もしも「サッカー」じゃない人生があったなら 第06回:1994年のヴェルディ川崎
■東京クラシックは「新旧ヒール対決」?
キックオフ直前、東京ヴェルディの城福浩監督とFC町田ゼルビアの黒田剛監督が握手をかわす。どちらも表情がこわばっていて、両者の手が触れたのは、ほんの一瞬。7月14日、東京・味の素スタジアムで行われた「東京クラシック」のひとコマである。
東京クラシックの歴史は意外と古く、町田がJ2に昇格した2012年にスタートしている。ところが、このシーズンの町田はJ2最下位に終わり、あえなくJFLに降格。東京クラシックが復活したのは、町田がJ2に復帰した2016年のことである。
以来2023年まで、両者の対戦はJ2を舞台に繰り広げられてきた。そして2024年、状況は一気に変化する。まず、舞台がJ2からJ1へ。昨シーズンのJ2で1位となった町田は初めて、そしてヴェルディは16年ぶりに、それぞれJ1の舞台に立つこととなった。
初めてJ1で開催された東京クラッシク、町田GIONスタジアムでのゲームは、町田がヴェルディを5−0で圧勝。そして味スタでも1−0で競り勝ち、ライバルから勝ち点6を奪取した。J1昇格では「同期」とはいえ、大先輩格のヴェルディには、屈辱以外の何ものではなかっただろう。
一方で、こんな見方もある。それは「町田のおかげで、東京ダービーが荒れなくなった」というものだ。
昨年の天皇杯で東京ダービーが復活した際、いろいろと残念な「事象」が起こったことは、まだ記憶に新しいところ(参照)。今季、両者が敵愾心を剥き出しにすることでの、ピッチ外でのあれやこれやを懸念した人も少なくなかったはずだ。
ところが、2024年のJ1は東京のクラブが3つ。そのうち突出したのが、新参の町田だったものだから、東京ダービーの熱狂が霞んでしまった印象は否めない。もちろん両者のダービー関係は不変だが、それ以上に町田が強く、しかも「ヒール」状態となった影響は意外と大きい。
「ヒール」といえば、かつてのヴェルディを思い出さずにはいられない。全国区の人気を誇るスター軍団でありながら、憎らしいまでに強く、アンチも一定数存在していた、Jリーグ黎明期のヴェルディ。ただし、彼らが真の意味で「ヒール」扱いされるようになったのは、むしろ黄金期以降のことだ。
まずは今から30年前、2度目の(そして現時点では最後の)リーグ優勝を果たした1994年のヴェルディを振り返ることにしたい。当時の名称は「ヴェルディ川崎」。東京、ではなかった。
■1994年のCMに見る時代の雰囲気
今から30年前、私がサッカーの仕事をスタートさせた、1994年という年をさまざまな切り口で振り返る、当連載。当時の時代の雰囲気を追体験するべく、このところ1994年のCMをYouTubeで再生しながら執筆している。
つくづく便利になったものだと思う。インターネットがなかった時代、昔のCMを視聴しようと思ったらTV局か広告代理店、あるいはCM制作会社に問い合わせるところから始めなければならなかった。それが今では「Jリーグ CM 1994」と検索すれば、すぐにアクセスできる。
若き日の宮沢りえ、観月ありさ、一色紗英などに混じって、当時のJリーガーやJリーグをモティーフにしたCMが意外と多かったことに気付かされる。鹿島アントラーズの人気者、アルシンドが出演していたアデランスのCMが有名だが、他にもこんなものがあった。
Jリーグポケベル(NTTドコモ)、Jリーグカレー、Jリーグふりかけ(永谷園)、Jリーグスクラッチ(JOMO)、Jリーグエキサイトステージ94(エポック)、デカビタC(サントリー)、ミロ(ネスレ)、スナップキッズ(コダック)。資生堂も「Jリーグキャンペーン」をやっていたことに驚かされる。
とりわけ目立つのが、当時ヴェルディに所属していたスター選手たち。JリーグカレーとJリーグふりかけはラモス瑠偉。Jリーグエキサイトステージ94は北沢豪。そしてデカビタCは三浦知良。他クラブの選手もいなかったわけではないが、やはりヴェルディの選手の露出は圧倒的であった。
もうひとつ、当時のCMを眺めていて強く感じることがある。それは30年後の現代と比べて、まだまだ豊かさや余裕といったものが、この国には十分に感じられていたことだ。すでにバブルは崩壊、日本経済は低迷期に突入していたが、それでも当時のCMは、依然として楽観的な空気で満ちていた。
それはJリーグについても同様。Jリーグブームの下降が始まるのは1996年からだが、開幕時の爆発的な熱狂は1994年の時点で、まだまだ続いていた。そして、その中心でひときわ輝いていたのが、初代チャンピオンのヴェルディだったのである。
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