川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】敗れた原因は「戦術」でも「システム」でも「戦略」でもない【無料記事】J2第35節 #水戸ホーリーホック 2●3 #大宮アルディージャ #mitohollyhock #ardija

敗れた原因は「戦術」でも「システム」でも「戦略」でもない

目次

両チームのシステムを組み合わせる

敗れた原因は「戦術」でも「システム」でも「戦略」でもない

3失点した場面を検証すると敗因が現れる

10月6日日曜日 14:03 キックオフ ケーズデンキスタジアム水戸

2019明治安田生命J2リーグ第35節
水戸ホーリーホック 2⚫︎3 大宮アルディージャ

https://www.jleague.jp/match/j2/2019/100601/live/

両チームのシステムを組み合わせる

大宮の「3-4-2-1」の3バックを攻略する方法として、本サイトで指摘しているイエローゾーンへ侵入が挙げられる。エンドライン深くからバイタルエリアへマイナス方向にクロスを入れるやり方である。3バックのシステムの宿命とも言えるウィングバックの裏がぽっかりと空くスペース。攻撃側にとって、このスペースをいかに攻略するのかが得点チャンスを生むことになる。逆に、守備側としては、このスペースをいかにカバーしていくのかに焦点が当てられる。実際に、水戸の追加点は、イエローゾーンを攻略した結果に生まれたものだった。

両チームのシステムを組み合わせると以下になる。

敗れた原因は「戦術」でも「システム」でも「戦略」でもない

前半早々から、水戸のペースでゲームは進んだ。3バックを敷いてくる大宮に対して、水戸はイエローゾーンを狙って攻略してくる。サイドからボールを運んで、エンドライン付近まで侵入する。そこからマイナス方向にグラウンダーのクロスをペナルティエリアに送り込む。3バックシステムは、3人のうちの左右のディフェンダーの横の場所、またはウィングバック(WB)の背後のスペースが狙い所になる。WBが攻撃参加しないで、ファーストポジションにステイしていれば背後のスペースを狙われることはない。しかし、WBが攻撃参加するからこそ、攻撃に厚みがもたらされる。したがって、WBはシャドーと協力して高い位置をとって攻撃をしかける。その際に、左右のディフェンダーのカバーやWBのポジションへの戻りが遅れたならば、相手側にとってイエローゾーンは攻撃の突破口になる。

実は、41分の水戸の追加点は、大宮が4バックにして生まれている。3バックシステムの弱点をついた攻撃を仕掛ける水戸のやり方を嫌った大宮は、前半の30分過ぎから最終ラインを4枚にしてマッチアップ状態を選択してきた。しかし、大宮のサイドバック(SB)の戻りが遅く、結局、SBの裏のスペーシを水戸に使われることになる。左サイドで木村祐志がボールを持つ。左SBの志知孝明が木村を追い越してボールをもらう。志知は、エンドライン付近まで深く入り込んでマイナス方向にグラウンダーのクロスを送る。そのボールにセンターハーフ(CH)の前寛之が走りながらシュートを打つ。

筆者が試合を見たところ、大宮が「4-4-2」にして水戸と同じシステムで対抗したことが、大宮の逆転劇を生んだ直接の原因ではない。確かに、ミラーシステムにして「ズレ」は解消された部分があった。しかし、大宮のSBは両方が同時に高い位置を取る場面があるので、イエローゾーンの攻略は難しくはないはずだ。実際、得点の可能性がある場面はあった。

では、なぜ、水戸が大宮に逆転負けを喫してしまったのか? 敗れた原因は「戦術」でも「システム」でも「戦略」でもない。それがこのポイントであり、敗因のすべてだと言っていい。3失点した場面を振り返ることで、その答えが浮かび上がってくる。

3失点した場面を検証すると敗因が現れる

53分の得点シーン

53分のイッペイ シノヅカの得点場面を見てみよう。シノヅカがドリブルでペナルティエリアに入る。後ろからCH白井永地が追いかけるが追いつけない。センターバック(CB)宮大樹がボールを奪いに行くが躱されて、シノヅカにシュートを打たれる。このシーンは、まず、白井がアタックに行くが振り払われる。次に、宮もアタックしに行くのだが、CBの選択としてボールを奪いに行かないで、ボールに寄せるだけ寄せてシュートを打たせないようにすることもできる。しかし、仮にそうしたプレーをしたとしても、シノヅカの勢いあるドリブルに対抗するには、アタックに行くしかなったように思われる。得点後に、宮が白井に指摘していたが、バイタルエリアに入られる前に、止められる可能性はあったはずである。ここでは「個のフィジカルでの敗北」を意味する。

56分の得点シーン

56分のファンマ デルガドの得点シーンは、大宮がクロスをあげる前に、福満隆貴がボールを奪いに行くが跳ね飛ばされてしまう。これも「個のフィジカルでの敗北」がある。クロスのボールに最初に到達したのがデルガドだった。宮がマークをしていたのだが、先に体を入れられてゴールを決められる。

水戸は、ゾーンで守っている。しかし、ペナルティエリア内は、基本的にマンマークの原則にしたがって振る舞わないとならない。それには、2つの重要なポジショニングがある。

1)敵とゴールの間にポジションを取る。

2)ボールと敵を同時に視野に収める。

実は、デルガドをマークしていた宮は、上記の2つの原則を実行しようとしてデルガドと競り合っている。しかし、デルガドに先に体を入れられてフリーにしてしまう。つまり、CBがFWとの「駆け引きに敗れる」ことを意味する。

68分の得点シーン

ペナルティエリアの中には、志知が細川淳矢と被ってポジショニングしている以外は、水戸と大宮の選手が1対1の状態になっていた。志知は、自分の左前方に櫛引一紀がフリーでいるのを確認している。首を振って見ていたので、櫛引が視野には入っていたはずだ。しかし、志知は、ここで判断を間違ってしまう。クロスが大宮のFWに渡ると呼んで細川の背後に入ろうとした。しかし、ボールは左サイドにいた櫛引に渡ってしまう。フリーでボールを受けた櫛引は、豪快に逆転のゴールをネットに突き刺した。ここでは「判断ミス」があった。

この試合の水戸は、いつもの安定した戦い方をしている。実際に、2得点を奪っているのだから、戦い方には問題はない。つまり、「戦術」も「戦略」も十分に働いていた。取り立てて相手へのプレスが甘かったわけではない。いつものようにハードな戦い方をした。選手のモチベーションだって、気持ちの高ぶりや集中力も相手に劣ることはなかった。大宮が、「3-4-2-1」から「4-4-2」にチェンジしたからと言って、慌てる仕草はなかった。しかし、2点を取ってから逆転されてしまう。その原因は、なんなのかを解き明かすには、3失点を分析すれば答えは現れてくると考えた。もう結論は出ている。それについて、3点が挙げられる。

1.「個のフィジカルでの敗北」

2.「駆け引きでの敗北」

3.「判断ミスによる敗北」

実は、大宮戦の敗因は、「戦術」や「戦略」や「システム」では太刀打ちできない部分が影響しているのである。誰もが気づいたはずだ。完全に叩きのめされた、と。でも、勝負はこれからだ。なぜならば、叩きのめされても立ち上がるのがアスリートのルールだからだ。

川本梅花

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