宇都宮徹壱ウェブマガジン

30年の観戦+17年分の資料漁りから見えてきたもの 吉田鋳造(『地域決勝/CLの基礎知識』著者)<1/3>

 今週は、2024年最初のハーフウェイカテゴリー企画として、吉田鋳造さんにご登場いただく。鋳造さんといえば、長年にわたり地域決勝(現・地域CL)をウォッチしてきたことで知られている。私がこの大会を初めて取材したのは2005年だが、鋳造さんの初観戦は1994年。この年に昇格したのが、ブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)と福島FC(福島ユナイテッドFCとは別。1997年に解散)だった。

 そんな鋳造さんが、このほど『地域決勝/CLの基礎知識』という書籍を自費出版した。ありがたくも献本いただき、ページをめくるうちに「これは世に知らしめなければ!」という使命感に駆られた。鋳造さんはこれまでも、ニッチな書籍を自費出版しては年末のコミックマーケットで発売してきた。本書はある意味、その「集大成」とも言える労作である。

 鋳造さんのホームページ「吉田鋳造総合研究所」には、社会人サッカーに関する膨大な記録データが格納されている(参照)。私もたびたびお世話になっているのだが、JFAの公式サイトで確認できる最古の地域決勝の記録は1999年の第23回大会まで。それ以前のアーカイブはない。

 本書の執筆にあたり、鋳造さんはご自身が観戦する以前の17年分(1977年~93年)の記録を探したのだが、これがまったく見つからなかったという。「アマチュアの大会だから」という理屈は通らない。なぜならJリーグが開幕する以前は、日本サッカーそのものがアマチュアだったからだ。「記録を残さなければ」という使命感が当時のJFAにあったとしても、マンパワーや予算が追いついていなかった、というのが実際のところなのだろう。

 本来ならばJFAや全社連(全国社会人サッカー連盟)がやるべき仕事が、市井のサッカー愛好家の努力と情熱によって形になっている。そこに私は、なんとも言えぬいびつな構造を感じずにはいられない。そんな中、当WMにできることは何かといえば、より多くのサッカーファンに『地域決勝/CLの基礎知識』を手に取ってもらうことだ。本稿を読んで関心を持たれた方は、こちらからご購入いただくことをお勧めする。(2024112日、オンラインにて収録)

当初は「地域決勝の30年分をまとめることから」

──鋳造さん、ご無沙汰しています。今回、上梓された『地域決勝/CLの基礎知識』。年末のコミケット(コミックマーケット)で発売されていたということですが、購入した方の反応はどんな感じだったんでしょうか。かなりマニアックな内容だけに、Jリーグしか知らない若いファンが、どのように本書を手に取ったのか興味があります。

鋳造 コミケットの時、これまでに僕が観た30年分の(地域決勝の)プログラムを「参考資料」として持っていったんです。で、興味を持たれた方に「ところで、こちらの本はどうです?」みたいな感じで『基礎知識』を勧めるわけです(笑)。

──応援しているクラブもまた、地域決勝を勝ち上がって今がある、ということを知ってもらうのも大事ですよね。

鋳造 そうそう。「このブランメルが今のベガルタで」とか、「アルビレックス新潟は、この時代はアルビレオでね」とか解説するわけですよ。そうしたら「これ、すごいですね! じゃあ、1冊買います!」って(笑)。

──なるほど(笑)。本題に入る前に、近況から伺いたいと思います。鋳造さんの「東玄関【遺構】警備日誌」から日々の暮らしが伝わってくるのですが、最近の生活について教えてください。

鋳造 一昨年の夏、30年以上にわたって勤めてきた会社を早期退職しまして、2023年はまったくの無職でしたね。急いで仕事を探さないといけない状況でもなく、僕がハウスハズバンドをやっていても、まわしていけるくらいの人生設計はできていました。妻にも了解はもらっているので、家事は僕が多めにこなして、時々旅行に行くという感じです。ただし自分のバイクで遠出するとか、青春18きっぷを活用するとか、コスト意識はすごく高くなりました。

──私も最近、似たような生活をしているので、非常によくわかります。鋳造さん、今年で還暦でしたっけ?

鋳造 そうなんです。60になると、いわゆる「シルバー人材」になるんですね。で、意外とシルバー人材向けの仕事があるんです。公園の掃除とか、駐輪場の管理とか。そういうところで小さくお金を稼ぎつつ、少しずつ死に向かっていくというのが、これからの僕の生き方です。若い人には理解しにくいかもしれないけれど、自分では納得した生活を送っています。

──そういうお話を聞くと、この本の重みがさらに増してくるように感じますね。さっそく本題に入りますが、鋳造さんが初めて地域決勝を現地観戦したのは1994年。今からちょうど30年前ということで、この大きな節目が本書を作るきっかけになったんでしょうか。

(残り 1972文字/全文: 3946文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ