【additional column 11】「なんて年だ!」と思ったけれど。
いろんなことが起きてバタバタと日々が過ぎていった2016年も、今までと同じように暮れを迎え、そして間もなく、新しい年が訪れようとしています。しかし振り返ってみれば、こうして穏やかな時間を過ごせる、そのこと自体がいかに恵まれたことであるかを実感しますし、パソコンの画面に向かい、「早く仕上げなくては」などと考えながらキーを叩けていることだって、奇跡なのではないかとさえ思います。
全国的にも大きく報道された、熊本地震によって崩落した国道57号線の南阿蘇村阿蘇大橋付近は、私にとっては実家に帰るときに必ず通る、走り慣れた道でした。あの坂を緩やかに左に曲がりながら上り、さらに右にカーブしていくと、見慣れた形の五岳が見えてきます。ちょうど、本当の「地元スイッチ」が入る辺りです。
そうでなくても、熊本県人ならたいていの人が観光やドライブや、仕事でも通ったことのある場所だったでしょう。そんな身近な場所が地震で無惨に崩れ、大きな橋が流され、跡形もなくなってしまった。本震が起きた4月16日の深夜1時25分頃、あの場所を車で走っていたと思われる大学生はずっと行方不明の状態が続き、数ヶ月後に下流で見つかった黄色い車は、大きな岩に挟まれ、押しつぶされていました。
あれから8ヶ月半、その間に何度か、ふと考えたことがあります。あの時、あの場所を通っていたのは、もしかしたら自分だったかもしれない。巡り合わせが違っていれば、彼ではなく私が、あの大規模な土砂崩れに巻き込まれていたかもしれない。益城町や西原村、南阿蘇村で亡くなった方たち、あるいは家が倒壊してしまった方に対しても同じで、地震をきっかけに起きたことの全ては、もしかしたら私の身に起きていてもおかしくなかったのです。
もちろん、悲しみの深さや被害の程度は、実際にそれを被った方とは違い、比べようもありません。しかしある意味、熊本に関わる誰もがその痛みをともに抱え、送ってきた2016年だったのではないかと思います。
傷ついたままの熊本城はその象徴で、まだ癒えていません。ただ、痛々しい姿であってもそこに在る、残っていることだけでありがたいのも確かで、「必ず、元通りになった姿を見よう」という気持ちが湧いてくるのです。
そしてサッカーと、サッカーでつながる全国の皆さんからの励ましや支えもまた、前に進む力、その動機付けを与えてくれました。とくに、複雑な思いを持ってシーズンを戦いながら、一方では地元のために奔走した2016年のロアッソ熊本は、これまでのクラブの歴史の中でもとりわけ忘れ得ないチームになりました。
各媒体の振り返り記事でも同様のことを書きましたが、成績では思うような結果は残せなかったものの、それ以上の価値、地方クラブの存在意義を示したシーズンになったことは間違いありません。できることなら、シーズン途中にチームを離れてしまったアンデルソンや坂元大希も含めてもう1年、同じメンバーで、普通の日程で戦えないものか。無理だと分かっていても、そんなことを思ったりもします。
しかし1年という時間の区切りがつけば、選手達は貴重なキャリアの中で1つ年を重ね、次の選択をしなければいけない。残る選手がいれば去る選手がいるのはプロスポーツの世界において避けられないことで、『特別な1年』を共に過ごしてきた『特別なチーム』からも、数名の選手、スタッフが離れることになりました。
まだ次の所属先が決まっていない選手もいますが、昨日公開した記事で森川泰臣選手が話してくれた通り、「この世界にいる限り、巻き返せるチャンスはある」わけですし、何より、彼ら自身が今シーズンの戦いを通して諦めずに戦うことで道が拓けることを見せてくれたように、次の舞台での活躍を期待したいと思います。
「信じられないこと」「想像もしないこと」が「自分の身にも起きる可能性がある」ことを実感した年でした。「なんて年だ!」と思いました。しかし、「信じられないこと」「想像もしないこと」は決して、マイナスの悲しいことばかりではなく、一方では想像を超えた素晴らしいことだって起こりうるはず。そんな前向きな可能性を、来年からは信じていきたいと思います。
ロアッソ熊本は来シーズンも清川浩行監督が指揮を執ることが決まり、新しい選手の加入も発表されています。新チームの編成や強化の狙い、新加入選手の紹介等については、年が明けてから順次、お伝えしていく予定です。また、ロアッソ熊本に限らず、県内の各カテゴリーのサッカー関連の情報も、引き続き取り上げていきます。
今年1年、当webマガジンをご覧いただき、ありがとうございました。2017年もどうぞよろしくお願い致します。