【中倉’Voice】誇りと自信を胸にアビスパの関わる全ての人たちの想いを表現するためにピッチに立つ。必要なのは勝利の二文字
2024明治安田J1リーグ 第30節
日時:2024年9月14日(土)18:03キックオフ
会場:ベスト電器スタジアム/9,848
結果:アビスパ福岡 0-3 FC町田ゼルビア
得点:[町田]藤本一輝(51分)、オウンゴール(56分)、ナ サンホ(69分)
「やっているみんなも、そんなにしてやられたみたいな感じはないと思うが、それが優勝争いをしている町田のしたたかさだし、相手の強みであったなというふうに思う」
そう話す宮大樹の言葉が町田戦のすべてを物語る。
立ち上がりリズムを刻んだのはアビスパ福岡。1トップのウェリントンをターゲットにシンプルにロングボールを送り、彼が落としたボールを前向きに拾って攻撃に出る。攻守の切り替えの早さ、球際の強度でも町田を上回り、24分には小田逸稀のヘディングシュートが町田ゴールを襲い、35分には松岡大起のヘディングシュートが右ポストを叩く。
前半のアディショナルタイムには町田に決定的なシュートを2本打たれたが、ここは村上昌謙がファインセーブを見せてゴールを死守。アグレッシブにゴールに向かう姿勢とゴール前の粘り強さはアビスパのスタイルそのもの。得点こそ生まれなかったが前半を0-0で折り返すのはアビスパにとっては悪くない流れだった。スタンドに9試合振りの勝利への期待が膨らんでいく。
しかし51分。町田のロングスローから先制点を奪われると、続く56分に立て続けに失点。そして69分にもゴールを奪われて0-3。その後、選手交代等で反撃を試みたが功を奏さず。そのまま敗れた。いずれも警戒していたスローインからの失点。しかも、後半開始直後とスコアが動いた直後と、またも危険な時間帯での失点を繰り返した。9戦勝ちなしという結果も相まって、ミックスゾーンの選手たちは憔悴しているように見えた。
だが、オフを挟んで磐田戦に向けてのトレーニングが開始された17日、雁の巣球技場には、いつも以上に仲間に声を掛け合いながら汗を流す選手たちの姿があった。練習前に「今日はピリっといこうぜ」と声をかけたのは長谷部茂利監督。町田戦終了後にブーイングを送ったサポーターの気持ちも選手たちに痛いほど届いている。そして、自分たちが招いた現状は自分たちでしか解決できないことを知っている。
さて、対戦相手の磐田は8勝7分14敗で勝点31の暫定18位でJ2降格圏に沈む。しかし、だからこそ侮れない相手だとも言える。そもそも、今シーズンのJ1の中位争いは過去にない大混戦。1試合消化するごとに常に順位が入れ替わる状況は互いに力の差がないことを物語る。アビスパを例にとれば、目標とする6位との勝点差は6とまだ射程圏内にあるが、降格圏内の16位の磐田との差は8。磐田はアビスパよりも消化試合が一つ少なく決してセーフティリードとは呼べない。
また、残留を目指すチームが今までとは違う力を発揮することは、過去のリーグ戦でも証明されていることで、ホームのサポーターの後押しを力に変えてアビスパに向かってくることは想像に難くない。間近いなく難しい試合になる。そんな試合にいかに臨むか。長谷部監督は次のように話す。
「名前のある選手、良いプレーをする選手、点数を取る選手というのはもちろんいるし、警戒しなくてはいけないが、まずあのスタジアムは雰囲気のあるスタジアム。それは過去何回も経験してるので、そこに飲まれないことと、自分たちが自分たちのプレーをやり続けることができるかどうかが大事」
警戒すべき相手としてはジャーメイン良選手の名前を挙げる。日本人選手としてはJ1トップスコアラーで、リーグ全体で3位に当たる15得点を記録している。
「『絶対に止める』。そういう気持ちが対峙する選手と、ゴールキーパーも含めて、私も含めて、チームの中にちゃんと落とし込めるかどうかが大事。そういう執念みたいなもの、絶対に彼には決められないというような、そういう想いを持ってピッチに立つべき」
さて、今シーズンも残すところ8試合。ここまでくれば、できなかったことが急激に良くなることもなければ、積み上げてきたものがなくなるわけでもない。いま自分たちにできることと、そうでないことを把握して、積み上げてきたものいかにして表現するか。できないものをいかにしてチームとしてカバーするのか、それが勝敗を決することになる。
アビスパの直近の9試合を振り返れば6得点15失点で3分6敗。無失点試合は一つもなく先制点を奪った試合は引き分けたG大阪と札幌戦の2試合のみ。それ以外の試合では先制点を奪われている。課題は攻守ともにあると言えるが、2021年のJ1復帰以来、アビスパは堅守をベースにJ1に居続けてきた。今シーズンはさらに一つ上に行くために得点力アップが課題ではあったが、そもそものベースが崩れてしまったことが勝利から見放されている要因。アビスパがベースとする攻撃的、かつディテールにこだわった守備を表現できるかが磐田戦の鍵と言えるだろう。
ヤマハスタジアムには福岡から、関東から、そして様々な場所からチームとともに戦うために仲間たちがやってくる。スタジアムに足は運べなくても、それぞれの場所から、それぞれの方法でアビスパに力を送る仲間がいる。簡単な試合にはならない。思うような展開にならないことだってある。けれど、それを跳ね返して勝利を掴むことを、クラブ、チーム、ファン、サポーター、そしてアビスパに関わる全ての人が望んでいる。その想いをプレーで表現できるのはピッチに立つ11人だけ。誇りと自信を胸に正々堂々と戦いたい。そして勝点3とともに福岡へ帰ろう。
[中倉一志=取材・文・写真]