『J1第11節』全試合振り返りLIVE(J論)【4/21(月)22時30分】

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【無料公開】欧州サッカーがグローバル化で得たものと失ったもの 片野道郎(ジャーナリスト・翻訳家)インタビュー<2/2>

■堅実な発展を遂げたアメリカ・サッカー界の2つの誤算

──ここで一周回って、FIFAゲートを暴いたアメリカに話題を移したいと思います。自国でワールドカップを開催した翌年の95年、MLSが10チームでスタートしました。それから20年以上が経過していますが、今ではウェスタン・カンファレンスとイースタン・カンファレンスを合わせて23チーム。正直、ここまで発展するとは思ってもみませんでした。クラブの資産価値も、急激に上がっているようですし。

片野 デイビッド・ベッカムがLAギャラクシーに加入したのは07年。それまでMLSは地道にリーグの基盤固めに注力してきたんですよね。そしてインフラが整い、ある程度ビジネスの可能性が広がっていったタイミングでベッカムが来たと。そうした長期的な視野に立った一貫性のあるプロセスは「さすがだな」と思います。アメリカの場合、4大スポーツというものが厳然としてあるわけだけど、それに迫る勢いを見せていますよね。

──当然、MLSも国内サッカーの発展を進める一方で、グローバル化を進めていく戦略を採っていくわけですが、この本の中で片野さんは「EUから離脱したイングランドのプレミアリーグにMLSは接近するのではないか」という、非常に興味深い仮説を立てています。

片野 ビジネスとして最も成功しているプレミアリーグが、ブレグジット(英国のEU脱退)によってヨーロッパ大陸から離れていくとしたら、大西洋の向こう側にあるアメリカに接近していくのは必然のように僕には感られます。向こうはスポーツビジネスの先進国だし、同じ英語圏だし。それとプレミアリーグの主だったクラブに、アメリカ資本が入っていることも大きな理由のひとつです。

──MLSのグローバル化で壁になりそうなのが、今のトランプ政権でしょうね。たとえば今回のワールドカップ予選でも、MLSでプレーするイラク代表の選手が「アメリカに戻れなくなるリスクがある」として招集を断ったというケースがありました。仮にアメリカが大陸間プレーオフに回って、シリアと対戦していたらどうなっていたんでしょうね。

片野 結果としてアメリカは、今回のワールドカップ出場を逃しましたけどね。イタリアと同じく(苦笑)。

──さすがにイタリアみたいに60年ぶりというわけではないですが、90年イタリア大会から7大会連続出場記録がついに途切れてしまったわけですからね。アメリカのサッカー界にとっては大打撃でしょう。

片野 これまでMLSの発展と歩調を合わせてきたアメリカのサッカー界にとって、まず2022年のワールドカップ開催権をカタールに奪われたのが最初の誤算で、その次の誤算がロシア大会の出場を逃したことでしょうね。北中米カリブ海ではずば抜けた存在だっただけに、そのダメージは大きかったと思いますよ。

──そんなアメリカは、2026年のワールドカップ開催を目指しているみたいですね。

片野 メキシコ、そしてカナダと共催で立候補するといっていますよね。3カ国共催というのは可能かどうか、それはまだわからないです。とりあえずカタール大会以降の開催国決定の方針に関しては、まだFIFAから何もアナウンスはありませんし。

──出場国が48カ国に増える最初の大会ですもんね。

片野 そうです。インファンティーノが会長になって、出場国を48カ国に拡大するワールドカップは、おそらくこれまでの大会のあり方が大きく変質する第一歩となると思います。ナショナリズムを活用しながら経済も発展させるという20世紀型の大会ではなく、よりグローバリズムが色濃くなる大会になる可能性はありますね。

──アジアでいえば、カタールも中国も難なく出場できるでしょうね。そうなった時に、いよいよワールドカップという大会がコンペティティブな大会ではなくなると思いますが。

片野 すでにそうなっていますけど、より明確になるでしょうね。でもインファンティーノと新しいFIFAが目指しているのは、そういうワールドカップなんだろうなって思います。

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