「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】順調に進んだ宮崎キャンプ。手にした収穫と見つけた課題をもとに開幕に向けて最終調整に入る:【中倉’s Voice】

順調に終えた宮崎キャンプ
「あまり難しく考えずに、自分たちが今までやってきて成功していることをもう少し速く、もう少し正確にということの方が大事」。
長谷部茂利監督が話していたように、大きな驚きはないが確実に積み上げている。そんな印象を受ける宮崎キャンプだった。

まず印象に残ったのが、アビスパのベースの部分についての完成度の高さだ。キャンプ2日目の1月24日に行われた戦術トレーニングでは、前線からのプレスのスイッチを入れるタイミング、それに合わせて連動してボールを追いこむ形、そして奪ってから攻守を鋭く切り替えてゴールに迫る流れなど、昨シーズン中とそん色のない姿を見せた。「チーム戦術のところはベースとして去年から引き続きあるので、そういう部分については非常にスムーズにいっている」と話すのは宮大樹。今年もキャプテンとしてチームをけん引する前寛之も「去年からいるメンバーが多く、新加入選手も一昨年と比べると少ないので、チームの出来上がりというものも早いように感じる」と手応えを口にする。

際立つクルークスのコンディションの良さ
また、90分戦えるコンディション作りもキャンプにおいては重要な要素。選手個々のコンディションについては差があるものの、全体としてはこちらの仕上がりも早いようだ。特に際立っているのが、長谷部監督が「非常にコンディションはいい。身体にキレがある」と話すジョルディ クルークス。スピード、足下の細かいテクニック、そして実戦練習の中でのシュートなど、昨シーズンを上回るキレ味を見せている。

昨シーズンはコロナ禍による入国制限や、入国後の隔離期間などの影響で数か月間にわたってサッカーができず、チーム戦術を落とし込むために必要な宮崎キャンプにも参加できなかったが、2年目を迎えてチーム戦術の理解度が高まっていることに加え、キャンプ前に合流しチーム作りの初期の段階からともにトレーニングを積んできたことが要因の一つになっているようだ。クルークスゾーンからのシュートで、アビスパのファン、サポーターのみならず、Jリーグファンの度肝を抜いたクルークスだが、ヨーロッパで磨いた技術をさらに見せてくれることになりそうだ。

進む新戦力との融合
新加入選手の融合も着実に進んでいる。1週間の完全非公開練習を経て4日目のメディア公開日となった2月3日は実戦形式のトレーニングとなったが、的確なポジショニングで最終ラインを守る熊本雄太の姿に、長谷部監督は何度も「ナイスポジション」と声をかけ、井上聖也はプロ1年目ながら物怖じしないプレーぶりで、声と身体で仲間に指示を送り、鋭い縦パスを付けるシーンも見せた。そして、アカデミー育ちらしい足下の高い技術を駆使して積極的にボールに絡む前嶋洋太は、エミル サロモンソンとは違った形で攻撃の起点になりそうな期待を漂わせている。

また、「守備もハードワークできる選手で、攻撃ではボールを収めてくれたり、点が取れたり、パスを出せるし受けられるしと、何でもできる選手」(金森健志)というように、ルキアンの存在感は期待通り。そして、キャンプ初日から持ち味である縦への突破を見せ続けている田中達也は、練習後に長谷部監督と話し合うなど、攻撃面でのアクセントになるべく着実に準備を進めている。15年ぶりに憧れのアビスパのエムブレムを背負って戦えることに対するモチベーションも高く、その想いをピッチにぶつけてくれることは間違いないだろう。

課題にどう向き合えるか
もちろん課題もある。それは長谷部監督がことあるごとに口にする攻撃力をいかに上げるかということ。具体的には、相手から奪ったボールをいかに効率的に攻撃につなげられるかということだが、長谷部監督は「一番変わったことは意識。意識を持ってトライしているので、手応えという意味では一つクリア」と話す一方、「そう簡単に克服はできない」とも口にする。意識が高まったことによる利点もあれば、意識が変わったからこその課題のようなものも見えているというのが現状だろう。

意識の変化に伴う弊害として長谷部監督が挙げるのは「違うプレーを選択した方がいい場合もつなぎにいってしまったりする」こと。そして中村駿は「苦し紛れに(ルキアンに)ボールを入れるシーンが最近は目立ってしまっている」ことを挙げる。いずれも、ゴールを強く意識することから生まれてくる現象で、試行錯誤する過程で一度は通らなければいけない道とも言えるもの。それぞれの状況の中で何を最優先にするべきかという状況判断を磨くことで解決していかなければならない。

何がしたいのか。何をしようとしているのか
ただ、課題があること自体は大きな問題ではない。キャンプは何ができるかだけを見つける場所ではなく、何ができないのか、その克服のために何をしなければいけないのかを把握する場所でもあるからだ。さらに言えば、キャンプに限らず、どんなチームでも、どんな時でも課題は常に存在するもので、課題があること自体が問題なのではなく、課題に対してどのように向き合うかが重要で、その姿勢が自分たちの将来を決める。

大切なことは、長谷部監督がいつも話すように「自分たちは何がしたいのか。何をしようとしているのか」という問いかけを常に自分に向けること。急ぐのか、やり直すのか、あるいは状況を回避することを優先させるのか。すべての答えは、その問いかけの中にある。約9カ月間にわたって戦うリーグ戦では、2週間後に迫った開幕戦を100%の状態で迎えることはあり得ないが、昨年の戦い方に何をプラスして開幕戦を迎えられるのか。雁の巣に帰ってからの調整に注目したい。

[中倉一志=取材・文・写真]

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