驚きのユーロ予選と変貌するヨーロッパ 千田善の欧州フットボールクリップ
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ラグビー・ワールドカップ、ジャパンが勝ちましたね! しかも優勝候補の南アフリカを破る大ジャイアント・キリング! サッカーよりも番狂わせが起きにくいラグビーで、たいしたものです。このところパッとしないできごとばかりだったので、久しぶりに興奮、スカッとしました。
さて今回は、来年フランスで開催されるユーロ2016(欧州選手権)の予選について。9月ラウンドを終えて、残り2試合の時点で、アイスランドが予選突破を決め、ウェールズも「王手」など、これまでメジャーな国際大会に出場したことのない「小国」が健闘しています。
一方、アイスランドと同じグループAで、強豪のオランダがプレーオフ圏外の4位に沈むなどの異変も起きています。クロアチア(グループHで3位、民族主義宣伝で勝ち点1剥奪)のロベルト・コバチ監督が解任されるなど、厳しい状況です。
ユーロ2016は、これまで16カ国だった本大会出場枠を24カ国に拡大するなど、いくつかの変更点があります。予選は前回と同じくAからIまでの9つのグループに分かれています。前回までは各組1位と、2位の中でもっとも成績がよい国のみが無条件で予選突破、2位以下がプレーオフに回りました。これに対して今回の予選は、2位までが自動的に出場権獲得、3位の国どうしでプレーオフへ。ふだんよりも本大会出場の条件は緩やかになったはずですが、番狂わせが続いています。
■人口30万人のアイスランドが起こしたサプライズ
9月の時点で本大会出場を決めているのは、開催国のフランス(予選免除)のほか、アイスランドとチェコ(A)、イングランド(E)、オーストリア(G)の4カ国。
中でもアイスランドは注目です。人口30万人、面積は北海道と四国を合わせた程度。しかもアラスカと同じ緯度でもうすぐ北極圏というお国柄。有名なのは火山国であること。コロンブスより500年も早くアメリカ大陸に到達していたこと。ほかには冷戦終結にむけてアメリカのレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が首都レイキャビクで会談した(1986年)とか──サッカーの分野ではあまり話題になったことがありませんでした。
なにしろ緯度が高く寒冷地なので、11月から3月までまるまる半年間は屋外でのサッカーには向いていない。そのため、ユーロの予選もこの時期はアウェイの試合を組んでもらったほど。まるで夏の甲子園で阪神が「死のロード」を強いられるようなもので、親善試合を含めて11月から3月はアウェイの試合が続きます。
アイスランドの選手では、チェルシーやバルセロナでプレーしたエイドル・グジョンセン(*)くらいしか知られていない。37歳になったそのグジョンセンはまだ現役で、予選突破を決めた試合でこそベンチでしたが、アウェイのカザフスタン戦でゴールを決めて勝利に貢献するなど、ベテランとして活躍しています(現在は中国・石家荘永昌に所属)。
(*アイスランド人には本来、苗字=姓がなく、ファーストネームに加えて「父親の名前+ソンまたはセン」(女性の場合は「+ドッティル」)を便宜的に苗字のように使う。つまり、息子と娘、孫は苗字が違うことになる。ただしグジョンセンの場合、同じくアイスランド代表だった父親のアルノールも姓はグジョンセン)
もっとも大きな番狂わせは、グループ首位通過候補だったオランダにホーム、アウェイとも勝ったこと。とくに今月(9月3日)のアムステルダムでの試合では、双方合わせてイエローカード5枚、レッド1枚と荒れた試合ながら、PKの1点を守りきってオランダを絶望の底に突き落としました。
そのオランダは、続く6日のトルコ戦も落としたため、地力でプレーオフ圏内の3位になることが消滅しました。残り2試合(カザフスタン、チェコ)に連勝して、勝ち点2差のトルコが負けるのを願うしかない状況(トルコの残りの対戦相手はグループ1位と2位のチェコとアイスランドなので、可能性はないわけではない)。
アイスランドといえば2012年2月(やはり冬期ですね)、大阪・長居でザッケローニ監督率いる日本代表と対戦、2−1で日本が勝っています。この当時のアイスランドのFIFAランキングは131位。ヨーロッパ内でも54カ国中UEFAランキング38位と、とてもユーロ本大会に出場できるような気配はありませんでした。
変化が起きたのは、日本戦の前年の2011年にスウェーデン人のラーゲルベック監督が就任してから(長居での日本戦はその変化の途中だったことになります)。さらに2013年にアシスタントコーチのハルグリムソン氏と2人で「共同監督」体制にして以降、勝率が5割を突破。これに、引き分けを加えた「無敗率」が7割と好成績を残すようになります。現在、FIFAランキングは日本(58位)をはるかに追い越して20位台の前半になっています。
選手の所属クラブを見ると、まあまあ知られているのは主将で守備的中盤のアーロン・グンナルソンのカーディフ(イングランド2部)、10番のギルフィ・シグルズソンのスウォンジー(イングランド)のほか、ニュルンベルク(独)、オリンピアコス(ギリシャ)、バーゼル(スイス)──それ以外はあまり聞いたことのないクラブ名ばかり。キャプテンのグンナルソンは、予選突破を決めた試合ののち「自分はサッカーをしていて、このような結果になるとは考えたこともなかったよ」と、うれしいながらも驚いたというコメントを残しています。
おそらく、ビッグクラブでプレーする選手はグジョンセンが初めてと思われますが、そんなチームを強くしたのは何だったのか。ひとつは、スウェーデン人のラーゲルベック監督が「守備のやり方」を教えたのだとか。それまでアイスランドのサッカーはイケイケで、攻撃ばかりが好きな選手が集まって、うまく行くときは行くが行かないときはダメ、というアマチュア的なスタイルだったといわれています。それが好成績をもたらしはじめた。
ただし、「守備ばっかり」やらされて選手が反乱を起こしそうになったらしい。そのとき、アイスランド人のアシスタントコーチ、ハルグリムソン氏が「昇格」して、2人で共同監督になった。それがバランスを取る効果をもたらし、よい結果につながった、とされます。それが本当ならば、戦術的指導と選手のメンタルコントロールの両輪のバランスを取ったということになり、チーム作りの常道・王道だからといえますね(もちろんいつもうまく行くとは限らないけれど)。
その後、史上初めて、ワールドカップ2014年大会(ブラジル)の欧州予選でグループ2位になってプレーオフに進出するという「快挙」を達成。この時はクロアチアに敗れて本大会出場は逃しましたが、今回のユーロ2016予選は自力で突破を達成しました。
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