぐにロングボールを蹴るような選手がいなくなった。

堀江 細かい点ですが、カウンター攻撃への対処も向上しました。サイドで展開された時、乾選手などは相手にプレッシャーを掛け、良いボールを上げさせない。地道な努力の成果で、前回大会よりも守備力は上がっています。

アルゼンチン代表と1-1で引き分けたアイスランド代表。ドイツ代表に1-0で勝利を収めたメキシコ代表。あるいは、強豪国と呼ばれる代表のサッカーを見てもらうと実感できることですが、当たり前のことをどれだけ当たり前にできるかが重要なのです。

もはや日本代表を過小評価する必要はないと思います。レギュラーのほとんどは海外でプレーしていて、昔のように、気後れする必要はありません。しかし、日本代表はまだ、チームとして当たり前のことが当たり前にできていない。日本は依然として「弱者のサッカー」という立場なのです。

――つまり「個人に依存しているサッカー」ということですね。

堀江 はい。そこから「強者のサッカー」を作り上げるためには、まだまだ課題がある。コロンビア戦で、そのことをあらためて痛感しました。

川本梅花

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