宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜ寮母の山本志穂美はクラブオーナー兼社長となったのか 高知ユナイテッドSCの知られざる「細うで繁盛記」<1/2>

 いよいよ終盤戦を迎えた2024年シーズン。JFLでは第24節で、ついに首位が入れ替わった。開幕7連勝で独走していた高知ユナイテッドSCが、ここに来て3連敗と失速。これを猛追する栃木シティFCが、12戦負け無し(93分)で首位に立ったのである。

 横河武蔵野FCとのアウェイ戦に0−1で敗れた翌日、高知の山本志穂美オーナー兼社長は、すべてのステークホルダーに向けて、このようなメッセージXに投稿している。

「へえ、高知の社長って、女性なんだ」──

 そんな感想を抱く人は少なくないだろう。最近はメディア露出が増えてきたとはいえ、全国リーグを戦う76のサッカークラブの中で唯一の女性社長が、実は高知にいることを知るサッカーファンは、それほど多くはないはずだ。

 高知ユナイテッドSCというクラブに関して、その成り立ちについては『サッカーおくのほそ道』で、JFL昇格を果たした2019年の地域CLについては『フットボール風土記』で、それぞれ言及している。しかし、その後の動向については、キャッチアップしていたとは言い難い。4年前の天皇杯取材を最後に、高知にはすっかりご無沙汰してしまった。

 今回、久々に高知を訪れた理由は、大きく2つ。まず、JFL 5シーズン目の高知ユナイテッドが、なぜ首位を独走し続けることができたのか。そして、クラブの旧経営陣はなぜ一新され、女性社長が就任することとなったのか。

 前者については、別稿に書いたとおり。本稿では後者について、当事者への取材から明らかにしていくことにしたい。

日本最大の「Jなし県」で感じた変化

 高知ユナイテッドSCのオフィスは、高知の観光スポットのひとつ「ひろめ市場」から歩いて5分弱。路面電車でいえば「大橋通」が最寄りとなる。今年2月に当地に移転してきたそうだ。

 オフィスを訪れたのは、春野運動公園陸上競技場で行われたJFL20節、FCティアモ枚方戦の翌日。916日は月曜日だったが、敬老の日で祝日だった。15日に高知に入って試合を撮影。周辺取材ができるのは17日の昼までだったので、試合翌日の祝日に取材に応じてもらえるのは、大変ありがたくも恐縮してしまった。

 鍵がかかっていない扉をあけてひと声かけると、すぐに「お待ちしていました!」というハリのある女性の声。クラブオーナーで社長の山本志穂美だ。彼女に案内されて2階に上がると、スーパーバイザー兼強化部長の松山周平も出勤していた。ふたりとも今シーズンは、ほぼ休日返上でオフィスに通っているそうだ。

 さっそく、11のドローに終わった、昨日のホームゲームについて聞いてみた。この時点で、2位の栃木シティFCとの勝ち点差は11(ただし1試合少ない)。勝敗もさることながら「平均入場者数2000人」のボーダーラインが気になっていたようだ。

「昨日は(高知)市長が率先して『あと8985人を呼び込もう!』と動いてくださったんです。けれども悪天候もあり、交通手段の面でも駐車場が少ないという点から、2233人という人数にはなってしまいました。それでも2000人は超えていましたから、そこは喜んでいいのかなと。試合内容に関しては『前半にあれだけチャンスがあったのに、もう1歩行けなかったのかな』と思ってしまいましたけれど、そこは吉本(岳史)監督にお任せしているところではありますので」

 もともとサッカー好きで、ディエゴ・シメオネが率いるアトレティコ・マドリードがお気に入り。「戦術云々よりも、球際での激しさとか人間的なドラマとか、そっちのほうに惹かれるんですよね」とは当人の弁だ。ちなみに入場者数に関しては、平均2000人達成に向けて、残り4試合で6752人となった。試合翌日には、すでに事務所に貼られた数字が更新されている。「まるで予備校みたいだな」と感じるのは、私だけではないだろう。

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