【2012PR合宿取材記】廣嶋禎数
廣嶋は、上川徹の自伝にはかかせない名アシスタントだったようで、楽しそうに名を出す上川をみて、廣嶋の人柄が伝わってきた。そして、その想像通りの、大阪っぽいけど東京感もある“優しいおじさん”だった。
―まず、2009年に日本サッカー協会(JFA)トップレフェリーインストラクターになるわけですが、どのような要請だったのでしょうか?
国際(副審が期限で)終わって、Jで現役でやっていて、かつ教員もやっていました。それで、教員の仕事絡み(筆者予想:教頭などになると難しくなる)で、現役を続けるのが難しくなってきて。そんななかで、小幡(真一郎:現:JFA審判部副委員長)さんから、インストラクターで来てくれという話がありまして、そこで副審の指導をということですね。
―就任されていかがですか?
なかなか。副審は自分の感覚的な部分があるので、そこをどう上手く伝えるか。凄く難しいですね。
―廣嶋さんの就任されるタイミングは絶妙だったなと思いまして。というのも、近年、副審の難しさが取り上げられているじゃないですか?その対応策を考えるのに、適任だと思います。その辺りはいかがでしょうか?
どんどん副審に要求されることがふえてきて、そのなかでプライオリティをしっかり作っていけるか。この前のワールドカップの問題(アルゼンチン×メキシコ戦のオフサイドの見落とし)にしても、ファウルのシーンがあって、(副審が)そちらをフォーカスしすぎてしまい、オフサイドを正しく見極められなかった。だからこそ、『いま、自分がどこを見るべきか』というのを上手く整理しなければいけない。
―その辺が、就任されて、副審に求めるようになった部分ですか?
そうですね。ただ、まぁPR(JFAと契約するプロの審判員)は3人いてますけど、PRやベテランになると、ある程度自分のものを持っていると思うので。だから若い子をどれだけ、(レベルを)上げていけるかってところで。(副審は)皆、良いサポートをしたいとは思っているんですけど、全部をやろうとして、全部がダメになってしまう。中途半端で、平均点以下になってしまう。そこを上手く、自分のなかで確立できるような指導をできればと思うんですよね。
いま、日本でいえば、相楽(亨)君とか名木(利幸)君とかがトップでいてるわけじゃないですか。皆、相楽君のようなサポートをしたいわけですよね。けど、急にはできない。自分(のレベル)は、いまは、ここをしっかりやる。ここができたら、次はここをやる。
―そういった意味でも、副審ってマニュアルがないと僕は思っているんです。
ないですね。
―ですよね。たとえば、ラインキープが大事なんだけども、ゴールも見なければいけない。ボックスが一番難しくなるエリアで、オフサイドも見なければいけないし、ゴールも見なければいけない。そこで混戦になれば、ファウルもあります。その辺の整理ができないと、見極められなくなっていくと。だからこそ、その指導を廣島さんが行なっていくんですよね?
そうですね。こういう状況であれば、まずはドコを見るか。またトリオでの話をすれば、自分が主審やったら、ここを助けて欲しいとかあるじゃないですか。そういった部分もですね。いまは、一級審判員になって、JFLでの割り当てで、主審で行くか、副審で行くかに分かれます。そうなると、一級になってからは、主審経験がなくて、副審の道だけを歩む。
僕は、一級になってから、トップでの主審の経験を副審があるかないかでは大きく違うと思ってます。
副審がどこまで、入っていったらいいかっていうね。ここは、自分もわかっているけど、主審もわかっている。逆に、ここは主審がわかっていない。そのなかで、主審にどのタイミングで伝えたら良いか。伝えるべきではないタイミングもあります。
それはトップでの経験があれば「いま、ここで伝えられても困るよな。シグナルビープ押して呼ぶタイミングじゃないな」とかね。
逆に、ここは分かっていたら絶対に対処しなければいけない。この試合が変わってしまうなと。
この辺をどうやって伝えるか。こちらの一方通行になると、わからないと思うので、映像とか使いながら、ディスカッションしながら、「あぁそうか」という気付きを作れるのが、一番の理想なんですけどね。
―それが昨日のプラクティカルトレーニングに繋がっているんですね。廣嶋さんブロックは、右サイドにスルーパスが出て、そこからオフェンスとディフェンスの一対一が始まる。それを主審と副審で見極める。副審マターでフラッグアップするか、主審に合わせるかがポイントだと思うんですけど、まさに今、おっしゃられたようなことをトレーニングで追及していましたよね。
そうですね。近くても角度によっては見えない。我々には居なければいけないポジションがある。そういう見えない場所があるのも、主審にも気付いて欲しい。サッカーって、すべて、競技規則通りにいくわけではない。副審である自分がみたものが、後でビデオで見ても正しくても、主審の位置や、判定に対するリアクションを考えても、そこは様子を見るだとか。
―受け入れてもらうという要素ですね。
あるいは、ここは、自分が早く判断した方が良いとか。そういう部分を上手く教えられれば。その辺は、相楽君なんかは、整理できていますよね。
―確かに。トレーニング中も、主審から、「相楽さん、ナイス~」とか声かかってましたもんね。
そうですね。主審がここは見にくいよなとか。位置によってコンタクトの見え方はぜんぜん違う。そこで、さし違いが起きてしまうとね。
とは言え、見にくいとは言いながらも、目の前ですから、旗を上げないと、観客かベンチからは「お前がそこにいるのに!」ってなるじゃないですか。だから、そこは主審が見えていても、副審も主審と同じタイミングで、カンカンって旗を上げないといけない。そこができないと、次に、合っている判定でも不満となってしまう。
―フラッグテクニックの部分ですよね。
気付きの部分でもありますよね。ゲームのマネジメントは主審がする部分ですけど、副審もゲームの流れのなかで、そういうマネジメントまでは行かないですけど、そういう部分を上手く使っていかないと。
―そんな副審の楽しさって何ですか?
楽しさですか。まずオフサイドはありますよね。あれだけ厳しいじゃないですか。それを見極められるのは我々だけですから。
こないだ、NHKで『五感の迷宮』ってあったでしょ。必ず、誤差が生じてしまうっていう。ああいうのも、自分たちで、試合の映像を観ながら研究するんですよ。
―それは、私のサイト、FBRJでも議論になりました。オフサイドを厳密にやるのは無理なのではないかと。
あれはね、埋められるんですよ。
―えっ!?どうやってですか??
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