中野吉之伴フッスバルラボ

【現地取材】ジャイアントキリングはなぜ起こる?フライブルクを撃破したビーレフェルトの戦いぶりから考えてみた

スタジアムに描かれた時代を感じさせる壁画。ゾクッとする

▼ ジャイアントキリングとは?

下馬評で不利と見られていたチームが有利と見られていたチームに勝利することがスポーツではよくある。その力量さが大きければ大きいほど、驚きは大きい。ただ「10回勝負をしたら1回勝てるかどうか」という比率がふさわしいと思われる力関係のチーム同士の試合でも、意外に頻繁に起こっている気がするから不思議だ。

《ジャイアントキリング》とも呼ばれるこれは現象なのか、巡り合わせなのか、あるいはただの偶然なのか。

特に一発勝負のトーナメント戦では起こりやすい。日本でもそうだし、ドイツでもそうだ。ヨーロッパ選手権でも、ワールドカップでもそうだ。

直近だと堂安律がプレーするフライブルクはドイツカップ3回戦で3部リーグに所属し、水多海斗がプレーするビーレフェルトに3-1で敗れた。この試合に限っていえば、ビーレフェルトの方がいいサッカーをしていたうえでの勝ち上がりだった。だが、なぜこのような展開となったのだろう?

「自分達のすべてを発揮して、あらゆる事象が自分達に有利な形で回ってくれたら、どんな相手にも勝てる」

これは指導者が口にする常套句だ。サッカーではあらゆることが起こる。試合が始まる前にはどれだけ力量に差があっても、勝利の可能性はどちらのチームにもあるのだ。

サッカーはチームスポーツであり、心理ゲームだ。力量通りの結果になるのは心理バランスが拮抗してたり、ゲームをイメージ通りにコントロールできたとき。逆にほんの少しでも余裕をもって試合に入ってしまうとうまくいかないときに、「こんなはずでは!」という焦りがすぐに生まれ、それが動きの一つ一つを鈍らせる。

ピッチ上の選手、ベンチの選手、スタッフ、集まったファンが最大限の集中力で、最適化された力を発揮し続ける。相手チームがリズムに乗れないように試合を運ぶ。失点をしないで、いい形でゴールを奪う。フィフティフィフティの判定が自分達有利にふかれる。ファンのサポートをパワーに変える。勢いに乗って相手の焦りを誘い続ける。

こうなるとどんなチームでも思うようなパフォーマンスを出すことは難しい。

卓越なゲームチェンジャーがいればこうしたネガティブなスパイラルから抜け出せるが、往々にして自滅状態になってしまうと、サッカーというゲームは不思議なほど何もかもがかみ合わなくなる。

とはいえ、だ。本来もともとの力量に差があるのだから、そんな風に思い通りな試合運びにするのは至難の業のはず。全力でプレーする気は誰よりもあるだろうが、軽率なミスは絶対にどこかで出てしまう。ただ「負けて当然。失うものなど何もない」と吹っ切れて戦うチームはそうしたミスさえも気にせず、時にセオリーを無視した戦い方に持ち込んだりする。

一方で格上とされるチームは負けでもしたら周囲からのバッシングやブーイングがすごいというプレッシャーがあるし、勝って当然、大量得点だって当たり前くらいの期待度を背負って試合をするから、いつも通りのプレーが難しかったりする。また普段試合をしない会場だと、その雰囲気に違和感を感じて、グラウンド状況や空気になじむのに時間がかかったりもする。

もちろん「いや、プロ選手なんだから」「1部リーグクラブなんだから」という前提は当然のことある。そして足をすくわれる危険性があるし、その可能性は思っているほど低くはないことを知っているからこそ、足を踏み外しやすいのだろう。

ファンの熱気は試合前から最高潮だった

(残り 3662文字/全文: 5243文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ