kumamoto Football Journal

【TOPICS】100秒間のエンタメ。試合直前の空気をふっと和ませる、ボールパーソンのパフォーマンスの舞台裏。

5月3日の第13節、鹿児島ユナイテッドFC戦では、熊本ジュニアユースの選手たち19人が、TikTokで話題になっていた「ぺーろぺーろぺろペペロンチーノ」のダンスを披露(©AC KUMAMOTO)

 

クラブが誕生して20年めの今シーズン、熊本のホームゲームでは、コンコースでのパネル展示や過去に在籍したOB選手のトークなどが行われているが、ピッチ上でも昨年までは見られなかった試みがある。ボールパーソンによる短いダンスパフォーマンスがそれだ。どういった経緯でスタートし、どう進めているのか、試合当日の運営の分担の中で、ピッチボードの設置・管理とボールパーソンの指揮管理を担当している(株)アスリートクラブ熊本の濱崎照和企画総務部長に話を聞いた。

 

 キックオフのおよそ10分前。バックスタンド側に整列したボールパーソンは、場内アナウンスで紹介されると駆け足で入場してセンターサークル上に整列。入場してきたのとのは別の曲に合わせて短いダンスを披露し、また駆け足で退場、それぞれの持ち場につく。2分にも満たない短い時間だが、試合前の緊張感を少しだけ和ませる時間として定着してきた印象だ。

 この「ボールパーソン紹介イベント」が始まったのは、第9節のV・ファーレン長崎戦から。きっかけは、(株)アスリートクラブ熊本の藤本靖博社長のひとことだったと、濱崎さんは言う。

「ホームゲーム運営についてのミーティングの中で、スタッフと同じ試合運営に携わる一員なのだから、ボールパーソンにもっと光を当てようという提案がありました。内容は任せる、とのことだったので、他のクラブの事例を参考にしたり、どんな形で紹介するのが良いか検討した結果、TikTokなどで話題になっているダンスを短い時間でやってもらうことにしました」

 長崎戦ではジュニアユース熊本の選手たち19人がボールパーソンを担当したが、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」に合わせた短いダンスを披露。以降、ジュニアユース阿蘇、ジュニアユース人吉、直近の第29節・藤枝MYFC戦ではユースと、アカデミーの選手たちがボールパーソンを務める機会が多い。

 もちろん、何を踊って欲しいかは前もって知らされているとは言え、週末は彼らにとっても大切な試合が行われることが多く、ダンスを練習するために長い時間を割くわけにはいかない。そのため、振りを覚え、時にフォーメーションの確認をするのは試合前のわずかな時間だけ。その分、振りが不揃いだったりすることもあるが、その「ゆるさ」もまた、見る側の気持ちを和ませる要素になっている。もっとも、アカデミーのスタッフからは、「恥ずかしがってやる方が恥ずかしいし、こういう大舞台でパフォーマンスをすることで度胸がつくんだから、堂々とやりなさい」と指示されているとのことで、彼らにとっても貴重な機会になっている。

 アカデミーの選手たち以外では、第20節のファジアーノ岡山戦でサックスマッチとなった関係から熊本トヨペットサッカー部の14名が「め組の人」に合わせて踊ったほか、JFAアカデミー熊本宇城(第10節)や武蔵中学校(第22節)、西合志南中学校(第27節)のサッカー部の子どもたちも担当。試合ごとに広く募集しているわけではなく、基本的にはクラブ側から依頼している形だというが、このパフォーマンスも含め、曲やダンスも絞り込んだ上で、「ボールパーソンをやりたい」という問い合わせも、ちらほら入るようになっているらしい。

 何を踊ってもらうかと、入退場時の曲のセレクトは濱崎さんに一任されているそうで、「TikTokで動画を漁る時間が増えて、妻からも小言を言われてます」と笑うが、一方では「スタンドから拍手が送られている様子を見たり、『今日はどんなダンスが見られるか楽しみ』という声を聞いたりする機会が増えて、やって良かったなと思います」とのこと。

 

「ダンスはTikTokからですが、入退場時の曲の選定は、私自身が1972年生まれなのでどうしても80〜90年代の曲が多くなってしまいます」という濱崎さん

 とはいえ、ボールパーソンの主たる役割はあくまで、円滑でスピーディーな試合運営をサポートすること。試合中の手の置き場所やボールが出た際の対応と選手へのボールの渡し方といった実際の動きだけではなく、「観客に見られていることを常に意識する」といったメンタル的な心構えまで、きっちりしたマニュアルをもとにした事前のレクチャーもしっかり行われている。アカデミーの選手たちが、トップチームが志向するスタイルを十分理解していることもあるが、こうした細やかな準備が、実際に早いリスタートやアクチュアルプレーイングタイムを伸ばすことにもつながっている。

 運営担当からは1分40秒以内に収めるようにと言われているらしく、試合前のピッチ練習から始まる「本来の業務」からスムーズに移行できるよう、集合場所を当初のメイン側からバック側へ変更するなど工夫を重ねてきた。観客を楽しませるという意味では、文字通り試合前恒例のイベントになってきたと言っていい。

「来季、社内での運営担当が変われば、ボールパーソンの担当も変わるかもしれませんが、せっかく楽しみにしていただけるようになったので、次の担当者にも続けて欲しいですね」と濱崎さん。長く続いている絆宣言や試合前の「HIKARI」、勝利後の「カモンロッソ」と同じように、みんなで試合を作り、楽しむというスタンスが表現された、熊本らしい時間だと思う。

 

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