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【試合分析】木村祐志がピッチにいるとなぜリズムが作れるのか?【無料記事】J2第18節 #ジュビロ磐田 0-0 #水戸ホーリーホック

【試合分析】木村祐志がピッチにいるとなぜリズムが作れるのか?

【目次】
岸田翔平と三國スティビアエブスのポジションチェンジ
木村祐志がピッチにいるとなぜリズムが作れるのか?
「5-3-2」のマイナス点をどうやってカバーするか?

対象試合:2020明治安田生命J2リーグ第18節 ジュビロ磐田 0-0 水戸ホーリーホック

岸田翔平と三國スティビアエブスのポジションチェンジ

水戸のシステムは、最終ラインが3バックの「5-3-2」です。磐田のシステムは「4-4-2」の中盤がボックス型でした。前節[1●2]の栃木SCのシステムが「4-4-2」で、水戸も「4-4-2」でしたから、いわゆる「ミラーゲーム」になっていました。同じシステム同士でのマッチアップは、どこかに「ズレ」を作らないと、うまく前にボールを運べません。特に栃木は、前線の選手がハイプレスを仕掛けてきたので、水戸は後方からのビルドアップがうまく行かずに、「困ってロングボールで逃げる」ような処理をしていました。

こうした「受動的なサッカー」を避けるため、システムを変更してマッチアップ状態から回避する手段を選ぶのも1つのやり方です。水戸は栃木戦での教訓を生かし、同じシステムでの戦いを選択しませんでした。そこで「5-3-2」のシステムで挑んだのです。

前半の引水タイム以後に、右ウイングバック(WB)だった岸田翔平を左のストッパーにして、三國スティビアエブスを右WBに替えてきました。磐田の左サイドバック(SB)の伊藤洋輝が高い位置を取ろうとするので、三國とマッチアップさせることで、伊藤を押さえ込み、なおかつ三國が高い位置から攻撃参加することを狙ったのでしょう。これは効果がありました。三國はフィジカルでも負けていないので、ボールを失うことが、ほとんどなったのです。さらに、三國よりも岸田を最終ラインに入れることで、ラインの上下動が安定するのです。岸田は、きちんと守備のタスクをこなせる貴重な選手ですね。

木村祐志がピッチにいるとなぜリズムが作れるのか?

「5-3-2」のシステムで最も効果的なのは、守備に関してです。磐田の4バックに対し、水戸の2トップとインサイドハーフの2人がプレスに行くので、磐田のビルドアップを思うようにさせなかった。水戸の2トップの中山仁斗と山口一真が磐田のセンターバック(CB)の山本義道と大武峻にプレスに行きます。右インサイドハーフの松崎快は、磐田の左SB伊藤を、さらに左インサイドハーフ(SH)の木村祐志が磐田の右SB櫻内渚にアタックします。ボールの出口に蓋をすることを考えてのやり方でしょう。これも、効果がありました。

これは想像ですが、秋葉忠宏監督は、木村のコンディションが万全ならば、木村をセンターハーフ(CH/ボランチ)で起用したいのでしょう。なぜならば、木村不在の水戸は、ボールを動かすための起点がないからです。木村を経由してボールが動くことで、時間的なタメを作られます。木村のプレーをよく見てほしい。彼は、ボールをパスした後、パスを受けた味方に近寄っていくのです。そして、再びボールを受けて展開する。

例えばこんなシーンを思い起こしてください。木村がCBンドカ ボニフェイスにパスを出します。出した瞬間からンドカに近づいてボールを受けて、右SBの岸田にパスを送ります。いったん木村を経由することで、リズムができるのです。当たり前のように見えても、こうした気の利いたプレーができる選手は、なかなかいない。9月2日のJ2第16節・徳島ヴォルティス戦[2〇1]は、木村のアンカーがすごく効いていました。

「5-3-2」のマイナス点をどうやってカバーするか?

前半、磐田のシュートがバーやゴールポストに当たって跳ね返されるシーンが何度かありました。「運」と言ってしまえば、そうかもしれませんが、選手が最後のところで足を投げ出してクリアしようとした結果でもあるので、こうした粘り強い守備の積み重ねが実を結んでいくのです。

「5-3-2」のマイナス点に、攻撃参加の人数が足りなくなることが挙げられます。そうした中で、後半に平塚悠知が前線に上がってきて左足でミドルシュートを打つ場面がありました。あのようなプレーが必要なのです。チャンスと見たら、前線に上がっていって攻撃参加する。そうすると、相手も警戒して簡単にラインを上げられなくなる。水戸はラインを高くして攻撃したいので、相手の陣地でボールを回せるようになります。最終的に、数的優位を作れることになるのです。そうしたキッカケになるのは、試合の中での選手のアイデアにあるんですよね。

前回のコラムにも書いたのですが、水戸は試合でのまずい点を次の試合では解消しています。それは、計画的なトレーニングの成果でしょう。秋葉監督のコメントを見れば、以下のような解釈が成り立ちます。「トレーニングで対策を立ててきちんとやったのに、なぜ試合で信じてそれをやり切らないのか」。結果、試合に敗れて「それをやらせるのが、マネジメント力で、監督の仕事でしょう」という意見もあるでしょう。

これは僕の意見ですが、水戸の代名詞の「4-4-2」のシステムにおいても、オートマチックに機能されています。特に攻撃に関しては、選手のアイデアの不足なんだと思います。そうした不足部分を補うのも、「監督の仕事だろう」と言われれば、そうなんですけどもね。

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