【無料公開】映像があふれる時代だからこそ「皆が楽しめる場」を ヨコハマ・フットボール映画祭2023レビュー<1/3>
ベストセラー自伝の映画化『I AM ZLATAN / ズラタン・イブラヒモビッチ』© Foto Mark de blok
■注目はズラタンのルックスと「ミネイロンの惨劇」の再現性
──海外の作品が続きます。スウェーデン映画の『I AM ZLATAN/ズラタン・イブラヒモビッチ』。言わずとしれた、スウェーデン代表のイブラヒモビッチの自伝的映画ということでしょうか?
福島 ズラタンの自伝は日本でも2冊翻訳されていて、僕らのサッカー仲間が関わっているわけですが(笑)、こちらは彼のフットボール人生の前半部分を描いた映画作品です。名前からもわかるとおり、彼はもともと両親が旧ユーゴスラビア出身なんですよね。
──父親がボスニャック人、母親がクロアチア人で、移民先のスウェーデンで出会って結婚しているんですよね。ですからズラタンは移民2世ということになります。
福島 それで彼が生まれ育った、ローゼンゴードという街が出てくるんですけれど、わりと荒んだ雰囲気の団地の中に彼の家があるんですよね。ズラタン自身も学校の先生の軋轢があったり、すぐに自転車を盗んで問題になったり、要するに問題児だったわけですが、サッカーの才能だけはあった。それで地元のクラブのマルメで頭角を現すようになり、オランダの名門のアヤックスに移籍。そこからどう世界的なスターへの階段を駆け上がっていくか、という感じの作品です。
──こういう有名選手のストーリーを映像で表現する場合、本人とどこまで似ているか、というのはすごく気になりますね。さすがに身長195センチで、ルックスが典型的なバルカンルーツという役者は、なかなか見つからないと思いますが。
福島 まあ、顔が似ているかどうかと言えば、似ていないと思います(苦笑)。あと、アクロバティックなゴールシーンが再現されているわけでもないですね。むしろチーム内でのさまざまな軋轢をどう乗り越えて、さらにフットボーラーとして成長しながらユベントスに羽ばたいていく、というところで映画は終わっています。
問題を抱えた家族がワールドカップの旅に出る『バック・トゥ・マラカナン』
──次の作品は『バック・トゥ・マラカナン』。ブラジルとドイツとイスラエルの合作という、ちょっと変わった組み合わせですね。
福島 これは3世代によるロードムービーですね。おじいちゃんはブラジルからイスラエルに移民した人で、1950年ワールドカップの「マラカナンの悲劇」を見ているという設定。それで2014年にブラジルで開催された、ワールドカップを3人で観に行こうと。「今度こそマラカナンで優勝だ!」という感じで、キャンピングカーで旅を始めるわけです。
──準決勝でドイツにボコられるとは夢にも思わずに。
福島 そうそう。で、おじいちゃんは心臓の病気を抱えていて、その息子は奥さんに逃げられて、孫はサッカーよりもネットゲームが好きで。当然、ギクシャクする展開もあるんだけど、最後は家族としての絆を再確認するという、けっこう感動的な話です。
──実際にワールドカップの試合のシーンは出てくるんでしょうか?
福島 許諾の問題があってピッチのシーンは映らないんですけれど、クライマックスとなる準決勝のドイツ戦は、失点を重ねる様子が電光掲示板のスコアから伝わってくるという演出はあります。このブラジル大会は、日本からも多くのサポーターが現地観戦していると思いますので、当時を思い返しながら楽しんでいただければと思います。
──考えてみれば、あのブラジル大会からもう9年も経つんですよね。ところで、コメントのなかった澤野さん。ここまでの作品の中で、印象に残っているものはありますか?
澤野 私はやっぱりズラタンの映画ですね。個人的な思い出があって、私は元イタリア代表のロベルト・バッジオが大好きなんですが、現役時代の晩年に「貴方の系譜を継ぐファンタジスタは誰だと思いますか?」という質問に対して、彼が挙げた名前がイブラヒモビッチだったんですよね。当時はアヤックス所属でしたが、まだ日本ではそんなに知られていなかった頃の話で、私もその時に初めて彼の名前を知ったくらいなんですよ。
──当時からズラタンの才能に着目していたバッジオもすごいですよね!
澤野 そうなんですよ。ですから「ああ、これが新しい時代のファンタジスタなんだろうな」って思いながらズラタンのプレーを見ていました。映画でもそんな彼の物語にも引き込まれましたね。
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