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「football fukuoka」中倉一志

【中倉’Voice】2000年を最後に勝てなかった神戸から奪った今季初勝利。新しい歴史に向かってアビスパがいよいよスタート

2025明治安田J1リーグ 第4節
日時:2025年3月1日(土)19:03キックオフ
会場:ノエビアスタジアム神戸/20,890人
結果:ヴィッセル神戸 0-1 アビスパ福岡
得点:[福岡]オウンゴール(40分)

「この3節を過ごしていく中で少しずつ積み上がっているものもある。それが得点シーンや失点シーンに現れないところですごく出てきている。あとは結果につなげる作業と、いろんな部分で改めて集中させなければいけないという点で、僕の役割はもっとある」(田代雅也)

神戸戦を2日後に控えた2月27日、田代雅也は力強く口にした。ここまで3連敗。それぞれの試合に出来、不出来はあるものの、それなりの戦いを見せているのだが、攻守にわたってラストサードでの精度に欠いて1得点5失点。特に気になるのは失点の仕方。金明輝監督は「安い失点」と振り返るが、何もないところから簡単にゴールを割られることを繰り返して勝点を積み重ねられないでいた。そんな中で口にした言葉。それは3連敗という現実と正面から向き合いながらも、チームが積み上げてきたものを余すことなく発揮すれば十分に戦えるという想いと、その役割と責任を自分が果たすという強い意思が込められたものだった。

「シーズン中には勝てない時期もある。それが最初に来たということ。初勝利を目指すが故に、重い十字架を背負っているような形になってしまっているが、それは捉え方の問題。次はなかなか勝てない神戸が相手というのは、すごくいいきっかけになるんじゃないか」
そして田代は川崎戦に続いてキャプテンマークを巻いてピッチに立った。金明輝監督の「流れを変えたい」という思いがあってのことだが、それは「昔から彼(田代)のことは知っている。持っている力以上のものを毎回出してくれるすごい選手」(同)と話す信頼の表れでもあったのだろう。

この日のアビスパは3-4-2-1の布陣。ここまで後ろが重くなってしまうという課題を抱えていた3バックだがこの日は違った。最後尾に構える村上昌謙が守備をオーガナイズし、田代を中心に高い集中力を発揮する最終ラインは神戸のロングボールに対して制空権を譲らない。こぼれたボールは松岡大起が回収し、見木友哉がボールを捌いてリズムを作る。湯澤聖人、藤本一輝の両WBは高い位置にポジションを取ってサイドの主導権を握り、2列目に構える北島祐二が巧みなポジショニングでボールを引き出せば、紺野和也が攻撃にアクセントを加える。そして1トップの位置ではナッシムがボールを収めて攻撃の起点を作った。

全員がそれぞれの特徴を生かし、誰かが窮屈な状態になれば他の誰かが助ける。そして大切にするのは球際の強度と攻守の切り替えの早さとシンプルな攻撃。そのスタイルこそがアビスパの原点。方法論は変わっても、この日のアビスパはアビスパらしく戦う。そして神戸のカウンターを北島が止めたところから攻撃を展開。ボールも人も動く攻撃は見木がナッシムに縦パスを入れたところで勝負あり。ナッシムのシュートは岩波拓也(神戸)にはじかれたが、出足鋭くセカンドボールを回収した見木の折り返しが相手DFに当たってゴールに吸い込まれた。記録はオウンゴールになったが、アビスパが意図的に崩した結果のゴールだった。

だが、相手は前年度リーグ戦チャンピオンの神戸。試合は後半から難しさを増していく。この試合をアビスパ同様に中2日で迎え、さらには中3日でAFCチャンピオンズリーグエリートラウンド16の第1戦を控える神戸は主力選手の多くがベンチスタート。1点のビハインドを追って吉田孝行監督は後半開始から大迫勇也を投入したのをはじめ、次々とカードを切り、時間の経過とともにアビスパの守備に割く時間が増えていく。さらに75分、上島拓巳がこの日2枚目のイエローカードを提示されて退場処分に。アビスパは10人での戦いを余儀なくされた。

ただ、この日のアビスパは過去3戦とは違った。ゴール裏に集まる仲間たちが力の限りに選手の背中を押し、それに応えて選手たちが幾度となく神戸の攻撃を跳ね返していく。「やることがはっきりした」と振り返るのは田代雅也。そして仲間を鼓舞し、自らはゴールに迫る神戸を跳ね返し続ける。極めつけはアディショナルタイムの95分。ペナルティエリア中央から佐々木大樹(神戸)が放ったシュートに誰もが目をつぶった瞬間、カバーに入っていた田代がゴールライン寸前でクリア。何があってもゴールラインは割らせない。そんな気迫が伝わってくる。

そして提示されたアディショナルタイムの終わりを告げるホイッスルがノエビアスタジアム神戸に響き渡る。今季初勝利。そして対神戸戦に限っては2000年以来26年ぶりのリーグ戦での勝利。アビスパは大きな、大きな勝利を手に入れた。

記者会見 場 に現れた金明輝監督も、ミックスゾーンで メディア の取材に対応する選手たちも一様にほっとした表情を見せた。しかし、まだ片目が 開 いただけ。危機感は誰もが感じている。
「後半の内容からして、そこまで満足することもできない。4試合のうち1勝しただけなので、むしろ危機感の方が強い。次に向けてしっかりと整えていきたいと思います」と話すのは金明輝監督。田代も「チームの雰囲気は変わったが、引き続き勝たなければいけないという危機感というのはある。それを促しながら僕自身もよりいいチームを作っていけるように頑張りたい」と口にする。

クラブも、チームも、ファン、サポーター、そしてアビスパに関わるすべての人たちが「ほっとした」ことは間違いないだろう。「ようやくスタートが切れた。それ以上でもそれ以下でもない」と田代が口にしたように、まだ一歩を踏み出しただけ。引き続きいかにチームを成熟させ、いかに勝点を積み上げていくかが重要であることに 変わりはない 。それを1年間にわたって緩みなく継続させること。それをやり通した時に、アビスパの新しい歴史の1ページが刻まれることになる。

[中倉一志=取材・文・写真]

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