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クラブ社長から専務理事になった男の知られざる貢献 シリーズ「Jリーグ現代史」木村正明の場合<2/2>

クラブ社長から専務理事になった男の知られざる貢献 シリーズ「Jリーグ現代史」木村正明の場合<1/2>

専務理事時代に求められた「調整能力」と「to C戦略」

 村井満のJリーグチェアマン3期目。その陣容は、まさに当人が言うところの「最強のメンバー」に相応しいものとなった。

 元日本代表で、Jクラブ監督とJFA技術委員長の経験を持つ、副理事長の原博実。ゴールドマン・サックスの元執行役員で、ファジアーノ岡山を地域に根差したJクラブに育て上げた、専務理事の木村正明。そして公認会計士にして、数々の組織開発や社会貢献プロジェクトを手掛けてきた、常勤理事の米田惠美。

 いずれもチェアマンである村井が「この人」と見込んで集めた、プロフェッショナルばかり。この第1次「チームMURAI」の完成は、まさに長年にわたり人事畑を歩んできた村井の自信作でもあった。その方針は、大きく2つ。リクルートの採用基準だった「自分を超える人を取ってくる」、そして独自のポリシーである「自分のブラインドサイドを埋める」である。

 村井が木村を評価したのは、クラブ社長としての経験値、そしてゴールドマン時代の経営感覚という2軸。果たして専務理事という重責を担うにあたり、この2軸はどれほどのアドバンテージとなっていたのだろうか。木村自身の言葉からは、むしろジレンマのほうが強かったことが窺える。まずはクラブ社長としての経験値。

「オーナー社長だった時代は、最後は自分の責任でジャッジできるわけですけど、Jリーグの専務理事だとそうはいきません。それに主役はリーグでなくクラブですから、クラブが気持ちよく試合ができるように、さまざまな配慮や調整をするのが私たちの役割。そのためには、やっぱりお金が大事で、大きな財源となるのが放映権料、そしてスポンサー料と入場料です。特にスポンサー料と入場料に関しては、これまでの経験が活かせるかと思ったんですが、ここでも求められるのは調整能力でしたね」

 それでは、ゴールドマン時代の経営感覚については、どうか。

「ゴールドマンと違って、Jリーグでの仕事は『究極の裏方』でしたね。ゴールドマン時代は、50人くらいの部下を率いて200億円くらいの利益を出していました。そこにはお客さまもいればライバルもいて、大変ではあるけれどシンプルな世界だったんです。これがJリーグになると、達成すべき目標値はあるんだけど、やっぱり主役はクラブでありプレーヤー。われわれは裏方に徹して、縁の下の力持ちになるほかないんです」

 Jリーグのチェアマンとは異なり、専務理事の仕事というものは、なかなか可視化されにくい。当人の口から出てくるのは、「調整能力」とか「縁の下の力持ち」とか、やたらと忍耐が求められるナレッジばかりである。そんな中、木村がJリーグから求められた、もうひとつのミッションが「to C戦略」。これは、コンシューマー(消費者)に向けてJリーグへの関心度を高め、スタジアムの入場者数やDAZNの視聴者数を増やすことを目的とした戦略である。

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