全日空横浜SCボイコット事件から生まれた市民クラブ 「5つのJクラブ強化に携わってきた男」唐井直<1/3>
Jリーグは各カテゴリーがいよいよ佳境。先週末もさまざまな動きがあった。
J1では、FC町田ゼルビアが今季初の連敗で、優勝争いからやや後退。同じく今季昇格の東京ヴェルディも、7試合ぶりの敗戦となったものの8位に踏みとどまっている。J2では、清水エスパルスが引き分けて首位から2位に。ジェフユナイテッド千葉は3連勝で4位に浮上した。そしてJ3では、Y.S.C.C.横浜が7月13日以来となる勝利で、降格圏内を抜け出して18位となっている。
ここで挙げた5クラブ(町田、ヴェルディ、清水、千葉、YS横浜)で、GMや強化担当をしていたのが、本日ご登場いただく唐井直さんである。唐井さんは1957年生まれの67歳。早稲田大学卒業後、東芝堀川町サッカー部と全日空サッカークラブでプレーしている。現役引退後のキャリアは、以下のとおり。
・清水エスパルス:強化担当(1994~99年)
・ヴェルディ川崎/東京ヴェルディ:強化担当、編成部長、GM(1999~2006年)
・ジェフユナイテッド千葉:チーム統括本部長(2006~08年)
・FC町田ゼルビア:GM(2010~12年)
・ジェフユナイテッド千葉:強化担当部長(2013~15年)
・FC町田ゼルビア:GM(2016~22年)
・Y.S.C.C.横浜:SFP(2023年~)
最後の「SFP」については、のちほどご本人に語っていただく。
この履歴に各クラブの監督人事を重ねていくと、唐井さんの水面下での仕事が浮かび上がってくる。たとえばオジー(オズワルド)・アルディレスは、4つのJクラブで指揮を執っているが、そのうち3つのクラブで唐井さんと仕事をしている。またランコ・ポポヴィッチ(このほど鹿島アントラーズの監督退任が発表された)は町田を2回率いたが、いずれも唐井さんがGMを務めていた時代だ。
唐井さんに初めて取材させていただいたのは、最初に町田のGMを務めていた2012年。それから12年の間ご無沙汰していたのだが、再会のきっかけを作ってくれたのが、田崎健太さんが上梓した『横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか』。この中で、現役時代の唐井さんが登場している。ネタバレは避けるが、のちのYS横浜となる市民クラブの立ち上げの契機となる「ボイコット事件」は、当時を知らない世代には驚くばかりであろう。
今回、唐井さんに話を聞きたかったテーマは大きく3点。まず、純然たる市民クラブはなぜ、横浜第4のJクラブとなったのか。次に、最も長く強化に関わった町田について、現状をどう捉えているのか。そして、最近相次いでいる代表歴のないJリーガーの海外流出の背景と、日本サッカー界が採るべき対策について。
いずれも単独の記事として成立するテーマ。それぞれについて、いずれも的確に答えてくれる唐井さんの深い見識と分厚いキャリアを感じながら、お読みいただければ幸いである。(取材日:2024年9月3日@横浜市)
■YS横浜よりも「栃木シティFCのほうがJ3でやっていける」?
──唐井さん、ご無沙汰しております。さっそく近況から伺いたいんですけれども、いただいた名刺の肩書はY.S.C.C.横浜の「SFP」となっています。「シニア・フットボール・ピープル」の略ということですが、これは唐井さんのオリジナルなんでしょうか?
唐井 「フットボール・ピープル」というのは、私がこの業界に入った時に、清水エスパルスで監督をしていた、オズワルド・アルディレスさんとスティーブ・ペリマンさんが使っていたんです。直訳は「サッカー人」なんだろうけど、「フットボールを愛している人」という意味で使われています。元選手でなくても使われていますね。
──いかにもイングランド的な表現ですね。オジーさんはアルゼンチン人ですけれど、トッテナムで長く活躍していましたし。
唐井 そうですね。今回、YS横浜に戻って来るにあたり、思い出したのが「フットボールと共に生きよ」というイビチャ・オシムさんの言葉でした。そういったニュアンスを加味しながらシニアを付けて「SFP」。まあ「フットボールと共に生きるおじさん」という感じで受け止めていただければ(笑)。
──そのYS横浜ですが、唐井さんがジェフ千葉の強化担当部長だった2014年、J3最初のシーズンに名を連ねました。それから11シーズン目になって、現在は残念ながら残留争いの戦いを続けています。1986年にクラブを立ち上げたひとりとして、いろいろ思うところがあるのでは?
唐井 J3ができた時に「街クラブのグラスルーツの象徴的な存在として入りませんか」とお声がけいただいたようで、それはそれで有難かったんですけど。それから9シーズンは降格のない時代が続いて、昨シーズンからJ3とJFLの入れ替えが始まりました。経営的に厳しいという話も耳に入ってくるようになって、それで戻ってきたというのが実際のところですね。
それで今季の状況ですが、やはりプロの世界ですから昇降格があるわけで、残留するにも昇格するにも結局は資本力なんですよ。YS横浜は2年前が債務超過の一歩手前の状況で、今年5月のJリーグのクラブ経営情報開示では単年度赤字でした。「心配なクラブはない」とJリーグは言っているんですけど、そんなに楽観できる状況ではないと思います。
──確かに、今季のJ3の降格圏内に沈んでいるクラブは、いずれも経営的に厳しいところばかりですよね。YS横浜と同じタイミングでJ3になった、いわてグルージャ盛岡もそうですが。
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