中野吉之伴フッスバルラボ

池上正主催ドイツ指導者研修レポート「百聞は一見に如かず。それならドイツに行ってみよう」

▼ へネフ シュポルトシューレ 施設見学

シュポルトシューレとは直訳すればスポーツスクールとなるが、学校ではなく、どちらかといえばトレーニングセンター。ここではグラウンド3面、多目的体育館、レスリング場、ボクシング場、柔道場、トレーニングルーム、プールなどなど本当に様々なスポーツ施設が揃っている。

宿泊施設も充実しており、220人用のベットがある。食事もスポーツ選手のためのメニューが考えれており、なおかつ味もいい。私はここでA級ライセンスを獲得したのだが、食事は毎日楽しみだったのを思い出す。

また、ここではそうしたいろんなスポーツの指導者講習会が行われたり、オリンピック強化指定選手の合宿やトレセン活動などが開かれる一方で、一般開放もしているので空きがあれば誰でも使用することができる。使用料もそこまで高くはない。サッカートレーニングできたチームが、ボクシング施設を使って特別トレーニングをしたり、夏場はリフレッシュにプールで遊んだりと、いろいろなアレンジができるのもいい。

飛び込み台付きプール

トレーニングルーム

ドイツ指導者育成の最高峰となるプロコーチライセンス研修が行われるハネス・バイスバイラーアカデミーも視察させてもらった。憧れの場所

ここでナーゲルスマンやトゥヘルは学んだのだ!

▼ ミッテルライン州サッカー協会訪問

へネフシュポルトシューレにはミッテルライン州サッカー協会のオフィスも入っている。専任スタッフで指導者育成を担当しているベレーナ・ハーゲドルンさんがC級、B級ライセンスでの取り組みについてを説明してくれた。ちなみにハーゲドルンさんは7月に開催された国際コーチ会議でも講義とトレーニングデモンストレーションを担当されていた。

難しいテーマだったにも関わらず、とてもエネルギッシュで説得力のあるパフォーマンスだったと感じている。1000人以上の指導者、それもみんな最低でもA級ライセンスを所得している指導者の前でデモンストレーションをするというのは誰でもできるものではない。少し話しただけでも彼女の人柄の良さがよくわかる。そしてもちろん専門知識や指導者としての姿勢も素晴らしい。

ライセンス講習会ではまず最初にコンディションにおける基本的なスポーツ生理学を参加者に学んでもらうという。私が受けた時もそうだった。これがないと、トレーニングにおける負荷のかけ方、休みの取り方がわからないままで、選手を育てることにつながらないからだ。持久力を身につけるためのトレーニングと、スピードをアップさせていくトレーニングとでは負荷のかけ方も休憩時間のとり方も全く違う。どうすることで人の身体は成長していくのかという知識は最低限の基準として指導者が必ず持ち合わせなければならないものだ。

その後講習会では戦術的な考え方や年代に応じたトレーニングの作り方などを段階的に学んでいく。座学と実践を何度も繰り返し、インストラクターや参加している指導者同士でディスカッションをしていくことで、自身の持つ考えをどんどん深めていくことができる。

指導理論は現場に必要なものでなければならない。地域サッカー協会の管轄とするB級ライセンスまではあくまでも地元に根付くグラスルーツのアマチュアクラブ指導者がよりよい指導ができるようになることが一つの目安であり、目標になる。

そうなると、彼らが普段どのような頻度でトレーニングをしているのかというところからトレーニングの構築の仕方やテーマの決め方を学べる場が、指導者講習会には求められる。具体的に言えば、ヨーロッパのアマチュアクラブでは基本的にどこも練習は週に2回90分ずつだ。

その枠の中でサッカーをどのように育んでいくことができるか。素走や基礎の反復練習に時間を割いてしまったら、ゲーム形式や戦術的な要素にアプローチする時間がなくなってしまう。だから、可能な限りどんな練習もボールを使いながら、そしてミニゲームを多く生かしながら、全体的な技術・戦術・フィジカル・メンタル・インテリジェンスを高めていくことが重要なのだ。

ハーゲドルンさんには質疑応答にも丁寧に応えていただき、現在ドイツサッカー協会推進で進めている幼稚園児、ジュニア年代における試合形式の最適化についての説明もあった。参加者の皆さんは、ドイツではどんな指導者を求め、どのように協会として取り組んでいるのかの輪郭が見えてきたのではないだろうか。

▼ U17ブンデスリーガ  FCへネフU17-レバークーゼンU17

全世代を通してクラブ史上初めてブンデスリーガというステージにたどり着いたFCへネフU17。ドイツ全土を見渡してもトップクラスに入るレバークーゼンとの一戦はいろんなコントラストがどれも興味深い試合だった。

図式としては簡単に言っちゃえばへネフが守り、レバークーゼンが攻めるというよくある展開。でもへネフはただ守るだけではなく、状況に応じて狙い通りにプレスを仕掛け、ボールを奪取するとシンプルで正確にボールを動かしながら、我慢強く攻撃を構築する。攻撃バリエーションは多くはない。

でも丁寧にパスを回しながら、レバークーゼンを揺さぶろうともする。CBから逆サイドタッチライン際で待つMFへ非常に精度の高いサイドチェンジのボールが何度も見られた。相手が各上だからと縦にパスを蹴りだして逃げるシーンは本当に少ない。

前半先制ゴールを許したものの、後半開始直後にCKから見事なヘディングシュートで同点に追いついた。その後は守備バランスもどんどん良くなっていく。最後まで辛抱強く戦い、ブンデスリーガクラブ相手に初となる勝ち点を手にした。素晴らしい戦い振りだった。

試合後、ただ一人歓喜のメンバーと離れ、黙って立っていた選手がいた。この試合、スタメン起用されながら前半25分ほどで交代された選手だ。監督が歩み寄り、熱っぽいジェスチャーを交えながら、交代の理由を説明して納得してもらおうとする。でもそう簡単に受け入れられるものではない。選手の方も自分の意見を監督にぶつけている。

監督はそれを受け止めて、選手の気持ちを感じ止めて、それでも交代に踏み切った自分の決断を根強く説明し続ける。選手の肩を抱き寄せ、言葉を伝え続ける。すぐに全てを理解して納得できるわけではない。でも選手の思いを顧みて、二人で言葉をぶつけ合う時間を持った監督に、私は指導者としての大切な姿勢を見て取った。

「出れない理由、代えられた理由は自分で考えろ」

そう突っぱねてしまうのは簡単だ。口答えするなと押し付けてしまうのは責任逃れだ。そうではない。指導者も選手もリスペクトをしあう間柄であることで、お互い成長することができるのだから。

▼ ドイツサッカーレクチャー

ホテルの会議室を使って僕からドイツサッカーに関するレクチャーを行った。こちらではどのように年代を分けて、いつから、どのようにリーグ戦を行っているのかという基本的なあり方をまず説明し、頭の中を整理してもらう。その後は皆さんとの質疑応答。

ただこの段階ではまだディスカッションというところまではいけない。お互いのなかでドイツサッカーにおける共通認識を整えて、わからないところやわかっているとは思うけど納得がいかなかったり、少しまだ不明瞭なところをクリアにしていく。この時間は大切だと思う。

確かに、何もない状態で自分のこれまで培ってきた常識や経験則だけで未開の世界と向き合うことによるメリットもある。ただ、どうしても感覚的な発見だけになってしまうことが多い。あるいは本人の勘違いや解釈次第というものになってしまうこともある。

そのあとでしっかりと学んだり、次回にテーマを持ちこしたりということでうまく自分のものにすることができる人もいる。だが、こうした研修はやはりどうしても時間は限られているし、参加者の目的もそれぞれだ。だからこそ、なぜ、どうして、どのようにというところを整理しておくことで、自分たちが見て感じるものからの習得度をあげることができるし、参加者同士のディスカッションがしやすくなる。ただインプットし続けるだけがいいわけではない。少しずつ消化して、整理する時間はやはり大事なのだ。

(ドイツ指導者研修レポート②に続く)

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