川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】#田向泰輝 のオーバーラップを見逃すな【無料記事】急成長するサイドバック

田向泰輝のオーバーラップを見逃すな

2018年03月17日、明治安田生命J2リーグ第4節、水戸ホーリーホックはレノファ山口FCをケーズデンキスタジアム水戸に迎えた。試合は、田向泰輝の得点を含めて3-0で勝利を収めた。

このコラムでは、49分に左足から放たれた美しいシュートを決めた田向のプレーをピックアップしたい。

田向は、昨年シーズン、浜崎拓磨に右サイドバック(SB)のポジションを奪われた形になっていた。今季、就任した長谷部茂利監督は、田向を左SBへコンバートして起用している。田向は守備の安定はあるのだが、攻撃に関して浜崎の方が勝っている部分がある。それは、クロスの精度だ。

おそらく、長谷部監督は、左SBの候補者として、まずは佐藤祥とジエゴを考えたことだろう。佐藤は2対1の数的不利な場面で、ボールホルダーにプレスに行く癖がある。それによって、ワン・ツーでかわされて裏を取られるシーンが何度かあった。練習でも、同じようなプレーをして、改善されなかったのだと思われる。次に、ジエゴだが、攻撃力、特にスプリント力には目を奪われる。しかし、守備に関しては、誰かにケアさせる前提でなければ、スタメンでは使えない。

そこで、守備に安定感のある田向にコンバートになったのだろう。

この日の山口戦を見ていて、ケガで不出場の浜崎に代わってスタメン出場した田向は、慣れている右SBとは言え、急成長を感じさせるプレーを見せていた。

左SBのジエゴが高い位置を取るので、もともといたポジションが空いたままになる。そこをセンターバック(CB)の福井諒司が、左にスライドして埋めようとする。田向は、ジエゴが高い位置を取るために、前線に駆け上がっていく時、右SBのポジションに田向はステイして留まる。

じっと我慢して山口の攻撃を摘み取っている。そうしていた田向は、前線に駆け上がるチャンスを今か今かと待っていたのである。

山口は、同点にするために両ウィング(WG)を高い位置でタッチラインに張らせる。水戸は4バックなので、守備の4人はボールホルダーに寄っていく。したがって、ボールホルダーの逆サイドにいるWGは、フリーで待ち構えていられる。

ここで田向は、攻撃のためにWGが残ってタッチライン沿いで待っていることに気づく。ならばと考えて、田向は、攻撃参加しようとオーバーラップして前に駆け進んでいく。

山口の選手は、水戸のボールホルダーの方に気を取られている。田向が、ペナルティエリアに侵入できた時はフリーの状態になれた。左サイドにいた味方の選手が、田向にパスを出す。ドリブルでゴールに向かおうとした時、山口の選手が後追いしてきて、スライディングでシュートをクリアしようとした。相手のその動きを確認した田向は、切り返して左足でシュートを放つ。

実は、この形は、何度か目撃したことのあるシュート場面だった。昨年までは、ゴールの枠内を超えてボールは遠くにキックされた。しかし、この日は、見事にゴールネットを揺らした。

この一連の流れは、おそらく田向が試合をしながら考えて感じていたことなのだろう。山口は同点にしたいから、WGは高い位置に残る。田向とマッチアップするサイドの選手の守備力は低い。山口は、攻撃参加に人数を割いているので、ボールホルダーの逆サイドの守備の人数が間に合わない状況になっている。

こうしたことをプレーしながら見ていたから、イメージしていたプレーが実現したのだ。オーバーラップのチャンスを虎視眈々(たんたん)と狙っていた田向。おそらく実行できる機会は1回か2回だろう。数少ないチャンスをものにするために、田向は、上がれる時でも無理をしなかった。

そして、チャンスをものにした。

これは、急成長の兆しと言っていい。

川本梅花

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