「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【中倉’s Voice】問われているのはアビスパに関わるすべての人たちの力。残り9試合。クラブの総力がすべてを決める。

1-2のスコアも試合内容を正確に表すものではない。強豪・鹿島相手とはいえ、J1残留のためには勝たなければいけない試合で、何も表現できずに完敗。「情けない試合をしてしまって本当に申しわけない」と井原正巳監督は、いつになく厳しい口調で試合を振り返る。それでも気持ちは折れていない。「残り9戦、まったく諦めていない。厳しい状況だが、可能性のある限り、もう1度チームでひとつになり、最後まで戦う」(井原監督)。残留への想いをプレーで表せるか。いま、アビスパはそれが問われている。

スコア以上の完敗
2ndステージ第8節の鹿島戦。率直に言って厳しい試合だった。井原正巳監督が試合後の記者会見で気持ちの部分を強調したように、互いの想いの強さの違いは立ち上がりの攻防に表れた。鹿島は公式戦4連敗中とは言え、1stステージのチャンピオンチーム。アビスパとの間にある地力の差は認めざるを得ない相手だ。しかし、ホイッスルと同時に、球際、1対1、そして走るという点において、激しく挑んできたのは鹿島。そこには、何があっても連敗を止めるという強い気持ちが表れていた。

本来なら、残留に向けて崖っぷちとも言える立場のアビスパが、なりふり構わず挑まなければいけない試合。しかし、気持ちを前面に出して戦う鹿島に反し、アビスパは勝利への想いをプレーで表現することができなかった。前半のシュートは0。そして、これまでの試合と同様に、不用意なプレーから、27分、80分にゴールを許した。そして、試合後に多くの選手が口にしたように、90分間で感じられたのは、ボールを受けたがらず、あるいは、人任せのようなパスで逃げる姿勢。そこには勝つことよりも、負けることを恐れるアビスパがいた。

互いの気持ちの違いが顕著に表れたのは、69分に邦本がピッチに登場したシーン。内容から見れば、鹿島が試合を支配していたが、わずかな隙も見せまいと、邦本を2人がかりで徹底マーク。それどころか、邦本を抑えるために選手同士が激しく言い合うシーンもあった。勝利を得るためには、ほんのわずかなことであっても徹底してこだわる。そんな鹿島の考え方が垣間見れたシーンだった。その勝利へのこだわりこそ、いまのアビスパに足りないものだ。

チームのために 自分のために
「一生懸命にやっていることは間違いない。けれど、最後のところは顔面でも、何でも止めるんだとか、体ごと飛び込んででも絶対に決めるんだという感覚は、今日に関してはなかったと思う。それは監督に聞けば何とかできるというものではない。自分たちで振るい立たなければいけない」(三門雄大)
それは、選手たち全員が思っていること。情けなさ、悔しさを飲み込んで、それを晴らすべく、福岡は新潟に乗り込む。

井原監督が最も強調するのは、自分たちが大切にしてきた戦う姿勢を前面に出して戦うことだ。
「一番大切なことは、自分たちの持っている力を、それぞれのゲームで、どれだけ出せるかということ。悔いのない試合にしたいし、そういうメンタルのところだけ。それぞれ選手が、チームのために、自分のために、残り9試合ですべてを出し切れるか、そこだと思う」(井原監督)

2ndステージ第4節のG大阪戦。アビスパは劣勢に追い込まれながら力の限りに戦った。危ない場面では素早く寄せて体を張り、チャンスと見れば、疲労が蓄積する体に鞭を打って、G大阪ゴール前へ迫った。結果はスコアレスドロー。試合の終了を告げるホイッスルか鳴った瞬間、ほとんどの選手が、ピッチの上に倒れ込んだ。アビスパが勝点を得るとは、そういうこと。それが、アビスパにとっての残留に向けての最大の武器だ。残されたすべての試合で、そういう戦いをやり切れるか。それが今シーズンのすべてを決める。

問われているのは
クラブに関わる全ての人たちの力

そして、いつの時もサッカーの神様が我々に問うているのは、クラブとしての総合力。それは、選手の力はもちろんのこと、フロント、職員、サポーター、メディア、そして、様々な形でアビスパに関わる人たちの力の総和だ。昨シーズンの昇格は、クラブの総力として勝ちとったもの。同じように、今シーズンの苦しい状況も、クラブの総力の結果。現状を分析することは必要だが、単なる批判は何も生まない。問われているのは、アビスパに関わる全ての人たちの想いだ。

20年の歴史を経て、アビスパは次なる歴史を作るべく、2015年に新たなスタートを切った。足りないことがあるのは当たり前。すべてが上手くいかないのも当然のことだ。その中で、どのようにしてJ1残留を果たすのか。それが今シーズンのアビスパのチャレンジだったはず。それぞれの人たちが、それぞれの立場で、自分たちに足りないものと向き合うこと。それがクラブの総力を大きくすることにつながり、それに見合う結果をサッカーの神様が用意してくれる。

苦しい状況の中では、いろんな想いが浮かんでくる。不安もある。不満も生まれる。だが、それを跳ね返すためには、当事者意識を持って、自分自身に何ができるのかを問いかけることしかない。簡単ではないかも知れない。けれど、それが難しい状況から抜け出す唯一の方法だ。「それぞれ選手が、チームのために、自分のために、残り9試合ですべてを出し切れるか、そこだと思う」という井原監督の言葉は、そのまま、アビスパに関わる我々に通じる言葉だ。残り試合は9。チームのために、自分自身のために、悔いのない9試合にしたい。

【中倉一志=取材・文・写真】
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