悲願のJ1昇格と新スタジアムという「高い壁」 木村正明(ファジアーノ岡山オーナー)<1/3>
今週はファジアーノ岡山のオーナーであり、東京大学先端科学技術研究センターの特任教授でもある、木村正明さんのインタビューをお届けする。木村さんにお会いするのは『異端のチェアマン』での取材以来。当WMでの単独インタビューとなると、岡山の代表だった2016年まで遡る(参照)。
実は木村さんへのインタビューは、非常に難易度が高いことで知られている。理由は2つあって、ご本人が多忙を極めていること、そしてメディア露出を極力控えていること(自身がクラブ代表でないことが理由と思われる)。そうした中、今回の取材が実現したのは、2007年の熊谷での地域決勝を私が取材していたことが大きかったと思う。
岡山が地域決勝の分厚い壁を突破した時、木村さんは38歳。東京大学法学部出身で、ゴールドマン・サックス証券ではマネージング・ダイレクター(執行役員)も務めたエリートが、感極まって号泣するさまは拙著『股旅フットボール』のクライマックスとなっている。それから18年、ファジアーノ岡山はついにJ1にまで到達することとなった。
今回のインタビューでは、J1昇格プレーオフのことはもちろん、東大での研究から見えてきたスポーツビジネスのトレンドやJリーグの未来像、そして岡山の新スタジアム建設の可能性など、話題は多岐にわたった。岡山のファン・サポーターはもちろん、すべてのJリーグファンにお読みいただきたい内容となっている。(取材日:2025年1月14日@東京)
■3回目のプレーオフが「行けそうだな」と思えた理由
──あらためましてJ1昇格、おめでとうございます。クラブのカテゴリーが変わったことで、木村さんも随分とお忙しく動き回っているようですが。
木村 そうですね。今は新しいスポンサー候補の開拓ですとか、それとやっぱり新スタジアム建設への働きかけですよね。
──昨年のJ1昇格プレーオフで、あらためて新スタジアム建設の必要性が浮上したと思います。ホームでの決勝は、チケットが瞬殺で売り切れになったそうですね。入りたくても入れない人が、たくさんいたと聞いています。
木村 そうした経緯もありましたから、新スタジアム建設に向けて前向きな雰囲気になるかなって思ったんです。ところが議会の様子を見ていると、そうした機運が高まっていないんですよね。今のスタジアムでもJ1基準を満たしているからなのか、それとも岡山という土地柄の問題なのか。いずれにせよ、今は「高い壁」を感じているところです。
──思えば、政田の練習場を確保するのにも、けっこう時間がかかりましたよね。
木村 僕がクラブ代表に就任して5年半くらいで、ようやく署名活動が始まった感じでした。いくらクラブにとって必要でも、多くの市民の皆様にとっては関係のない話ですので、やっぱりハードルは高かったです。スタジアムに関しても同様のハードルを感じています。
──スタジアムについては、のちほど深堀りさせていただくとして、プレーオフについて質問させてください。岡山のプレーオフ進出は、今回が3回目。最初は2016年で、6位から決勝に進出してセレッソ大阪に敗れました。次が2022年で3位だったんですが、初戦でモンテディオ山形に敗戦。そして2024年は5位で滑り込んで、見事に優勝を果たすことができました。今回はどれくらいの確度で、昇格できると考えていたのでしょうか?
木村 質問に答える前に申し上げたいのですが、今のプレーオフのルールというのは、僕がJリーグのマーケティング委員会にいた時、常務理事だった中西(大介)さんと一緒に作ったものなんです。ちょっと我田引水になるんですが、けっこういいシステムだなと思っています(笑)。もっとも、これまで2回、辛酸を嘗めてきたわけですけれど、今回は「行けそうだな」ということは、口には出さないけれども感じていました。
──その根拠は?
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