長谷部誠は欧州で指導者ライセンスを取得できるか? モラス雅輝が語るUEFAとJFAとのギャップ<1/3>
先日、アイントラハト・フランクフルトの長谷部誠が、40歳を迎える来シーズンも引き続きプレーすることが発表された。
まだまだ現役で頑張ってほしいと思う一方で、スパイクを脱いでからの彼のキャリアについて、あれこれ想像してしまうのは私だけではないだろう。そして「欧州のクラブで指揮を執る日本人監督」という期待を、元日本代表のキャプテンに投影してしまうのも、決して私だけではないはずだ。
そういえば今年1月、当時のJFA専務理事が「日本人の指導者がヨーロッパのリーグのクラブやFIFAランキング上位のA代表で監督をするというフェーズにはたまたま至っていない」と発言していた(参照)。しかしながら実際には(暫定ながら)、オーストリア2部のクラブを率いた日本人監督はいる。今回ご登場いただく、モラス雅輝さんだ。
「日本人の指導者がヨーロッパのリーグのクラブの監督をしたり…というフェーズには…至っていない」と@JFAの須原専務理事がメディアに語られた。
私は欧州のプロクラブで1部 & 2部 & 3部で監督を務め、現在はテクニカルダイレクター。我々「指導者欧州組」も認識されるように精進したいと思う。
— モラス雅輝 – 監督@欧州 & 元コーチ@Jリーグ (@MasakiMorass) January 19, 2023
モラスさんは、1979年生まれの44歳。16歳でドイツに留学し、18歳で指導者になることを決意。オーストリアでUEFAのAライセンスを取得し、FCレッドブル・ザルツブルク、浦和レッズ、FCヴァッカー・インスブルック、SVホルン、ヴィッセル神戸などでコーチやスポーツダイレクターを務め、現在はSKNザンクト・ペルテンでテクニカル・ダイレクターとして活躍している。
日本と欧州の指導現場に知悉したモラスさんに、ぜひとも確認したかったのが「なぜ欧州で活躍する日本人指導者が極端に少ないのか?」である。日本人選手の数に比べて、欧州クラブのトップチームを指揮する日本人指導者が、実質的に不在なのはなぜか。ライセンスの問題以外にも、何か理由があるのだろうか。モラスさんとの語らいから浮かび上がってきたのは、指導者ライセンスに対する、JFAとUEFAとの認識のギャップであった。
ギャップついでに、もうひとつ。Jリーグを見ているわれわれは、かつての名選手がS級ライセンスを取得し、Jクラブを率いることを当たり前のことのように受け止めている。しかしモラスさんによれば、欧州にはそうした感覚は希薄だという。今回は「指導者ライセンス」を切り口に、日本と欧州との距離感を確認してみることにしたい。(取材日:2023年2月20日@東京)
※インタビュー時以外のモラスさんの写真は、ご本人から提供いただきました。
■「スタグルに関しては、ヨーロッパはもっと学んでほしい」
──今日はよろしくお願いします。先週末、FC東京vs浦和レッズの試合をご覧になったとTwitterで拝見しました。Jリーグ観戦はいつ以来だったのでしょうか?
モラス コロナが拡大するまでヴィッセル神戸で仕事をしていましたので、2年半ぶりですね。味スタでの試合だけでなく、FC町田ゼルビアvsベガルタ仙台も観戦しました。こちらはJ2でしたが、J1に負けないくらいの素晴らしい雰囲気を作り出していましたね。あと、いつも思うんですけど、Jリーグはスタジアムグルメが本当に素晴らしいと思います。
──オーストリアにスタグルはないんですか?
モラス オーストリア、ドイツ、スイスといった国々ですと、基本的にソーセージですよね。美味しいんですけど、種類があまりなくて。僕の妻が静岡出身なので、清水エスパルスのホームゲームにも行ったことがあるんですが、スタジアムで普通に海鮮丼とか売っているじゃないですか。素晴らしいですよ! スタグルに関しては、ヨーロッパはもっと学んでほしいですよね。
──そう言っていただけると嬉しいです(笑)。ところで今回の帰国ですが、出張だそうですね。差し支えない程度に、目的を教えていただけますか?
モラス 昨年7月、オーストリアのSKNザンクト・ペルテンというクラブのテクニカルダイレクターに就任しまして、今は強化マネジメント全体の仕事をしています。基本的には欧州市場での仕事なんですが、ウィンターブレイクを利用して、日本市場におけるネットワークをリフレッシュするのが目的でした。
──日本人選手のスカウティングが目的ではなかったのでしょうか?
モラス ザンクト・ペルテンで現在、男子の日本人選手の獲得を目指す動きは一切ありません。ただし、国際業務提携を結びたい、というのはあります。それはJクラブだけでなく、日本の教育機関も含まれています。実際、フランクフルトが東京のTSR(東京スポーツ・レクリエーション専門学校)と2014年から業務提携を結んでいますし。
実はザンクト・ペルテンは、ドイツ・ブンデスリーガのヴォルフスブルクと国際業務提携を結んでいるんです。競技面でもビジネス面でも、両クラブは完全につながっていて、国際的なスカウティング情報も共有しています。ですので、私の日本での活動は、実はヴォルフスブルクのためでもあるんです。
──ヴォルフスブルクといえば、長谷部誠と大久保嘉人がプレーしたクラブですが、今も日本市場には関心があるのでしょうか?
モラス 関心はあるとは思いますが、その後は日本人選手の獲得は一度もないんですよね。もしもいい選手が見つかれば、われわれのクラブだけでなく、ヴォルフスブルクにも情報を共有することになります。もちろん、ある程度のレベルに達していることが条件ですが。
──ザンクト・ペルテンには現在、U-19日本代表に選ばれた二田理央がいますよね。
モラス サガン鳥栖からうちに来た選手ですね。昨シーズン、僕が監督していたFCヴァッカー・インスブルックが、一度レンタルで獲得しています。最初はU-23チームの所属で、オーストリア3部リーグでプレーしていたんですが、そこでの活躍が認められてトップチームに引き上げられました。いったん鳥栖に戻して、それからまたオーストリア2部でチャレンジしています。
──彼のポテンシャルについては、どうご覧になっていますか?
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