宇都宮徹壱ウェブマガジン

復刻版『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』 ナントからニュルンベルクへ クロアチア<3/3>

復刻版『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』 ナントからニュルンベルクへ クロアチア<2/3>

クロアチアの「プリンス」ニコ・クラニチャルの素顔

 スプリトを本拠とするハイドゥク・スプリトは、ディナモ・ザグレブと並ぶクロアチアの名門であり、当然ながら両者は熾烈なライバル関係にある。ちなみにディナモのOBは、ボバン、シューケル、プロシネチキ。ハイドゥクのOBは、ビリッチ、ロベルト・ヤルニ、アレン・ボクシ ッチ、そしてアサノヴィッチ。「98年組」の大半が、この2チームの出身者で固められていることからも、国内における影響力の強さは容易に想像できるだろう。 

 そんなディナモとハイドゥクを渡り歩いた、ある意味「無謀な男」に、これから私はインタビューを試みようとしている。ニコ・クラニチャルである。 

 昨年(2005年)1月、クラニチャルはディナモからハイドゥクへの電撃的な移籍を果たした。 移籍を決意させたのは、フロントとの確執による出場機会の激減とされているが、どんな理由であれ、国内最大のライバルチームへの移籍は、筆舌に尽くし難い憎しみを買うことになる。実際、ザグレブにおけるクラニチャルの評価は、現役の代表選手としては最悪のものであった。「ユダ」の烙印を押され、今なおスタジアムでは憎悪に満ちたブーイングの対象となっている。 

 あえて茨の道を歩み続ける、クロアチア代表のプリンス。その素顔は、どのようなものか。クラブハウスでのマッサージを終えて、私の目の前に現れたクラニチャルは、黒尽くめのファッションで身を固めていた。185センチの長身。つややかな黒髪と長いまつ毛。そしてうっすらと伸びた口髭。古今の粗野で無骨なバルカン・フットボーラーのイメージとは180度異なる、まるでビジュアル系アーティストのような相貌である。 

 クラブハウスに隣接するカフェに腰を落ち着けると、クラニチャルは迷うことなくオレンジジュースとカプチーノをオーダーし、たっぷり注がれたクリームを幸せそうに舐めていた。どうやら、甘いものには滅法弱いようだ。クロアチアの中心選手として、この男が最も警戒すべきは、 実はブラジルでも日本でもなく、その太りやすい自身の体質なのかもしれない。 

 ともあれ私は、さっそくプリンスに、アルゼンチン戦のことから尋ねてみた。 

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