川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】ゴール真ん中に蹴られたPKを止めるのは簡単なことなのか? 西川周作(浦和レッズ)【無料記事】

【インタビュー】ゴール真ん中に蹴られたPKを止めるのは簡単なことなのか? 西川周作(浦和レッズ)

10月11日(火)、日本代表はロシアW杯アジア最終予選グループB・第4節でオーストラリア代表と対戦し、1-1で勝点1を得た。試合開始5分、本田圭佑(ACミラン)のスルーパスを原口元気(ヘルタ ベルリン)が左足でシュートを蹴り込んで、3試合連続となるゴールで先制する。先制した日本は引いて守り、ボールをオーストラリアに保持させる。後半7分、原口がFWのトミ ユリッチを背後から倒してPKをオーストラリアに与える。PKキッカーはミレ イェディナク。このキッカーは、ゴールの中央のやや上の場所にシュートを蹴り込む。過去の戦績が物語るように、W杯最終予選においてオーストラリアと4分け2敗という「分の悪さ」を露呈させた。

今回も山野陽嗣に、浦和レッズの守護神でもある西川周作がオーストラリア代表戦で見せたプレーを中心に語ってもらう。最初に、PKキッカー・イェディナクのシュートに対する西川の対処がどうだったのかを聞いた。

PKにおいて真ん中の高い位置のシュートは、ほぼ止められない

――「西川周作選手は相手キッカーより先に動くので、PKを止められない」という意見があります。確かに、西川選手の動き出しは早い方です。キッカーは西川選手が左右どちらかに先に動くので、ゴール真ん中に蹴り込めるんだ。そうした意見に対して山野くんはどう考えますか?

山野 ネットでは「西川選手が先に動くから、相手が真ん中に蹴ってくるし、動きを読まれているんだ」という論が見られますよね。「真ん中に蹴られたPKのシュートを止めるのは簡単だ」という感覚で話しているのでしょう。ユーロ2016準々決勝・ドイツ代表対イタリア代表のPKの時もそうでした。

おっしゃる通りで、西川選手は一瞬早く動くというクセがあります。しかし、相手キッカーのミレ イェディナク選手は、西川選手の動きを全く見ていないんですよ。キッカーは、そのクセを知っていて「決め打ち」しているのです。しかも高い位置に蹴っている。コースが真ん中で、あの高さのPKをGKが止めたというシーンを見たことがありますか?

――GKがデータを考慮して「このキッカーは真ん中に蹴ってくる確率が高い」と判断したならば、左右に動かずに真ん中でポジショニングするでしょうが、実際に「動かない」という場面に巡り合ったことがない。GKが真ん中のシュートを止める場面は、左右のどちらかに動いて足が残っていてクリアした場面なら、すぐに挙げられるんですけど。

山野 そうなんですよね。真ん中に蹴ったボールを止められるシーンは、GKが先に跳んだけれども、シュートの弾道が低く残していた足で止めた場面です。高い位置に蹴られた場合は、ほとんど止められないですよね。実際にイェディナク選手のシュートは、GKの胸くらいの高さでした。そうした条件で、GKが止めたというシーンは、ほとんど見たことがない。

真ん中に蹴ってくると事前に100パーセント知っているなら、どちらにも跳ばない。真ん中にずっと立っている。それならば止められると思います。しかし、真ん中に来るというデータがあったとしても、真ん中に突っ立っていられるGKはほとんどいません。

――PKの際に、どちらに跳ぶのか。それとも跳ばないのか。その判断基準を教えてください。

山野 事前の情報プラス、試合中に得られた感覚ですね。「この選手はこういうシュートを打つんだ」と肌で感じ、事前の情報から修正する場合もあります。

遠藤保仁選手(ガンバ大阪)みたいに、GKの動きを見ながらゆっくり蹴ってくる選手に対しては、最後の最後までどこにも跳ばないという駆け引きができる。GKが動かないことだけで、キッカーに迷いが生じる。そうしたキッカーとの駆け引きはまれで、実際にはGKが早く動かないと、速くて強く遠いシュートは止められない。多少早く動かないと対応するのは難しい。世界の一流GKたちを見ても、大半が蹴る前に動き出しているのは確かなことです。

実際に、レベルが高い欧州出身や南米出身のGKには、西川選手よりも早く動くGKがいくらでもいます。西川選手は、彼らと比べるとそんなに早く動くタイプではない。ですから、欧州や南米で行われる試合でも、オーストラリア戦であったような、真ん中に高く蹴られたPKをGKが全く動かないで止めたような場面を、僕はほとんど見たことがない。

日本の弱点を突いてこなかったオーストラリア

――オーストラリア戦における西川選手に対する全般的な評価は?

山野 あまり守備機会も多くなかったので、どう評価するのかは難しいんですが、全般的に良かったと思います。

――危ないシーンは、後半7分のPKの場面と、同43分にCKからフリーでマシュー スピラノビッチ選手にヘディングを打たれてバーを少し越えた場面くらいでした。

山野 予想外と言うか、日本代表が嫌がることをオーストラリアはしてこなかった。特にGKが嫌がるクロスを上げてこなかったんです。

――西川選手は190センチ以上の長身GKではない。DFにしても、吉田麻也選手(サウサンプトン)も森重真人選手(FC東京)も190センチ以上ある選手ではいない。当然、ハイボールに対してクリアするのが不利になる。特に、GKと味方DFの間で、GKが前に出てきて相手選手と競り合ってハイボールを処理するような場所にクロスを上げられると危険なシーンになります。後半になってからオーストラリアは、ゴールライン近くまで侵入してクロスを上げてましたが、意図的にGKとDFの間にボールを入れるという場面は見られませんでした。また、CKで西川選手の前に長身選手が入ってきてGKと競り合うといったプレーもありませんでした。

山野 西川選手が処理したクロスは、腹の高さが2回、グラウンダーが1回です。その3つは、ゴールエリアを飛び出さないと取れないようなボールでした。わりと速度があったんですが、相手選手と競ったという場面ではなかった。フリーで対処できて、ボールの弾道自体、そんなに難しいものではなかった。

オーストラリアの選手はフィジカルが強くて高さに強いと考えられていた中で、勇気を持って前に飛び出そうとした意志は見えました。相手は強さと高さを持っていますから、ゴールラインから飛び出して前に出ることは怖かったと思うんですよね。顔よりも上に来たボールをオーバーハンドキャッチのようにして取る場面は2回しかなかった。キャッチングに関してはイージーな場面が多くて、イラク代表の方が日本の高さに関する弱点を狙っていた。オーストラリアは、日本のGKの弱点を突いてこなかった。

――キックに関してはどうでした。イラク戦では、効果的なキックはあまり見られませんでしたが。

山野 キックは29本蹴って、12本成功しています。成功しなくても、味方の方に行ったキックや、ちょっと長すぎたけど惜しいキックはありました。イラクは、西川選手にうまく蹴らせないため、ボール保持者の西川選手にプレスを掛けるなど対応していました。また西川選手はそれでパントキックを蹴れなかったのか、地面に一度ボールを落としてじっくり時間を掛けて蹴る場面が多く、その間にイラクDF陣がしっかり日本の前線の選手たちをマークしていたので、キックの成功率は低かったです。

一方、オーストラリアは、西川選手に対してそんなに厳しくプレスに来なかった。そのため西川選手は、イラク戦ではほとんど使わなかったパントキックを多用しました。これがイラク戦との大きな違いです。しかもそのうち1本を右サイドの味方選手にピンポイントで通し、日本のチャンスを生み出しました。キックに関してはイラク戦よりも西川選手の持ち味が出ていました。

――試合を通して落ち着いてプレーできていたように見えましたね。

山野 まずいプレーはなかったですね。FKを止めた場面があったじゃないですか。キャッチできるようなボールなんですけど、あえてセーフティを優先してパンチングでクリアした。セカンドボールを取られない場所にはじいていた。自分の能力と相手の状態を考えた上で、そういう選択ができたのは、好判断だったと思います。もちろんキャッチできるのが一番いいんでしょうけど、それは理想論であって、現実の試合の中では、相手もいることですからね。あと良かったのは、シュートを打たれても味方に「大丈夫だ」と声を掛けていたことです。自分自身にも言い聞かせていた部分もあったのだと思います。

原口元気のシュートは止められなかったのか?

――オーストラリア代表GKマシュー ライアン選手のプレーはどうでした? 失点場面を振り返ってほしいのですが。

山野 前提として、GKの目の前までフリーでボールを持って来られているので、失点をしても仕方がない場面でした。あのような場面までも「GKが止めないとダメだ」と思われるのは、まずいことです。「GKは、どんな状況でも一対一を止められる」というのは間違った認識です。一対一は基本的にシューターが有利であり、GKが止めることは非常に困難なのです。

ただ1つ気になったことはあります。原口選手がシュートを打つ前に、ライアン選手が両手を肩のあたりまで若干上げたんです。それは無駄な動作です。手を上げて下ろしたタイミングで、原口選手がシュートを打った。その動作を入れずに最初から手を下に構えてきちんと準備していれば……。どうなったんだろうかとは思いますよね。2回くらい手を上げているんです。クセなのかもしれない。それでセーブするタイミングが合わなかった。

――原口選手のシュート場面のリプレーを見てみますね。ああ本当ですね。ライアン選手が手を上げて下ろすタイミングでシュートを打たれている。

山野 シュートコースは切れているんですが、タイミングが合わなかった。ポジションを若干修正する時に、手を肩ぐらいまで上げて、その間にシュートを打たれている。このプレーがなければ、もしかしたら止められていたかもしれない。手を上から下にする段階で間に合っていないですよね。

――一対一の場面の時に、GKは両手を下にして大きく広げて壁を作りますよね。

山野 GKの手の位置はシューターとの距離で変わっていくんです。原口選手との距離はすごく近いですよね。

――2メートルくらいです。

山野 その距離だと原口選手のシュートは、GKからすれば下からボールが来る。至近距離から打たれたら、上から下に手を持っていったら間に合わないじゃないですか。

――本田圭佑選手のスルーパスが正確だったので、GKが前に飛び出してセーブすることは無理でしたね。

山野 その通りだと思います。本田選手のパスが明らかに大きくなってGKの前に来た場合、つまり、本田選手のパスがダイレクトでペナルティエリアに入ってきた場合は、フロントダイビングを選択します。または、原口選手のトラップが大きくなった場合ですね。しかし失点場面に関しては、前に出てフロントダイビングでボールに突っ込む選択は「ばくち」になります。

――原口選手のシュートは、ライアン選手の左側を抜けていきます。その時に、ライアン選手の左脚の膝から下の部分がピッチに着くくらい曲げられていますよね。あのプレーには、どんな効果があるんですか?

山野 シュートコースは切られているんですが、自分の股(また)を抜かれないように、左脚を折ってカバーしているんです。これはGKがよくやる動作です。このプレーをやってもいい状況はあるため、そこまで否定はしないんですが……。

左脚を折って地面に着けた場合、ニアサイド(右側)にシュートが来れば、ニアサイド側の右脚はどうにか動かせます。しかし、ファーサイド(左側)にシュートを打たれたら、左脚を動かすことはほぼ不可能なため、折り曲げた左脚の少しでも外側にボールが来た場合、シュートを止めることはできません。この姿勢だと股の間は防げるけれどもファーサイドへのシュートは防げない。実際に、原口選手のシュートはファーサイドに打たれています。

ライアン選手はスペインのバレンシアCF所属していますが、スペインリーグでは、よく見掛けるGKの守り方です。ですから、GKの守り方として間違いではない。ただ、もう少し角度がない位置からのシュートであれば非常に有効なのですが、このように角度もシュートコースも大きく空いている状況では、折り曲げた脚と同一方向のシュートはほぼ防げないというリスクがあります。

日本がW杯で勝点を重ねるために必要なやり方

――後半29分にGKのライアン選手のファインセーブがありました。右サイドから酒井高徳選手(ハンブルガーSV)がクロスを送って、そのボールに小林悠選手(川崎フロンターレ)がフリーでヘディングシュートを放つ。ライアンの右手1本で防がれてしまう。とても惜しい場面でした。GKのこのプレー。山野くんにはどう映りましたか?

山野 あれは、かなりいいシュートだった。ライアン選手がヘディングを止めた場面ですが、セービングの飛距離が長いんです。中南米のGKを見てきて、僕が感じたことなんですが、日本のGKは、あのようなきわどいシュートに対して、足の指先から手の指先までしっかり伸び切ってセービングできない。

「ローリングダウン」(※1)というセービングの方法があります。ローリングダウンとは、体に近いシュートに対して、体の下の部分ですね、足の側面から徐々に体の横の側面へと落として衝撃を和らげるやり方のことです。日本のGKの練習を見ていて、足の裏から降りるようなセービングをする選手が多い。それだと、遠いシュートには届かない。選手本人は、マックスで跳べていると思っていても、本当はもう20パーセント飛距離を伸ばせるのに、80パーセントのところで終わっている選手が多い。欧州や中南米のGKを見ると、手と足をマックスに伸ばしてセービングします。だから遠いボールにも手が届くんですよ。

準備段階でも差があるし、その後の止めるセービングでも差がある。日本のGKだったら、小林選手のあのシュートはゴールに入っていたかもしれません。

――あのシュートが入っていたら日本は逆転していた。止められたから同点のまま試合が進んだ。勝負を左右する大きなプレーでした。

山野 ブラジルW杯でもユーロ2016でも、3回くらいはああいうシュートがくる。3回のうち2本を止めたチームよりも、3本全てを止めたチームが勝つのは当たり前の事実。あのようないいシュートが来た時に、止められるのかどうかで、大きな大会において勝点を取れるかが分かれる。

実際、ブラジルW杯でもユーロ2016でも、GKが「どれだけ止められるか」が順位に直結していました。例えばユーロ2016の準決勝。ドイツ代表はフランス代表よりも多くのチャンスを作りましたが、GKウーゴ ロリス選手が「止めた」ことで劣勢だったフランスが勝利を収めています。また決勝では、フランスがより多くのチャンスを作りましたが、GKルイ パトリシオ選手が再三にわたって「止めた」ことによりポルトガル代表が勝利を収め、優勝しています。「GKの実力」が試合内容を超越して勝利をもたらすほど大きな割合を占めているのです。

W杯になったら、少なくともライアン選手が止めたようなセーブを日本代表GKが見せないと、勝点が取れないことは自明です。ただ現状の日本人GKの実力だと、それが難しい。僕が考えるには、日本が勝点を取るには2つのパターンがあります。

(1)相手よりも点数が入るサッカーを選択すること。日本のGKは、3回ある危険なシュートを3回も止めることを期待できない。そうした前提に立って、日本が、相手以上に得点を取る攻撃的なサッカーをする。3点取られたら4点取り返す。

(2)徹底的に守備的にして、相手にチャンスすら作らせない。GKが決定的な場面に直面するシーンを作らない。

実は、(1)のようなシュートの打ち合いになったら、結局GKの実力差により「日本は負けてしまう」と考えています。W杯で勝つためには、オーストラリア戦のようなサッカーをして、GKにとって危険な場面を作らせない展開に持っていく必要がある。僕は、そう考えているんです。

川本梅花

(※1)「ローリングダウン」とは、体と地面の接触がある中でボールをキャッチする技術のこと。ステップを使って、ボールのコースに体を運ぼうとしたが、それでも追い付けない場面がある。その時に「ローリングダウン」が必要とされる。GKは、体を投げ出し無防備になる瞬間もあるので、安全にプレーするために良い習慣を身につけなければならない。正確で確実にボールをキャッチするには、正しいフォームで対処しなければならない。GKにとって、大切な技術の1つである。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ