【インタビュー】欧州指導現場に精通しているモラス雅輝さんと振り返る欧州プロサッカー現場の歴史
「欧州のクラブが求めるのは、その監督が欧州クラブで、国際色豊かな選手が集うチームで、さまざまな各分野のプロフェッショナルなスタッフがいるなかで、いったい何ができるかという実績と能力」
— 吉之伴@
サッカー指導者/サッカーライター (@kichinosuken) April 12, 2025
▼ 欧州指導現場のこれまで
ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U18監督を兼任しているモラス雅輝は、長く欧州で実績を残している数少ない日本人指導者の一人だ。
先日そんなモラスと、「長谷部誠や岡崎慎司が現役引退をして、ドイツで指導者としてのキャリアを始めたことで、彼らが欧州5大リーグで監督としてチャンスを得て、指導者海外組としての道を切り開いてくれるかもしれない」という世間の声を受けて、実際に欧州トップリーグで監督を務めるためにどんな能力や資質が必要かというテーマでインタビューをさせてもらった。
ブンデスリーガなどで監督になるためには、どれほど厳しい戦いを勝ち抜かなければならないかを理解できる内容になっていると思うので、ぜひじっくりと読んでいただきたい。
それにしても、「海外で指導者として活躍している人がいないから」というふうに言われるのは、僕らとしてはとても心外。活躍はしているのだ。活躍している人はいるのだ。
欧州5大リーグだけがサッカー現場ではない。トップチームだけが指導現場でもない。長年現地で実直な活動を続けて、現地の人から信頼を受けるというのは当たり前のことではないのだ。
モラスやRBザルツブルクでU21コーチを務める宮沢悠生のようにプロクラブでポストをつかむというのは、その背景にどれだけの苦労と実直な取り組みがあったことか。そうしたプロセスに目を向けることなく、トップトップで行われていることだけに注目するのはどうにもバランスが悪すぎると感じている。
そんなモラスとのインタビューはいつもすぐに終わらない。指導現場に立ち続ける2人なだけに、インタビューというよりサッカー談義になる。今回も興味深い話がいくつもできたので、その一部をフッスバルラボでも取り上げようと思う。
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モラス「僕がドイツに渡ったのは1995年でした。名将クリストフ・ダウムがレバークーゼンに来たのが96年なんですが、当時のチーム写真を見ると、スタッフが4人しか映ってないんですよ。
監督がいて、コーチがいて、キーパーコーチも常任じゃない時がありましたから。メンヒェングラッドバッハのキーパーコーチが1週間に2回しか来ていないっていう記事を読んですごい驚いたのを覚えています。でも当時はそれが当たり前だった。
そんな時代にダウムはとても革新的なことをする監督だったんです。99年だったと思いますが、ドイツで初めてメンタルコーチを入れたんです。でも、《メンタル》って言葉を使うと業界内で批判されるからと、《パーソナルチームトレーナー》という名前をつけて、雇ったんですよ。
批判は多かったですね。バイエルン会長だったウリ・ヘーネスは『トップチームの監督が心理学者が必要なのであれば、その心理学者の費用は監督の給料から引くべきだ』みたいなことを言っていたほどですから。
当時はスポーツディレクターって役職もほぼなかった。レバークーゼンでルディー・フェラーがスポーツディレクターになったんですけど、フェラーのためにわざわざ新しい役職として作った感じがありました。
あのころは大抵のブンデスリーガクラブで監督とチームマネージャー、会長の3人ですべてを決めるというのが慣習だったと思います。チームマネージャーにシャルケのルディー・アザウワーやレバークーゼンのライナー・カルムントのような敏腕マネージャーがいるクラブは大きく成長しましたし、この3人の関係性でチーム編成なども含めてほぼすべて決めるので、監督が持っていた権限が今よりもずっと強かったですよね。
今は、いつのころからかスポーツディレクターが当たり前になって、チームマネージャーのほかに、取締役が出てきて、テクニカルダイレクターが出てきて。で、今度は大きなクラブで、ドイツ語でいうカーダープラーナー(チーム編成スタッフ)みたいなのも出てきて。それこそトランスファーマーケットのサイトでドイツのビッグクラブのリスト見ると、スタッフの数がもう半端ないんですよ」
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