川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】日本代表は全てを出し切ってもなお敗れた【無料記事】日本代表の課題とは?#WorldCup #JPN #BEL

日本代表は全てを出し切ってもなお敗れた

日本代表の課題とは?

現地時間6月14日に開幕した2018FIFAワールドカップ ロシアもグループリーグが終了。6月30日からは決勝トーナメントに突入している。ラウンド16に進出した日本代表は7月2日、ベルギー代表と対戦。

http://www.jfa.jp/samuraiblue/worldcup_2018/final/match_page/m54.html

日本は後半、原口元気と乾貴士のゴールで2-0とし、ゲームを手中に収めたかに見えたが、ベルギーがヤン フェルトンゲンとマルアン フェライニの得点で追いつく。そして後半アディショナルタイム、芸術的な高速カウンターからナセル シャドリが決勝点を挙げ、ベルギーがラウンド8に勝ち進んだ。

今回もバルセロナ在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)との対話で、ベルギー戦の試合分析を行う。

背番号7同士の対決

――見ましたか?

堀江 もちろん。悔しいでしょ。

――んーん、複雑かな。「よく戦った」という思いと「こうできなかったのか」という思いが入り交じって。実はこの試合こそ、勝てたように思うのです。

堀江 それは難しいですね。

――そうですか。それでは早速、試合分析に行きましょう。

日本代表は守備の時に「4-4-2」のシステム。攻撃の時は「4-2-3-1」ですね。ベルギー代表は3バックで「3-4-2-1」、あるいは「3-4-3」という布陣です。ベルギーの両ウイングがサイドに開いた時は、日本のセンターハーフ(=ボランチ)の2人がベルギーのセンターハーフとマッチアップすることになります。そうすると、柴崎岳選手がケヴィン デブルイネ選手と対面します。これは面白かった。

堀江 背番号7同士の対決になりますね。

――ロメル ルカク選手には、吉田麻也選手と昌子源選手のどちらかが付いていく。

堀江 吉田選手と昌子選手が、お互いに話し合ってやっていく形でした。

――左サイドのエデン アザール選手は内側でプレーしていました。

堀江 そうですね。サイドに張っていてもボールが出てこないため、中に入ってプレーしていました。

――前半を振り返ってください。

堀江 前半は、日本がだいぶ押されていました。カウンターから惜しいチャンスを作れましたが、正直、いつ失点を喫してもおかしくない展開でした。日本にとって、厳しい展開となりました。

センターフォワードのルカク選手にボールが渡ったら、空中戦でも、一対一でも、日本の選手は競り合っても勝てない。そのため、取りあえずルカク選手に良いボールが出ないようにケアしていました。エデン アザール選手は連戦のため疲れていたのでしょうか。体が重そうでした。試合開始早々は、カウンターでドリブルを仕掛けていたものの、その後は目立った動きがなかったです。

――ベルギーは当然リサーチしていて、柴崎選手がボールを持つと囲んで、自由を奪っていました。その結果、柴崎選手はパスミスを誘発させられていました。

堀江 ベルギーは柴崎選手に対し、厳しいチェックをしていました。日本は前半、耐える時間でした。0-0で終了した時点で、ベルギーに焦りが出る分、日本が有利になったと思いました。実際、後半になると、ベルギーは日本のカウンター攻撃に対する戻りが遅くなり、失点をしてしまいます。前半の日本は本当に頑張った。日本にとっては、プラン通りの試合運びだったと思います。

味方にスペースを作る、香川真司の動き

――後半になって日本が先制点を挙げます。乾貴士選手のインターセプトから、柴崎選手のスルーパス。走り込む原口元気選手のスプリント力。理想的なカウンター攻撃でした。しかし、柴崎選手のパス精度はすごいね。

堀江 DFの足に届くか届かないかのパスでした。もし相手DFが足に触れられないほどの強いパスならば、GKにキャッチされてしまう。あれはすごいパスでした。あの時間帯からベルギーのプレスが緩んで、香川真司選手が自由にプレーしていました。香川選手が自由になったため、乾もフリーで動けるようになります。それが追加点として現れます。

――香川選手はマンチェスター・ユナイテッド移籍前、ドルトムントで活躍していた頃のプレーの印象が強い。しかし、現在の香川選手は、プレースタイルが大きく変わりました。バイタルエリアに入ってゴール前で得点を決めるのではなく、味方選手のスペースを作るために下がって相手を引っ張る。

堀江 パラグアイ代表戦の前に「うまく起点になれればいい」と黒子に徹するような発言をしていました。その直前のスイス代表戦では、自分が点数を入れなければ、自分で局面を打開しなければ、という独りよがりのプレーをして空回りしていました。ケガ明けというコンディション、スイス戦での自分のパフォーマンスを考慮した結果、ああいうプレースタイルになったと思います。

――どこにスペースがあるのか、という「見るセンス」はもともと優れていた。そういう選手だからこそ、スペースを作る動きができる。自分のポジションから下がるのは、勇気がいる行為です。

堀江 柴崎選手を自由にさせてもらえないため、長谷部誠選手がセンターバックまで下がっていく。そして、香川選手がポジションを下げることで、柴崎選手が空きました。

日本代表は全てを出し切ってもなお敗れた

――1失点目について。ヤン フェルトンゲン選手にボールが渡った時に、酒井宏樹選手はなぜヘディングで競りに行かなかったのか。ボールウオッチャーになっていたのか、理解できませんでした。

堀江 僕は「GKの川島永嗣選手が触れないのか」と思いました。はっきりいってポジショニングが良くなかったです。相手がボールを足下に収めてシュートを狙う場合はあのポジションで正解ですが、実際は浮いたボールが相手に向かっていて酒井宏樹も相手に寄れている状態でした。この場合はGKの頭を越すヘディングシュート、味方への折り返しがより想定されるので、それに対応すべく1メートルほど中にポジションを寄せるべきでした。

――マルアン フェライニ選手とナセル シャドリ選手が途中出場した後、ベルギーは4バックに変更します。フェライニ選手を抑える役割を山口蛍選手が担っていたはずです。

堀江 なんとか抑えてほしいと思ったんですが、うまく機能しませんでした。

――これはセネガル代表戦の分析時にも話されたことですが、日本は先発メンバーと控え選手とで、プレーのクオリティーに差があります。そのため、西野朗監督が柴崎選手をベンチに下げたことに疑問が残りました。

堀江 柴崎選手は歩いてもいいから、変えてほしくなかった。柴崎選手がベンチに下がってから、日本は得点の匂いが全くしなくなりました。香川選手が、ボランチの役目をしようとしていましたが……。大迫勇也選手、香川選手、乾選手、柴崎選手は、日本に欠かせない選手でした。

――逆転された3失点目ですが、いくつもクエスチョンがあります。本田圭佑選手は、ショートコーナーを選択できなかったのか。GKティボー クルトワ選手の前に立ち、ボールを投げるのを遅らせられなかったのか。ケヴィン デブルイネ選手のドリブルをディレイできなかったのか。ファウルで止められなかったのか。

延長戦で勝ち越せる確率が低いため、本田選手のキックは仕方なかった。そういう意見もありますが、それは過小評価だと思います。もし選手たちもそう考えていたとしたら残念です。ピッチにいる選手全員が、延長戦を考慮したプレーの選択をしてほしかった。

堀江 日本はガーナ代表戦でも似たような形で失敗しています。ただ、本田選手の気持ちは理解できます。シュートコーナーを選択して延長戦に入ったとして、果たして逆転できるメンバーだったかどうか。そう考えた時、自分の左足にも自信があったのでしょう。その結果、キックの選択をしたのだと思います。

――確かに、最後のベルギーのカウンター攻撃は芸術的な美しさがありました。日本にとって最悪の結果をもたらしましたが、あれは最高のカウンター攻撃です。あそこでルカク選手がスルーするとか、見事でした。

堀江 デブルイネ選手も記者会見で「連係が取れない」と嘆いていた。そうした「エゴイストの集団」が、エゴを捨てての逆転弾でした。まさに強豪国という感じです。正直、日本は出し切った感があります。前半を耐えて実力も出し切ったにもかかわらず負けた。課題は多いですよ。逆転された場面だけでなく、普段やっていないことは試合に出せない。そのことが、よく分かりました。

日本代表の課題とは?

堀江 もしかしたら、今回選出されなかった選手の中には、もっと良い選手がいたかもしれませんが、今回のメンバーではベルギーに勝てなかった。ただし、そうした中でも、不利な状況を突き破る働きを見せる素晴らしい選手がいたことも事実です。

――今後の課題について。日本は、どの部分に目を向ける必要がありますか?

堀江 フランス代表のカンテ選手やブラジル代表のカゼミロ選手のように、守備で相手の攻撃を止めきる選手がいなかった。そのポジションの選手層が薄い。

――コロンビア代表戦の分析で「選手に依存したサッカー」と指摘していました。

堀江 正直、西野監督が日本代表の戦術を整理できていたとは思えません。おそら高いレベルでプレーする選手たちが、日本代表の戦い方を整理していたと思います。

――僕も同意見です。

堀江 ベスト16という結果は出たけど、急場しのぎの対処法だった。ですから、長期的な視野に立って監督を選び、整理すべきです。いまの日本代表がやるべきサッカーは何か、はっきりした大会だったと思います。スペースをうまく使い、攻撃時は相手とのフィジカルコンタクトを避け、相手が寄ってきたら、空いたスペースにボールを出して展開する。その意図はすごく感じられました。ブラジル代表やスペイン代表と比べても、そうした点では、日本代表が勝っていたかもしれません。

――ロシアW杯期間中、日本代表について話を聞かせてもらい、ありがとうございました。

川本梅花

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