秋春制が「魔法の杖」とはならなかったロシアの場合 シリーズ「シーズン移行問題」を考えるヒント<3/3>
今週は、Jリーグファンの間で議論を二分している「シーズン移行問題」について、徹ルポという形でフォーカスしている。木曜日の積雪地域のクラブのサポーター、金曜日のWEリーグのWB(ウィンターブレイク)につづいて、最終回となる今回は「ロシア」に注目したい。
ロシアといえば、今となっては「戦争」のイメージしかないが、実は2011年に春秋制から秋春制にシーズン移行している。その10年後、タイも同様のシーズン移行をしているが、こちらはコロナ禍が理由。それに対してロシアは「UEFAの大会での好成績」を目的としていた。
いわば日本と同じ理由で、ロシアはシーズン移行を断行したわけで、当然ながらJリーグもロシアの事例は調査していると考えるのが自然だろう。ところがシーズン移行に関する会見で、Jリーグがロシアの事例について言及した形跡はない。
実際のところ、シーズン移行となったロシアの国内リーグは、強くなったのだろうか? 逆に「不都合な真実」があるとすれば、それは何か? ロシアといえば、当WMには心強い味方がいる。一般社団法人ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所所長から、昨年10月に北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授に転じた、服部倫卓さんである
昨年のウクライナ紛争以来、緻密な情報収集と的確な分析で何度もメディアに登場している服部さん。当WMにご登場いただくありがたみを噛み締めながら、あらためてロシアにおけるシーズン移行がもたらした結果について、語っていただくことにしたい。(2023年5月16日、オンラインで取材)
■シーズン移行を主張したのはCSKAモスクワの社長
今回のお話を受けて、いろいろと調べてみると、とても興味深い事実を発見することができました。もちろんロシアと日本の事情は異なりますが、何かしらの参考になれば幸いです。
まず、ロシアはなぜシーズン移行に踏み切ることになったのか? 大きな理由は、やはりCLやELといった国際大会で好成績を挙げることでした。それを主導していたのが、本田圭佑が在籍していた当時からCSKAモスクワの社長を務めているエフゲニー・ギネルです。
本田が所属していたCSKAが、ロシア最高のCLベスト8に食い込んだのは、ご記憶の方も多いと思います。それで野心を強めた社長が、ロシアがUEFAの大会で結果を出すには、西ヨーロッパにシーズンを合わせるのがマストであると強く主張したんですね。もちろん慎重論もあったんですが、CSKAをはじめビッグクラブ主導で、ロシアのシーズン移行は決まりました。
これが秋春制にした一番の理由ですが、すべてではありません。3割くらい別の要因があって、これがなんと「ウクライナ」なんですよね。
実はウクライナは、ソ連から独立してすぐ、1992-93シーズンから西欧と同じ秋春制を導入しているんです。当時から西側志向が強かったのと、ロシアと比べてそれほど寒くはなかったのが理由だと思います。実際、ディナモ・キエフやシャフタル・ドネツクは、CLでも何度か好成績をあげています。そんなウクライナを横目で見ながら「俺たちもシーズンを合わせれば」みたいなことを、ロシアが考えていた可能性はあったでしょうね。
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