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「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】より高みを目指すために挑む「攻撃の進化」。J1定着への船出で見えた収穫と課題

当然悔しい。残り数分で勝点3が1に変化した。昨シーズンからJ1の舞台でコツコツと積み上げてきた持ち味のプレー強度を遺憾なく示し、万全の逃げ切り体制で勝利を手中に収めかけたからなおさらだ。

ただ、試合終了のホイッスルを聞いた瞬間、別の感情が湧いたのも事実だ。「アビスパはまた成長している。成長しようとしている」と。それは攻撃面で実感したことだ。

今シーズン、アビスパが上積みを目指すのはボール保持の「率」ではなく、「質」。そんな攻撃面で2つのポイントに注目しながら見ていた。1つはどれだけ自分たちの意図した形でビルドアップができるのか。もう一つはアタッキングサードでどれだけ高い質の崩しができるのかだ。

前半からチーム全体でどちらに対してもチャレンジしようとする意志がよく伝わってきた。自陣の低い位置から局面での位置的・数的優位性を活かし、互いの距離感を意識しながらボールを前進。足元の技術に長けたCBの宮大樹を中心に相手の立ち位置とタイミングを図りながら縦方向へパスを入れ、アタッキングサードへと侵入すると、両サイドを起点にトライアングルを意識しながら中盤のセンターを務めた前寛之や田邉草民、あるいはFWの2人や両SH、SBの選手が入れ替わりながら相手の守備陣にとって一番の脅威となるポケット(*)のポジションを取り、崩しの質を高めようとした。ゴールの確率を上げようとしていた。
(*)ピッチを縦に5分割したうちの中央とサイドに挟まれるハーフスペースの中でもゴールに近いペナルティエリア内の左右のエリア

先制点のシーンは象徴的だ。「金森選手に出したパスはよく通った」と前嶋洋太が話すように高い位置でこぼれ球を拾い、ポケットにポジションを取っていた金森健志にパスを入れたことで相手はゴールに一番近い選手へのマークを強めた。その瞬間、ペナルティエリアのわずか外でフリーになった前嶋洋太へとパス。冷静に右足を振り抜くことができた。まさに狙い通りの形であっただろう。

だが、課題も当然ある。それは精度を高めること、できる回数を増やすことだ。ビルドアップの部分では、パスを受ける、あるいは受けられるポジションに位置する味方の人数が少なく、パスの出し手が難しい選択に迫られ、相手にパスカットを許す場面も見受けられた。アタッキングサードの崩しの部分では、パスの出し手と受け手の意思が合わずにあと一歩深い位置まで迫れない、シュートシーンまで至らない場面もあった。

もちろん、この改善は言葉で言うほど簡単ではない。状況に応じてのポジショニング、距離感、コンビネーション。日々のトレーニングから少しずつ時間をかけて積み上げていくしかない。それでもチャレンジし続ける意義は大きい。成功する場面が増えた先に複数得点があるし、そうなればこの試合のような悔しい思いも味わうことなく、勝点3を得る確率もグッと上がるからだ。「ロードマップは間違っていない」とは長谷部茂利監督の言葉。攻撃面で確かな一歩を踏み出したアビスパの成長に期待が膨らむ開幕戦でもあった。

[武丸善章=取材・文/中倉一志=写真]

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