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長谷部誠は欧州で指導者ライセンスを取得できるか? モラス雅輝が語るUEFAとJFAとのギャップ<3/3>

長谷部誠は欧州で指導者ライセンスを取得できるか? モラス雅輝が語るUEFAとJFAとのギャップ<2/3>

 

UEFAのクラブは非欧州系の指導者を求めていない?

──UEFAのライセンスは、大体何歳くらいから取得できるのでしょうか?

モラス 下のライセンスは、16歳から取り始めることはできます。当然ながら、BとかAになると、ある程度のレベルでの指導が求められるので、それなりに時間がかかります。たとえばですが、僕がオーストリア2部で監督をしていた時のコーチが、Aを取りたくて応募したんですけれど、監督でないとポイントが付かないということでコースに参加できなかったんです。それで彼は今、3部の監督をやっているんですが、それくらい厳しいんですよ。

──日本のS級ライセンスは、最短で4年かかるのは「長すぎる」という意見もありますが、UEFAと比べたらまだ楽な気がしてきました(笑)。いずれにせよ、日本人監督がヨーロッパで活躍するには、何とか頑張ってUEFAのライセンスを取得する以外になさそうですね。たとえば長谷部誠が引退後、ドイツで監督をする可能性はあり得るでしょうか?

モラス こればかりは「やってみないとわからない」としか言えないですよね。確かに長谷部は、選手としてはドイツで申し分ない実績を残しています。けれども結局は、現役時代に活躍した元選手が、ライセンス取得ではそこまで優遇されないという話に戻ってしまうんですよ。余談になりますが、ドイツでは1990年のワールドカップ優勝メンバーに、ライセンス取得が優遇されたことがあったんです。けれども結局、誰ひとりとして結果を残せませんでした。

──ギド・ブッフバルトは浦和レッズを優勝させましたが、ヨーロッパでは難しかったのかもしれませんね。ユルゲン・クリンスマンもドイツ代表監督時代、自国でのワールドカップで一定の結果を出しましたが、副官のヨアヒム・レーヴがいればこそだったと思いますし。話を戻しますが、日本人指導者がUEFAライセンスを取得するには、モラスさんのように若くしてヨーロッパに飛び込んで、現地の言語と生活習慣と指導者メソッドを学んでいくのが、実は一番の早道ということになるんでしょうか?

モラス それは間違いないと思います。現場で指導するということは、ただサッカーを知っているだけでなく、現地の社会に溶け込む必要があるからです。指導者は戦術さえわかっていればいいという話ではなくて、高いマネジメント能力も求められます。そのためには社会的、教育的なバックグラウンドを理解する必要もあります。そうでないと、いつまで経っても「外国から来た指導者」としか見てくれません。

 それにヨーロッパの監督が向き合うのは、その国の選手だけではないですからね。東欧系もいれば、南米系もいれば、アフリカ系もいるわけです。普通に10から15くらいの異なる国籍の選手をひとつのチームにまとめ上げなければならない。海外でのプレー経験があるとか、Jクラブを率いたことがあるとか、そういう理由で欧州クラブの監督ができるわけではない。それは日本だけの話ではなくて、南米やアフリカの指導者にも言えることですよね。

──確かに、チャンピオンズリーグに出場するようなクラブの中に、非欧州系の監督はほとんどいないですよね。アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネくらいでしょうか。

モラス これだけ南米やアフリカの選手がヨーロッパで活躍しているのに、監督となると非常に限られているのが現状です。それは要するに、ヨーロッパのクラブは、わざわざ他の大陸の指導者を求めていないということなんですよね。

──この話は突き詰めると「差別だ」みたいな話になりがちですよね。モラスさんご自身の経験として、どんなに完璧なドイツ語を話せても、やっぱりアジア人と見られてしまうことってありましたでしょうか?

モラス さすがにオーストリアのプロサッカー界で、僕のことを知らない人はいないと思います(笑)。顔立ちはアジア人ですけれど、もうずっとオーストリアで暮らして、この仕事を続けていますからね。まあ、僕の場合は極めて特殊な例ですが。

──今後、ヨーロッパで指導者になりたい日本の若者は、それなりにいると思います。モラスさんがアドバイスするとしたら?

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