ロドリとバエナを輩出したビジャレアルの育成とは? 佐伯夕利子氏による江戸川大学特別講演より<1/3>
今週は千葉県の江戸川大学で7月20日に開催された、ビジャレアルCF育成コーチによる特別講演のうち、元Jリーグ理事の佐伯夕利子さんによる講演の核心部分をお届けすることにしたい。この講演のレジュメは、以下のとおり。
01:社会(町、人口、産業、市民)
02:クラブ(スタジアム、スポーツCITY、トップチーム)
03:チーム(チーム、選手、指導者、プロモーション)
04:アカデミー(育成組織、コーチングStaff、役割)
05:指導改革(選手像、指導者像、責任)
06:実践(円卓、主語変換、学び合う、教える、関わる、履歴書、焦点の転換、焦点の実現、魔の三角地帯、独り立つ術)
このうち01~04については、こちらのコラムを参照していただきたい(無料公開)。まずは全体の流れを把握して、それから05と06の内容をまとめた本稿をお読みいただくと、より理解が深まるはずだ。
講演が行われたのは、EURO2024でスペインが優勝した6日後というタイミング。その後のパリ五輪でも、スペインは男子サッカーで優勝を果たしている。EUROのMVPに輝いたロドリ、そしてパリ五輪の決勝で鮮やかなFKを決めたアレックス・バエナ。いずれも、ビジャレアルの育成組織が生んだ至宝である。そんな彼らが育成年代だった2014年から、ビジャレアルは抜本的な指導改革をスタート。それから10年で、革新的な試みが見事に開花したことになる。
この指導改革のベースとなる考え方、そして実践に関する具体的な事例について、佐伯さんは非常にわかりやすく言語化してくれた。その上で彼女は「資産と知産は他者と共有して初めて富になるというのがビジャレアルの哲学」であり、「写真や動画を撮って、拡散してフィードバックしてもらいたい」と語っている。よって本稿も、1週間限定で無料公開とすることにした。
当WMでは、欧州の育成について言及することは稀である。むしろWM会員以外で、こうしたテーマに関心を持つ人は少なくないだろう。そこでお願い。本稿を読んで有益と感じた方は、ぜひともSNSで紹介していただきたい。当WMとしては、これまで接点のなかった層に知っていただくだけでも幸いである。(収録日:2024年7月20日@千葉県)
■【05指導改革】それは2014年から始まった!
<5.1.選手像(2014年指導改革)>
ここから指導改革というところに入っていきたいと思います。ビジャレアルは2014年、セルヒオ・ナバーロというメソッドダイレクターをヘッドハントしてきました。彼は教育畑の人なんですけど、選手としてもビジャレアルのアカデミーからトップまで行って、たくさんの指導者にお世話になった。けれども「何か違うんじゃないか」と思いながら、現役を引退しています。
その「なんか違うのでは?」っていうのをセルヒオはずっと突き詰めて、多くの文献を読み、学びを深めながら、自分の中で「育成とは何か?」という定義づけをずっとされてきたんですね。そして2014年に彼がビジャレアルにやって来て、スポーツダイレクターを3年間務めたんですが、その間に彼が徹底してやったのは、私たちへの問いかけ。正直、イライラしてしょうがない3年間でしたが(笑)、私たちに新たな思考のクセを植え付けたかったんだろうと思います。
われわれは1年かけて、どのような選手を育てていきたいのか? そのディベートをずっと繰り返しました。セルヒオは問いかけをするけれど、答えは出さない。だから、たくさんのアイデアを出しました。確かに、優勝させてくれるようなスーパーな選手はほしい。けれども、皆で合意形成していく中でまとまったのは、このようなものでした。
主体性のある自立した選手。自己決定ができる、判断ができる選手。ただフットボールをプレーする選手ではなく、フットボールというゲームを理解し、より深く考察し、その中から自分で問題解決できる選手。一瞬一瞬のシチュエーションの中で、自分からチャレンジして解決できるような選手になってほしい。
それから、社会性。「人として」という部分を忘れてしまってはいけないのではないか。サッカーばかりで学業を軽んじたり、授業中はずっと寝ていたり、遠征で学校を2週間休むことを先生に知らせなかったり。残念ながら、われわれのクラブでもあるんですよ。やはり「人として」というものが最低限あって初めて、アスリートとしての成長はあるのではないか。そういった面も徹底的に取り組もうということになりました。
そして(指導者と選手の)ヒエラルキーを崩すこと。それまでの私たちのミーティングは、こうして皆さんが私のほうを向いているような形でした。その配列をまず変えようということで、指導者の周りを選手が囲むような円の形に変えました。部屋が小さかったら二重円にする。なぜ円にこだわるかというと、これまであったヒエラルキーを崩すことで、われわれ指導者の言葉が変わっていき、選手との関係性がより豊かになると考えるからです。
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