川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】アディショナルタイムでの劇的な得点による勝利【無料記事】明治安田生命J3リーグ 第9節 2022年5月15日 ヴァンラーレ八戸 1-0 ギラヴァンツ北九州

目次
両チームのフォーメーションを組み合わせた図
「若手主体」の起用を提言する理由
組み立てをやり直す際のGK蔦颯の役割
山田尚幸と有間潤の気の利いた守備
明治安田生命J3リーグ第9節 ヴァンラーレ八戸 1-0 ギラヴァンツ北九州

両チームのフォーメーションを組み合わせた図


省略記号一覧

八戸は「3-5-2」のシステムでアンカーを置いて臨んできた。メンバーに関しては、3バックのディフェンスラインを含めて5月8日の「AOFA第75回青森県サッカー選手権大会 兼 天皇杯JFA第102回全日本サッカー選手権大会青森県代表決定戦」でJFL(日本フットボールリーグ)のラインメール青森FCに1-0で勝利したメンバーを中心に組んできた。最終ラインの3人は、4月29日に行われた第7節のいわきFC戦(1●3)から小林 大智を残して近石 哲平と藤井 航大に替えて板倉 洸と下堂 竜聖を送り込んできた。アンカー役のCHは相田 勇樹を山田 尚幸に、右WBの前澤 甲気から國分 将へ、セカンドストライカーの江幡 俊介が渡邊 龍にチェンジされている。北九州のシステムは「4-4-2」で中盤がボックス型になる。

システムをマッチアップすると、北九州の中盤の永野 雄大と針谷 岳晃の2人のCHが八戸のアンカーの山田と2対1の関係になる。八戸にとっての数的不利をどのように対処するのか。何かアクションを起こさないと自由にボールを回されてしまう。

「若手主体」の起用を提言する理由

まず、八戸対北九州戦のプレビューを読んでもらいたい。

【プレビュー】八戸は若手主体で試合に臨め!【無料記事】明治安田生命J3リーグ 第9節 2022年5月15日 ギラヴァンツ北九州対ヴァンラーレ八戸


筆者は、メンバーの起用に関して「若手主体」で組んだ方がいいと何度も提言してきた。その理由は「ベテランの排除」や「経験を軽んじている」からではない。社会人1部リーグ時代から青森を取材していることから、現在八戸に所属する選手の何人かに取材したことがある。そうしたことから心情的に「活躍してほしい」という情が湧いている。しかし今季の八戸の低迷を見れば、選手起用に問題があることは明白である。また、昨季活躍した選手や今季加入した選手の中でも、コンディションが相当よくないとスタメンでは使いにくい選手がいる。試合の終盤になってピッチに送り出して、短い時間でチームに貢献する起用がいまのところはマッチしていると考えられる。

なぜ筆者が「若手主体」の起用を提言してきたのか? それには2つの理由がある。昨季大学卒業して1年目の選手を積極的に試合に使った。そうした「たね」が今季少しずつ開花するのだろうと筆者は考えていた。つまり、今季も昨季同様に、プロ2年目となった彼らを中心にチームを作っていくのだろうと予測した。しかしチームの方針は違っていた。経験者を各ポジションに置けば、それなりに機能してくれるだろうと思った。確かに、それなりには機能したが、それ以上には機能しなかった。せっかく苦労して蒔いた「たね」の成長を信じられなかった。だから昨季の継続として「若手主体」でメンバーを組んだ方が、将来的にも有意義だと考えたのである。これが1つ目の理由になる。

2つ目の理由は、J3というリーグのレベルアップにある。確実に、昨季よりも他チームの選手のスキルはアップしている。昨季と決定的に違うのは選手の「スピード」である。これは筆者の意見だが、相手チームの選手のスピードに後れを取る場面を何度も見かけた。だから、経験者でも相当にコンディションがよくないと頭から試合に使えないと述べたのである。では、若手選手はどうなのか。北九州戦でも確かにパスミスがあって相手にボールを渡して危ない場面があった。しかし、そうしたミスを差し引いても「スピード」では負けていなかった。北九州戦での3バック3人のプレーを見れば一目瞭然である。

葛野 昌宏監督の采配は完璧だった。理想的な起用法である。試合終盤になって、サブメンバーの若手選手とベテラン選手を次々にピッチに送り出す。若手では佐藤 碧と江幡 俊介を70分に、ベテランでは佐藤 和樹と前澤 甲気を82分に、さらにアディショナルタイムになってから藤井 航大をピッチに送り出した。これらの起用法はものすごく正しい選択である。これ以上の正しさがないと言えるほどだ。実際に、板倉のクロスをファーサイドにいた佐藤のシュートがゴールバーに当たって跳ね返ったボールを佐藤がヘディングで決めた。葛野監督の選手起用が当たった展開になった。

今後の戦いも、北九州戦のような選手起用を実行してほしい。ベテランを頭から使うのは、彼らのコンディションが高まってからでも遅くない。どんどん積極的に若手を起用して、経験者にもっと危機感を持たせるべきである。

組み立てをやり直す際のGK蔦颯の役割

八戸の右WBや右SPにボールが渡った時、相手がプレスをかけてボールを前に運べなくなったなら、そのボールがGKに戻されて、組み立て直す場面を見かける。この時の八戸の最終ラインは、下堂と小林を両サイドにして真ん中にGK蔦 颯がポジショニングする。以下のような配置になる

3バックのうちの右SPの板倉が高い位置を取ると下堂と小林の2バックになってしまう。最終ラインがハーフウェーラインを超えてポジショニングしているならば、フィールドはコンパクトになって2バックになっても対処できる。もし相手にボールを奪われても近くにいる選手がプレスに行けるし、自陣へも早く戻ってこられる。図のように、板倉がサイドに張ってボールを受けて、相手が囲んでボールを奪いにきたなら、ボールの出しどころがなくなってしまう。その際にGK蔦が最終ラインの真ん中に上がって来るだけで、パスコースの選択肢が広がることになる。このやり方は、ビルドアップをやり直す際にとても有効なプレーになっている。

山田尚幸と有間潤の気の利いた守備

両チームのシステムを組み合わせた際に、北九州CHの永野 雄大と針谷 岳晃のどちらかがフリーになる可能性があると先に述べた。これは、アンカーの山田との関係性から八戸にとって1対2の数的不利な状況になることが予測される。そこで、山田が前に出て永野をケアして有間 潤が下がって針谷をケアしていた。試合開始から早い時間帯の北九州は、中盤からの縦パスをFWに入れていた。相手のCHに自由を与えないために、山田と有間が気の利いた守備をしていた。

この試合での山田のプレーは光っていた。危ない場面には顔を出してピンチを事前に防いでいた。さらに、大きな声を出して味方にコーチングを積極的にしていた。若手には頼もしい存在であったはずだ。また、有間の運動量は見るべきものがあった。守備で下がって来てケアして、ボールが敵陣のゴール前に運ばれるとギアをトップにして駆け上がる。味方に勇気を与えるプレーだった。

八戸は、突出した選手がいないので選手全員で戦っていかないとならない。北九州戦のように、若手と経験者をマッチさせた組み合わせによって、安定した戦い方を手に入れられるかもしれない。そうしたキッカケになる可能性があった劇的な勝利だった。

川本梅花

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