宇都宮徹壱ウェブマガジン

「フロンターレみたいなクラブが全国にあればいいよね」 シャレン!アウォーズから考える社会連携の意義<1/3>

 今週は「Jリーグの日」(5月15日)に発表される、シャレン!アウォーズがテーマ。そこで公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)サステナビリティ部 社会連携グループのグループマネージャー、鈴木順さんのインタビューをお届けする。

 実は当初、本稿はもう少しあとに掲載する予定だった。ところが、川崎フロンターレのサポーターグループ「川崎華族」が45日の試合後に掲出した横断幕の一件を知り、さらにクラブ側のリリースを読んで、このタイミングでの掲載を決めた。

 ご存じの方も多いと思うが、Jリーグが2018年からスタートさせた社会連携(シャレン!)は、フロンターレが続けてきた地域貢献の影響を色濃く受けている。現役時代の中村憲剛が、当時の村井満チェアマンとの対談の際に「Jクラブが個別に取り組んでいる、地域貢献や社会貢献の活動について、もっとJリーグと一緒になって取り組むことはできないでしょうか?」と直訴。これが20168月の話で、のちのシャレン!へとつながってゆく。

 今回、ご登場いただく鈴木さんも、実はフロンターレの出身である。1972年生まれで、東京都出身。東日本大震災をきっかけに2011年にフロンターレに入社し、5年後に岩手県陸前高田市で開催された「高田スマイルフェス2016にも深く関与している。

 横断幕掲出から3日後にリリースされた、吉田明宏社長の声明には《ご指摘については真摯に受け止め、早急に改善し、これまで以上に皆様との交流を深めていくつもりでおります。》と記されている。これにて一件落着、と思いたい。と同時に社会連携の意義、そして川崎フロンターレがJリーグに与えた影響についても、この機会に知っていただければ幸いである。(取材日:2023328日@東京)

「シャレン!だったらJ1クラブに勝つことができる」?

──今日はよろしくお願いします。今年のシャレン!アウォーズでは、私もメディア賞での選考委員を務めさせていただきましたが、過去最多となる60クラブが参加していて選ぶのが大変でした(笑)。それでも今年のシャレン!アウォーズの公式サイトを見ると、サムネイルだけで食いつきたくなるものがたくさんあって、とても面白かったです。

鈴木 クラブの個性が出ていますよね。いかにも「社会連携」という硬く見える企画もあるんですけど、たとえばヴァンラーレ八戸の「俺たちのスタミナヴァンたれにんにくマシマシ」って、思わずクリックしたくなりませんか(笑)?

──なります、なります(笑)。青森県といえば、にんにくの産地として有名ですからね。そういえば福島ユナイテッドFCが始めた農業が、いつの間にか他クラブでも取り入れられているのが嬉しいです。このサイトを見て、能動的というか、自発的かつ主体的かつ積極的にシャレン!アウォーズに参加しているクラブが増えているように感じました。確認ですが、シャレン!はホームタウン活動と違って、Jリーグ規約で義務にはなっていないんですよね?

鈴木 そうです。ですので、むしろ「自分たちのやっている活動を知ってほしい」というクラブのほうが多いと思いますね。アウォーズという形式については「競い合う必要があるの?」というご意見もあります。それでも今は、いろんな人を巻き込みながら、シャレン!の知名度も少しずつ上がっています。ですから競い合うというよりは、自分たちの地域にとって良いと思われることは真似よう、といった感じにもなっていますね。

──このサイトの良いところは、J1とかJ2とかJ3といったカテゴリー別ではなく、あえてフラットにして北から南まで各クラブの活動を紹介しているところです。これを見ていて思い出したのが、今年で終了となったマスコット総選挙でした。確かに上位陣が固定化されていた面はありましたが、J3クラブがJ1クラブに挑戦できるという意味においては、シャレン!もマスコットも同じだなと思いました。

鈴木 ここまで3年連続で「メディア賞」を獲得しているのが、J3のガイナーレ鳥取ですからね。社長の塚野(真樹)さんも「試合ではJ1に勝つのは難しいけれど、シャレン!だったら勝つことができる」みたいなことを言っていました(笑)。

──もちろんJクラブの本質はサッカーであるわけですけれど、カテゴリーの違いをいったんフラットにして、それぞれのシャレン!活動を相対的に評価していくというのは、とても良い試みだと思います。

鈴木 シャレン!の場合、地域課題解決という重要なテーマがあって、それは地域性がものすごく影響しているんですよね。今回のアウォーズのサイトが、地域ごとにまとめて紹介しているのも、地域課題が似ていると思われる近隣クラブに対して「隣は何をやっているのかな?」と比較できるようにしたかったからです。もっとも九州のJクラブからは「ウチらはずっと下までスクロールしないと見てもらえない」というコメントをいただいていますが(苦笑)。

──でも北のクラブが有利かといえば、ぜんぜんそんなことはないですからね(笑)。ところで「ファン・サポーター選考賞」は投票で決まるようですが、マスコット総選挙のようにクラブの大小で結果が左右されるようなことはないのでしょうか?

(残り 2252文字/全文: 4390文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ