福岡通信:福岡フットボール映画祭
2月28日、福岡アジア美術館あじびホールで「福岡フットボール映画祭」が行われた。その名の通り、上映されたのはサッカーを題材にした映画が4本。上映の合間にはトークショーや抽選会なども行われる盛りだくさんな内容に、会場に足を運んだ多くのサッカーファン、映画ファンにとってはたまらない1日になった。
日本で初めてサッカーに関する映画祭が行われたのは2011年の「ヨコハマ・フットボール映画祭」。現在では1000人を超えるイベントとして運営されており、会場に足を運んだことがある人はもちろん、その存在を知るサッカーファンは多い。口コミで広がった人気は「横浜以外でも開催してほしい」という声になり、5年目を迎えた今年、全国のサポーターグループ、有志などとの共催で全国展開することを決定。その一環として福岡でも初めてフットボール映画祭が行われることになった。福岡フットボール映画祭実行委員長の谷脇良也さんは「サッカーの魅力を伝えたくて手を挙げた。今年限りではなく、来年、再来年と続けていって、福岡のサッカーイベントとして根付かせていきたい」と話す。
また、上映の間に行われたトークショーには、ヨコハマ・フットボール映画祭福島成人実行委員長、日本代表サポーターであり被災地支援活動を展開する「ちょんまげ隊」のつんさんなどの多彩なゲストに加え、スカパーサッカー中継でお馴染みの南鉄平さん、森田みきさん、藤井潤ブラインドサッカー日本代表コーチ(アビスパ福岡)、木原正和監督県選手(プノンペンFC)ら、福岡のサッカーファンにはお馴染みの顔が揃った。また、元アビスパ戦士である吉原正人選手も壇上に登場し、今シーズンからのプノンペンFC入りが発表されるというサプライズもあった。
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さて、映画の内容にも少しふれておきたい。
上映されたのは「アイ・コンタクト」「オフサイド・ガールズ」「ネクストゴール」「メッシ」の4本。もちろん、いずれもサッカー映画なのだが、誤解を恐れずに言えば、サッカー映画であってサッカー映画ではない。そこに描かれているのは、人生を必死に生きる人たちの姿と想い。登場人物の想いや生きざまがサッカーと繋がることで、それぞれが何かを見つけていく。いずれの作品にも、人生を阻む壁、それを乗り越える力強さ、そして未来への希望が描かれている。最近、涙もろくなったせいもあるのだろうが、何度も涙腺が緩んだ。
「アイ・コンタクト」は、2009年にデフリンピック(ろう者のオリンピック)に初出場を果たした“ろう者サッカー女子日本代表”を追ったドキュメンタリー。大会に挑戦する彼女たちの姿はもちろん、ここに至るまでの彼女たちの生い立ちに迫る内容は様々な事を考えさられる。スポーツドキュメンタリーというよりも、ろう者の現状と、それに対する関心や理解が深まる作品になっている。
「オフサイド・ガールズ」は、女性がスタジアムで男性と一緒に観戦することが法律で禁止されているイランの物語。2005年に行われたドイツW杯予選のイランvs.バーレーン戦が舞台になっている。この試合に勝てばW杯出場が決まるという大一番に男装してスタジアムに潜り込んだ女性たちの行動を通して、イラン社会を風刺する内容だが、それでも、ゴールが決まり、勝利が決まると、そんなことはお構いなしなしに騒ぎ出すところに、サッカーらしさが感じられる。カリミ、マハダビキア、アリ・ダエイなど、少しベテランになったサポーターには懐かしい名前も随所に出てくる。
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私が最も感動したのは「ネクスト・ゴール」。2001年に行われたW杯予選で、0-31の歴史的大敗を喫し、FIFAランキング最下位だったアメリカ領サモアの代表チームを追っ作品。そのチームを強化すべくやってきたオランダ人監督トーマス・ロンゲンと選手たちとの関わりを軸に描かれている。互いにぶつかり合いながら、アメリカ領サモアの独特な文化と、サッカーというスポーツが混じり合い、やがて、それぞれが負った傷が癒され、人として大切なものを見つけていく。特にトーマス・ロンゲンがチームを去る時に残す言葉が心に残る。
そして、会場が満員になったのは「メッシ」。アルゼンチンの貧しい町・ロサリオで生まれた小さな少年が、どのようにして世界一流の選手に登り詰めたのか。その道のりを追ったスポーツドキュメンタリーだ。幼なじみ、小学校時代のチームメイト、イニエスタ、マスチェラーノ、ピケ、クライフ、メノッティ、サベージャ、マラドーナらのインタビューと、メッシのプレー映像でつづる93分間は、ひと時も目が離せない。
余談だが「アイ・コンタクト」も「ネクストゴール」も、最後の試合は、まさに「これがフットボール」という形で終わる。だからこそ、彼女、彼らは、また逞しく生きていくのだとろうと思う。
11時の上演開始から最後まで一気に見続けた感想は、ただ、ただ、素晴らしいのひと言。来年も珠玉のフットボール映画が福岡で上映されることを期待したい。
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