川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】安定したリトリートを再現できるか【試合分析】#モンテディオ山形 戦から #ジェフユナイテッド千葉 戦の見どころを探る

安定したリトリートを再現できるか

2月25日、明治安田生命J2リーグ第1節・モンテディオ山形戦で3-0の完勝を収めた水戸ホーリーホックは、3月4日の第2節のジェフユナイテッド千葉戦で2連勝を狙う。このコラムでは、山形戦を振り返りながら、千葉戦での見どころを考えてみたい。

実は、千葉と山形は「4-3-3」の中盤が逆三角形の同じシステムを選択している。両チームの戦い方(戦術)に違いはあるのだが、スタートポジションで水戸のシステムと組み合わせると、同じポイントが注目されることになる。

千葉の予想スタメン

注目ポイントを示すために、試合後の監督会見で私が質問した事柄に沿って論述していくことにしよう。

水戸の守備が良かったのか?あるいは……

試合後の監督会見で、私は山形の木山隆之監督と水戸の長谷部茂利監督にいくつか質問をした。その中で、木山監督の話を参照したい。

木山監督には「攻撃の時、選手が仕掛けていけなかったのか、それとも水戸のディフェンスが良かったのか、どちらでしょうか?」と問うた。

木山監督は、次のように答えた。

「どっちもあると思います。もっと仕掛けていい場面があったと思いますし、サイドで高い位置に起点ができた時に、もっと相手の厳しいところにランニングして、そこにボールを送ることもあっても良かったと思います。ただ前半、われわれが早い時間で失点して、2点目も取られる形になって、相手が少し余裕を持って守れる状況になってしまったので、自分たちがボールを持った時にあまり相手も慌てずにしっかり後ろに下がってスペースを消していました。難しい面はありましたが、それでも何とかしなければいけなかったと思います」

なぜ、私が上記のような質問をしたのかと言えば、システムの組み合わせに関する問題があったのである。山形は「4-3-3」の中盤が逆三角形になっている。一方の水戸は「4-4-2」のボックス型である。このシステム同士を組み合わせると、山形は2人のインサイドハーフと1人のアンカーがいて、水戸は2人のセンターハーフ(CH)またはボランチが山形のインサイドハーフとマッチアップすることになる。つまり、山形にとって、水戸が何も対策をしてこなければ、3対2の数的優位となれる。少なくとも、3人のうちの誰かがフリーでボールを持てることになる。

そこで、水戸が行った対策は、山形のアンカーの茂木力也に水戸の選手が「見る(マーク)」ケアをしていたのである。FWの岸本武流が下がり気味になって「見る」こともあったし、岸本が山形のセンターバック(CB)にプレスに行く時は、小島幹敏か白井永地が「見る」ことをしていた。「見る」とは完全なマンツーマンディフェンスではなく、相手に自分がケアしていることを意識させるプレスのことを言う。

水戸は、岸本・小島・白井の3人が連係しながら、茂木のケアをしていたので、山形のビルドアップのキープレーヤーである茂木にボールが通りづらかったし、茂木がボールを受けてもDFにボールを戻すしかなかった。

しかし、時間が経過するとともに、さまざまな展開場面がやってくる。選手のプレスのタイミングも遅れてくる場面も出てくる。そうした中で、ファーストディフェンダーである2人の水戸FWが山形DFに対するプレスを剥(は)がされ、さらにプレスの2番手である4人の水戸MFがプレスを剥がされると、4人の水戸DFの前で、山形にフリーでボールを持たれる場面が出てくる。

実際に試合を見てもらうと分かるのだが、山形の中盤の選手が何度か前を向いてフリーでボールを運べる場面があった。その時に、山形は、水戸の右サイドにボールを展開してエンドライン深く攻め込めていた。

木山監督に「攻撃の時、選手が仕掛けていけなかったのか?」と質問した意図は、前を向けてフリーでボールを持てたのに、ドリブルでボールを運んで水戸DFになぜ挑もうとしなかったのか、という思いがあったからである。あるいはまた、山形の左サイドの選手が、水戸の右サイドバック(SB)の浜崎拓磨に突っ掛けて、バイタルエリアに入り込むようなチャレンジをしても良かったのでは、と思えたからでもある。

もしも、対戦相手の中に、個の能力があり、多少の勇気を持ち合わせた選手がいたなら、状況は変わっていたに違いない。あるいは浜崎のクセを知れば、その答えを導き出せたはずだ。

2月3日に行われた「いばらきサッカーフェスティバル2018」にて、鹿島アントラーズと対戦した水戸は、後半になって右サイドにボールを集められる。その時、浜崎は鹿島の選手と対面することになった。相手選手が左足からクロスを上げようとしたら、浜崎はスライディングしてそのボールを防ごうとした。フェイクに気づいた浜崎は、慌てて立ち上がる。しかし、相手選手はフェイントを掛けて右足にボールを持ち替え、バイタルエリアにたやすく侵入していった。

浜崎はファイト溢(あふ)れる好プレーヤーだが、こうした場面で“経験不足”が出てしまう。昨季も何度かスライディングをしてボールをブロックするプレーをしていた。しかし、DFがスライディングするのは、本当に最終手段であって、簡単にやってはいけないプレーだ。最終ラインにいる浜崎の後ろには、カバーする選手は誰もいないのだから。

なお、水戸の守備に関して言えば、プレスバックの動きがものすごく速い。ボールを奪われたら、すぐにボールを奪いに行く。昨季のように、前線の選手が全力でプレスに行かなくても、プレスが効く状態になっているのは、プレスバックの徹底にあると思われる。これは、長谷部監督の指示なのだろう。

以上のことから、千葉戦での注目ポイントがいくつか挙げられる。

1)山形と同じシステムの千葉。水戸のシステムとの組み合わせで、千葉の中盤3人に対して水戸のセンターハーフ(CH)が2人。この数的不利を水戸はどうやってカバーするのか。あるいは、数的優位の千葉は、どのように利点を使ってくるのか。

2)水戸のFWとMFのプレスをかいくぐり、千葉の中盤の選手がフリーでボールを持てた時に、どのような攻撃を仕掛けてくるのか。

3)水戸の左右のサイドを攻撃してきた時、右ならば浜崎、左ならば田向泰輝の守備を見る。特に、右SBの浜崎はどんな守備をして防御するのか。

4)山形戦のように、プレスバックは守備の効果をもたらすのか。

千葉戦でも安定したリトリートを再現できるか

私は次に、木山監督に「水戸のディフェンスが良かったのか」と質問した。つまり、山形が積極的に攻撃のアクションを仕掛けなかったのは、水戸の守備が良かったからなのか、と聞いたのである。

それに対して木山監督は、次のように答える。これは、とても重要な回答だ。

「自分たちがボールを持った時にあまり相手も慌てずにしっかり後ろに下がってスペースを消していました」

この発言内容に対しては、解釈が分かれる。

守備の対策として山形の中盤の選手がフリーで前を向いてボールを持っていたら、CBが前進してプレスに行くか、あるいは、相手と距離を保って味方の中盤の選手がプレスバックするのを見ながら、リトリートする方法がある。

木山監督は、水戸のDFはリトリートして裏にスペースを消したと解釈したのだ。解釈が分かれるのは、ここである。確かにリトリートしていたが、それは山形の遅攻に助けられたのではないのか、という見方である。

もしもロングボールを多用するチームで、前線に足の速い選手がいたならば、山形戦のようなリトリートができたのだろうか、という疑問が湧いてくる。なぜならば、CBの細川淳矢と福井諒司は、スピードのある選手の対応について、後手に回る場面がしばしばあるからだ。彼らは、弱点を経験で補っている部分がある。山形戦は無失点に抑えられたが、山形が違う戦い方を選択していたら、選手の個性が違っていたならば、異なる結果になったことは容易に予想できる。

これにより、千葉戦で見るべきポイントがはっきりする。

「水戸DFは、山形戦のように安定したリトリート守備ができるのか」

トライアングルのパス交換とポジショニング

木山監督に、水戸の戦い方の印象を聞いた。

「事前に水戸のリサーチしていたと思いますが、試合が始まる前と実際に試合をしてみての違いは?」

次のように、木山監督は述べる。

「リサーチと言っても、アントラーズとの試合を映像で見たぐらいです。非常にカウンターも良かったし、チームとしてもまとまりもあった。簡単に勝てることは絶対ないと思っていました。われわれもしっかりやる準備はしてきましたけど、ちょっと力を出せなかったのが残念です」

私は、しつこく具体的にどう感じたのかを求めた。

「戦ってみてイメージとは違いましたか?去年の水戸とはだいぶ違うのですが」

「伝統的に頑張るチームですから。フィットネスが高い選手も揃(そろ)えていますし、そこはアントラーズ戦で見た印象とは変わらなかったですね」

と、木山監督は語った。

鹿島戦の試合で抱いたイメージと実際に戦って見ての実感とは違いがなかったと述べられる。ここでいうカウンターとは、ロングボールを相手DFの裏に出すカウンターではない。水戸の場合は、前線の選手のプレスがハマってボールを奪ってから、ペナルティエリア内には、3人の選手が得点を奪える位置についている。水戸のそれぞれの選手がタッチ数を少なくしてボールを前に運ぶ。山形の選手の守備陣形が整わないうちにシュート場面を作ってしまう。

こうしたがカウンターが、なぜ、生まれるようになったのか?

それは、先にも述べた「プレスバック」にあることは明白だ。

ボールを奪われたら、すばやく奪い返しに行く。そのうちに、近くにいる味方の選手が、ボールを持っている相手選手を囲みにかかる。サイドでボールを奪ったら、CHとサイドの選手が協力して、トライアングルを利用しながら、効果的にシンプルにボールを前に運んでいく。

右サイドなら、浜崎拓磨・白井永地・黒川淳史の3人がトライアングルのパス交換をしながら、ボールを進ませる。左サイドならば、田向泰輝・小島幹敏・黒川淳史のトライアングル。見どころは、両サイドのトライアングルの関係である。実際に、白井によれば、「意識してトライアングルのパス交換をしている」と話していたので、これも監督の指示なのだろう。

以上、山形・木山監督の談話から導かれる千葉戦の見どころは、「両サイドのそれぞれ3人のトライアングルのパス交換やポジショニング」となる。

なお、千葉戦後に西部謙司さん(@kenji_nishibe)との対話を届ける予定です。西部さんは、どのように水戸の戦い方を見たのか。ご期待ください。

川本梅花

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