2024年の史上最高入場者数達成はなぜ実現できたのか? 知られざるJリーグのマーケティング戦略を探る<1/3>
2025年のJリーグ開幕まで、あと3週間。今週はJリーグの「集客」について、マーケティングの観点から紐解いていくことにしたい。
2024年、Jリーグは年間総入場者数が、過去最多となる12,540,265人を記録した。これまでの記録は、コロナ前となる2019年の11,310,903人。この時は「イレブンミリオン達成」と騒がれたが、それを大きく上回るトゥエルブミリオンとなった。では、この偉業とも言える数字は、どのような要因で達成されたのであろうか。
この疑問に答えてくれるのが、Jリーグ事業マーケティング本部 マーケティング部 マーケティング担当チーフオフィサーの鈴木章吾さんである。1984年生まれの41歳。日本生活協同組合連合会、キリンホールディングス、野村総研を経て、2022年にJリーグに入社している。業界は異なるものの、一貫してマーケティング畑を歩んできた鈴木さん。実は、ファジアーノ岡山オーナーの木村正明さんをして「あの人は優秀」と言わしめるほどの人物である。
今回のインタビューでは、2024年のトゥエルブミリオンについて、マーケティングの立場から分析していただきつつ、集客に関するJリーグの戦略についても深堀りすることができた。Jリーグの「消費者」としても、知っておいたほうがよい情報も多く含まれている。ぜひ最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2024年12月23日@東京)
■「トゥエルブミリオン」を後押しした地上波露出
──2024年のJリーグは、イレブンミリオンを超えるトゥエルブミリオンを達成しました。史上最高の入場者数を記録した要因について、マーケティング的にどう分析されているのでしょうか。
鈴木 今季の1254万人という数値は想定以上で、かなりできすぎかなという印象ですね。要因はいくつかあると思います。J1クラブが18から20に増えたこと。国立競技場でのJリーグ開催が定着したこと。ルヴァンカップのフォーマットが変更されたこと。J3にも昇格プレーオフが導入されたことについても、好影響があったと思います。それともうひとつ、ローカル局での露出強化戦略も挙げておきたいですね。
──ローカル局へのアプローチは、2022年からスタートしたと認識していますが。
鈴木 2022年の後半からですね。地上波での露出自体は、そこから1年で約11倍に上がったんですが、集客に反映されるまでには時間がかかりました。2年ほどが経過して、地域の関心度も醸成されていき、クラブの注力試合と連携することで集客にも好影響を与えるようになりました。
──注力試合というのは、GWとか夏休みを中心に開催される「この試合に来ていただければ間違いない」というカードですよね。この夏、モンテディオ山形vsV・ファーレン長崎を現地観戦しましたが、試合内容もさることながら、イベントや花火もセットで楽しませてもらいました。
鈴木 そういう試合が全国各地で行われていて、普段の2倍から3倍くらいの集客インパクトをもたらしたと思っています。特にJ2クラブは、軒並み平均入場者数が増加していまして、クラブ数が22から20になって試合数は減っているんですけれど、逆に総入場者数は前年を上回っているんですね。これは素晴らしいことだと思います。
──特に地方都市の場合はそうですよね。一方で首都圏のクラブについては、国立開催による集客アップの後押しがあったと思いますが。
鈴木 そうですね。リーグ戦での国立開催は、2023年が8試合だったんですが、24年は13試合にまで増やしています。結果として、平均入場者数をほとんど落とさず、5万人台をキープすることができました。国立開催の目的は、新規やライトの方々にも観ていただくことなんですが、そこで観戦された方は、その後のリピート率が高いんですよね。国立の次に味スタに行くとか、同じ国立で別のカードを観るとか。そういった導線を国立での施策で作ることができていました。
──リピート率ということでいえば、Jリーグ専務理事だった木村正明さんがto Cマーケティングを始めた時に「3回目の壁」というものをおっしゃっていました。新規のお客さんが10人いたとして、2回目に来場するのが2人、3回目は0.8人にまで落ちてしまう。3回以上になるとリピーターになるけれど、そこにたどり着くのが非常に難しいという話でしたが。
鈴木 われわれはJリーグIDのセグメントで、F2とかF3という言い方をしています。Fというのは「フリークエンシー(Frequency)」の略で、頻度という意味ですね。F0から始まって、F1が直近1年で1回来場された方、F2が2回、F3が3回になります。F3となれば、いわゆる「3回目の壁」を超えたといえると思います。
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