宇都宮徹壱ウェブマガジン

新しい専スタが「しれっと」金沢にできた理由 金沢ゴーゴーカレースタジアム誕生秘話<1/2>

今週は久々に徹ルポをお届けする。926日、2024年のJ1およびJ3クラブライセンス判定結果が発表された。

この中で話題になったのが、現在JFL所属のクリアソン新宿にJ3ライセンスが交付されたこと。この理由についてJリーグは《施設基準に課題があるものの、東京23区というホームタウンの特性に鑑みJ3ライセンスの交付を決定》と説明している(参照)

この件については稿を改めて考察するが、ライセンス判定で重視される要件のひとつが、スタジアムであることは衆目の一致するところ。本稿では、来年2月にオープンする金沢の新しい球技専用スタジアムにフォーカスする。

広島や長崎と比べて、ほとんど話題になっていない金沢の新スタジアム。現地で取材して明らかになったのは、行政の思惑やライセンスの影響などが見え隠れする、極めて興味深い事例だったことだ。さっそく本篇をお読みいただきたい。

ネーミングライツ以外なぜか話題にならない金沢の新スタジアム

 金沢駅前で友人の車にピックアップしてもらい、およそ5分のドライブで目指す目的地が見えてきた。Googleマップには「金沢城北市民運動公園」と表示されてある。

 金沢市政100周年を記念して、1991年にオープンした金沢市民サッカー場。そのすぐ隣に、真新しい専用スタジアムが建設されている。来年2月にオープン後、ここがツエーゲン金沢の新しいホームスタジアムとなる。

「この角度から見ると、屋根と座席の傾斜で『Z』に見えるでしょ? ツエーゲン(Zweigen)の頭文字をモチーフにしているって、僕らの間では話題になっています」

 そう教えてくれたのは、スタジアムの案内役を買って出てくれた小島潔だ。本業は歯科医だが、ツエーゲンの設立した2006年からクラブに関わっており、地元の名士とのつながりも深い。今回の関係者への取材も、小島のアテンドがあればこそであった。

 この新スタジアム。ネーミングライツが決まり「金沢ゴーゴーカレースタジアム」となることが発表されたのは、今年818日のことであった。

 金沢市の説明によれば、3社から命名権の応募があったという。金額や年数に加えて、スポーツ支援の実績やネーミングの親しみやすさが決め手となり、国内外で100店舗を経営するゴーゴーカレーグループに決定。年間3111万円で5年間の優先交渉権を得た(5年で15555万円)。

「あ、カレーなのか、と最初は思いました」と語るのは、金沢市長の村山卓。そして「ゴーゴーというネーミングは『スタジアムに行こう!』という感じで、機運が盛り上がるというイメージは持ちました」とつづけた。

 ちなみに「金沢カレー」というジャンルが、全国的に知られるようになったのは2000年代半ばくらいのこと。チャンピオンカレー(通称、チャンカレ)の創業者である田中吉和がレシピを開発したとされる。実はチャンカレは、ツエーゲン金沢のゴールドパートナーなのだが、新スタの命名権を獲得したのはライバルのゴーゴーカレー。その点について記者に問われた市長は、このように答えている。

「金沢カレーは、金沢の食の売りのひとつ。カレー同士で潰し合うのでなく、むしろ一緒に盛り上がって、相乗効果になっていければいいのではないでしょうか」

 おそらく「ゴースタ」と呼ばれるであろう、北陸では初となる球技専用スタジアム。しかし、この新スタに関するニュースが、全国ニュースにピックアップされることは極めて稀だ。それこそ、今回のネーミングライツの件でSNSがざわついたくらい、と言っても過言ではない。

 2024年のJリーグでは、3つの新しい専スタがオープンする。広島のエディオンピースウイング広島、長崎のPEACE STADIUM Connected by SoftBank(ピーススタジアム コネクテッド バイ ソフトバンク)、そして金沢ゴーゴーカレースタジアム。ところが金沢の新スタは、広島と長崎に比べて、サッカーファンの間でほとんど話題になっていない。なぜか?

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