宇都宮徹壱ウェブマガジン

『もえるバトレニ』著者とfootballista編集長が語る サブスクは未来のサッカー文化を支えるか?<1/3>

 尊敬してやまない同業者のひとり、長束恭行さんの近著『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』が発売されて、間もなく1カ月になる。私には「内容」と「背景」という二重の意味で、本書は極めて興味深いものに感じられた。

 まず、内容。本書のテーマであるクロアチア代表は、直近の2回のワールドカップで準優勝と3位に輝き、つい先日もUEFAネーションズカップで準優勝している(優勝したスペインとはPK戦にまでもつれ込む大接戦となった)。そんなクロアチアについて、日本語で読める情報というものは極めて限られており、そのほとんどは長束さんの発信や原稿に依拠しているのが現状だ。

 2018年以降はコンスタントに結果を出し続け、ワールドカップでは日本と3回も対戦しているクロアチア。にもかかわらず、わが国では依然としてニッチな扱いを受けており、それゆえに本書が読者にもたらす価値は極めて高い。ただ面白いだけでない。著者のほとばしるようなクロアチア愛、そして地道に積み重ねてきた取材量には、ただただ圧倒されるばかりである。

 読み進めながら気になったのが、本書が生まれた背景。いくら結果を出し続けているとはいえ、クロアチア代表をテーマとした書籍というのは、版元にとってかなり勇気がいる決断だったはずだ。なぜ、このチャレンジングな企画は、実現したのであろうか? そのヒントとなるのが、本書がソル・メディアから出ていること。同社は、footballistaの発行元でもある。

 そこで今週は『もえるバトレニ』著者の長束さん(写真右)に加え、footballista編集長の浅野賀一さんにもご同席いただき、このようなニッチなサッカー本が生まれた背景から探ってみることにした。インタビューから見えてきたのが、無料メディアが抱えるジレンマとサブスクの可能性。本書が気になる方はもちろん、サッカーメディアの未来が気になる方にも、ぜひチェックしていただきたい。(取材日:202368日@東京)

【編集部より】本稿のサムネイル写真3点は、いずれも長束さんからご提供いただきました。また626日(月)22時より、Twitterにて長束さんをゲストにお迎えしての「#聴くWM」を公開します。こちらもお楽しみに!

なぜクロアチアの原稿はサブスクと相性がいいのか?

──今日は『もえるバトレニ』について、著者の長束さんとfootballista編集長の浅野さんにお話を伺います。まず確認ですが、浅野さんは本書の編集者ではないんですよね?

浅野 そうです。初出のfootballista WEB(サブスクリプション・サービス)での編集は、僕がメインでやっていたんですが、書籍編集は編集部の赤荻悠が担当しました。大まかな書籍の全体構成の部分は、最初にご相談させていただきましたが。

長束 第2章のワールドカップ・カタール大会でのクロアチアの戦いについては、基本的に試合翌日にアップしていたものです。導入部は事前に準備しつつ、試合内容は勢いで書いていた感じでした。その時、僕の原稿にずっと向き合ってくれていたのが浅野さんでした。

 それ以外の章のインタビューであったり、クロアチア代表の注目選手であったりの原稿も、ごく一部を除けばfootballistaのサブスク版で出したものです(参照)。第1章は書き下ろしで、ユーロ2008からカタール大会予選までを描いています。

──ありがとうございます。今回、著者の長束さんだけでなく、浅野さんにも同席していただいた一番の理由が、この「サブスク」なんですよ。ウェブ版のfootballistaがサブスクだったからこそ、ワールドカップ期間以外でもクロアチアの記事が定期的に掲載され、一定以上の質と量が担保できたからこそ、本書の書籍化が可能になったのではないか、と。この仮説、合っています?

浅野 おそらく、その通りだと思います(笑)。

長束 無料のネットメディアの場合、ワールドカップで勝ち上がらないと、クロアチア代表の原稿依頼は基本的に来ませんからね(笑)。

──そんな中、footballistaのサブスクからは、定期的な原稿依頼があったと。浅野さん、理由を教えていただけますか?

浅野 無料メディアの場合、PVに応じた広告収入で成立しています。一方、サブスクのような有料メディアの場合、コンテンツの評価はPVだけではなく「この記事にお金を払って読んでくれる人がどれだけいるのか」なんです。極端な話、5人でも10人でも深く刺さるかどうか、いかに人の心を動かせるかが評価基準になってきます。長束さんの場合、クロアチアについて書いた記事の熱量がすさまじいので「これはきっとサブスクにハマる」という目算が、まずありました。

──長束さんがfootballistaのサブスクで、定期的にクロアチアの記事を書くようになったのが2021年から。書き手として、サブスクとの相性はどう感じていたのでしょうか?

長束 本音を言うと、最初はサブスクに抵抗があったんですよ。僕のポリシーとして、クロアチアというマイナーなテーマゆえに、なるべく広く読まれることで知っていただきたい、というのがまずありましたから。ところが実際に書いてみると、自分のテーマとサブスクが意外と相性がいいということに気が付いたんです。特に「いいな」と思ったのが、字数の制限がないこと。

 クロアチアの場合、たとえばスペインやドイツなどと違って、前提となる部分の説明を書く必要があります。ですから、どうしても長くなるんですよね。歴史とか文化とか民族についても、イチから言及する必要がある。スペインやドイツだったら3000文字で収まるコラムも、クロアチアだと倍以上が必要になるんですが、それだけ熱量も込められることがわかったんですよ。

浅野 ちなみにカタール大会期間中の集計で、長束さんのクロアチア記事がPVランキングの上位に複数入っていました。前回のロシア大会でも準優勝していますし、ルカ・モドリッチもMVPに選ばれたこともあるでしょうけど、長束さんの記事の熱量が読者に届いたと感じています。あと、われわれが想定した以上に、クロアチアのコアなファンがいたのかもしれません。

長束 ラウンド16で日本と対戦したことで、さらに注目度がアップした部分も、間違いなくあったでしょうね。ちなみに、Twitterで見ると「長束さんの記事を読みたいから」という理由で、サブスクに入ったというツイートもありました(笑)。

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