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六本木OLが世界のレースで走り続ける理由とは? 鈴木ゆうり(#海外マラソンコレクター)<2/2>

六本木OLが世界のレースで走り続ける理由とは? 鈴木ゆうり(#海外マラソンコレクター)<1/2>

 

2/2>目次

*「42.195キロを走っていると視線がフラットになる」

*「レースがあるのに参加できない」辛かった2021

*欧州転戦中、初めての出版企画が白紙になって大号泣

※写真はすべて鈴木ゆうりさん提供

42.195キロを走っていると視線がフラットになる」

──ゆうりさんのnoteInstagramを見ていると、マラソン大会で知り合った人たちと、すごく親しげにツーショット写真を撮っているじゃないですか。現地の人たちと仲良くなれるコツみたいなものって、あるんでしょうか?

鈴木 どこの国でも感じることなんですが、みんなで42.195キロを走っていると視線がフラットになるんですよね。年齡とか性別とか人種とかを超えて、ある種の連帯感が生まれるんです。言葉が通じなくても、走ることで自然と打ち解けるようになるんですかね。

──コミュニケーションに関していえば、おそらく英語は問題ないみたいですけれど、それ以外の言語の国に行って苦労したことは?

鈴木 ルワンダがそうでしたね。公用語がフランス語だったので、何を言っているのかさっぱり(笑)。なぜ行ったかというと、それこそキリマンジャロマラソンに走った時に、ちょうどケニアからタンザニアに向かうまで、23週間くらい間があったんですよ。それで近くの国でマラソンがないかネットで探していたら、ルワンダのルワマガナマラソンというのを見つけてエントリーしたんです。

──ルワンダって、ゆうりさんが生まれた1994年に大虐殺が起こっているんですけど、当時は知っていました?

鈴木 その時は知らなかったですね。しかも、大会があるルワマガナが首都だと思っていたら、キガリだったというのも、行く直前に知ったくらいで(笑)。それで空港からバスに乗る前にSIMカードを買うためにキオスクに入ったら、自分の前に並んでたお兄さんがたまたま英語を話せたんです。それまでフランス語しか耳に入ってこなかったので、助かったーって思いました。

 その人、30代くらいの男性でした。キガリからルワマガナまで、150キロくらいあるみたいで「だったら、僕の車で送っていってあげるよ」って言われたんです。てっきりタクシードライバーだと思って、そんなにお金は払えないって言ったら、どうやら普通のビジネスマンみたいで。

──それって、すごく怪しくないですか?

鈴木 私、アフリカで詐欺に遭わないための目安として、その人の携帯を必ずチェックするんです。そうしたらiPhoneの最新機種だったので、おそらくルワンダの中では裕福なんだろうなと。車のダッシュボードを開けたら、めっちゃ札束が入っていて「おいおい、セキュリティは大丈夫か?」って(笑)。

──何の仕事をしている人なんでしょうかね? ルワンダは復興後、アフリカ随一のIT立国となりつつあるというニュースを見た記憶があります。

鈴木 話を聞くと、ドバイからの出張帰りのビジネスマンだったんです。確かに首都のキガリなんかは大きなビルがあちこち建っているんですが、都市部を抜けると何もなくて、今でも土を掘り返すと虐殺された人の骨が出てくるそうです。

──その人も虐殺のことは覚えていました?

鈴木 当時6歳だったとかで、やっぱり親族のほとんどが殺されたそうです。彼が言うには、自分はたまたま運良く神様が見守ってくれたおかげで、今も生きていると。その後、国民全体で復興に向けて頑張っている時に、日本のような遠い国からわざわざ来てくれる人がいるのはとてもうれしい。勇気をもらえるって言ってくれたんです。

──なるほど。内戦終結から5年後のサラエボでも、似たような経験をしたことがあるので、非常によくわかります。

鈴木 それで無事にルワマガナに着いた時に「いつ帰るの?」って聞かれたんです。月曜日って答えたら「じゃあ、今度はキガリまで送るよ」って。約束どおり月曜に迎えに来てくれて、ランチまでごちそうしてくれた上に、空港まで送り届けてくれました。その人とは今でもメル友で、コロナの時にどうしているか連絡したら「暇だから4軒目の家を建てた」って(笑)。

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