宇都宮徹壱ウェブマガジン

2023年のハフカテ監督人事事情 増嶋竜也(SHIBUYA CITY FC監督)

 今週は久々にハフカテ(ハーフウェイ・カテゴリー)を取り上げることにしたい。

 ハフカテとは私が考えた造語で、日本サッカーのピラミッドの中腹(ハーフウェイ)に位置するカテゴリーのこと。ここではJFL・地域リーグ・都府県ブロックリーグを指している。要するに、私の守備範囲と思っていただければ間違いないだろう。

 新シーズンを迎えるハフカテにおいて、私が注目した監督人事は2つ。すなわちSHIBUYA CITY FC(以下、渋谷シティFC=東京都1部)の増嶋竜也監督、そして福山シティFC(中国リーグ)の上野展裕監督。今週はこの両監督のインタビューをお届けする。

 増嶋さんは37歳、上野さんは57歳。親子ほど世代が違う、2人のインタビューを連続して掲載するのは、もちろん意図があってのことだ。最近のハフカテの指導者は、指導者の道に入ったばかりの若手と経験豊富なベテラン、両者のコントラストが激しくなっている。この両者のインタビューを読み比べることで、ハフカテのトレンドが見えてくるのではないか──。そう考えた次第だ。

 そんなわけで、まずは渋谷シティFCの増嶋竜也監督をお送りする。増嶋さんは1985年生まれで千葉県出身。船橋市立船橋高校卒業後、2004年にFC東京でプロデビューしている。以後、ヴァンフォーレ甲府、京都サンガF.C.、柏レイソル、ベガルタ仙台、ジェフユナイテッド市原・千葉でプレーして、2020年に現役を引退している。

 A代表には届かなかったものの、U-17から21までの各年代の代表に名を連ね、2005年のワールドユース(現U-20ワールドカップ)にも出場。これほど輝かしいキャリアを持つ増嶋さんが、東京都1部で指揮を執る。最初は驚きだったものの、前任の戸田和幸さんが今季からSC相模原の監督に就任したことを考えると、キャリアの入り口としては悪くないのかもしれない。

 果たして、どのような思いがあって、増嶋さんはハフカテでの指導者を志したのであろうか? 駒沢公園の人工芝グラウンドで、トレーニングを終えたばかりの当人に直撃した。(取材日:2023124日@東京)

<目次>

*元Jリーガーから東京都1部の世界はどう見える?

*引退後の「#Reback」プロジェクトと母校での指導

*なぜJクラブのコーチではなく都1部の監督なのか

Jリーガーから東京都1部の世界はどう見える?

──今日はよろしくお願いします。渋谷シティ FCは現在、東京都社会人サッカーリーグ1部ですが、選手兼任だった阿部翔平さん、そして戸田和幸さんに続いて3人目の元Jリーガー監督になります。増嶋さんは現役引退後、母校の市立船橋でコーチをされていましたが、都リーグ1部の社会人チームを指導してみて、どんなことを感じていますか?

増嶋 高校生はまだ未成年で、学校の部活動の一環でやっている子が多いので、サッカーに対する温度差や熱意にはばらつきがありました。ですからサッカー以外のところも、ちゃんと見てあげる必要がありましたね。それに対して社会人の場合、仕事と両立させながら本気でサッカーをやりたい人たち。サッカーを続けたい、サッカーで上を目指したい、という人たちばかりなので、温度差というものはほとんどないと思います。

──多くの選手が、サッカー以外にも仕事を持っていて、勤務先もフィジカル面での負荷にばらつきがあると思いますが、その点についてはいかがでしょう?

増嶋 これまでいる選手は、仕事との両立に苦労している印象はないですね。ただし新しく入ってきた選手に関しては、わりとトレーニングがハードなので、特にメンタル面でのケアは必要かなと思っています。

──今日は駒沢公園の人工芝での練習でしたが、練習環境での苦労を感じることは?

増嶋 ほとんど感じないですね。これだけちゃんとした人工芝があって、あとはボールと選手が揃っていれば何も問題ないです。確かに都内だとグラウンドの確保が大変ですけれど、選手もスタッフも「サッカーをやりたい」という思いでは一致しているので。結果、こういう場所でトレーニングができていることについては、本当に感謝しかないです。

──東京都1部というカテゴリーについて伺います。まだリーグ戦は始まっていませんが、選手のプレーや理解度から、どれくらいのレベルだと感じていますか?

増嶋 思っていた以上に、レベルが高いなっていうのが、この1週間で感じた印象です。おっしゃるとおり、リーグ戦はまだ始まっていないので、イメージできていない部分があるんですが「これくらいはやれるんだ」とか「このレベルの選手も来るんだ」という驚きはありますね。

──Jリーガー時代、天皇杯でアマチュアチームと対戦することがあっても、せいぜいJFLとか地域リーグだったと思います。そのさらに下のリーグとなると、なかなかイメージできない世界だったと思いますが。

増嶋 そうですね。ただ自分の中では、そんなに(指導する上で)レベル的なギャップは感じずにやれています。何の問題もないという認識ですね。

──選手との初対面は111日だったそうですが、どんなことをおっしゃいましたか?

増嶋 自分がチームを率いるにあたって、サッカーに対する姿勢や思い、そして「このチームを大事にしていきたい」ということは伝えました。その上で「仕事との両立で大変だと思うけれど、ピッチに立った時にはサッカーへの思いを大切にしてほしい」ということを言いましたね。

──スローガンとか、キャッチフレーズみたいなものはありますか?

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